(左から)宮沢りえ、広末涼子、川口春奈、吉谷彩子

 女優がCMに出るのは多くが知名度を得たあと。大半のスポンサーはなるべく人気のある女優を起用したいからだ。

女優のCM出演、ギャラの相場

 例えば長澤まさみ(35)の場合、デビューは2000年だが、今も続く「カルピス」のCMに起用されたのは2005年。興業収入83億円を記録した大ヒット映画『世界の中心で、愛をさけぶ』(2004年)で、ヒロイン・亜紀を演じた翌年だった。

 もっとも、中には先にCMで存在を知られる女優もいる。NHK連続テレビ小説『舞いあがれ!』に出演中の吉谷彩子(31)もその1人に違いない。

吉谷彩子

 吉谷が演じているのは由良冬子。福原遥(24)が演じる主人公・岩倉舞が入学した浪速大学の2回生である。舞が人力飛行機サークル「なにわバードマン」に訪れたところ、滅法感じの悪い先輩がいた。それが由良だ。10月24日放送の第16話だった。

 朝ドラには珍しい憎々しいキャラクターだったため、たちまちツイッターが反応し、トレンド入りした。ただし、由良や演じている吉谷の名前ではなく「ビズリーチ」。吉谷が2016年から出演しているCMのスポンサー名だった。

 吉谷は5歳で子役デビューし、TBS系の日曜劇場『グランメゾン東京』(2019年)など数々の作品に出演してきた実力派バイプレイヤーだが、まだCMのイメージのほうが強いらしい。

 だが、インパクトの強い役柄の由良を演じたことによって、吉谷の名前も広まった。もう「ビズリーチ」と呼ばれることはないはずだ。

 スポンサーの中には知名度がそれほど高くない女優をあえてCMに使うところもある。契約金が高くならないことなどが理由だ。

 芸能プロダクション幹部によると、長澤まさみや綾瀬はるか(37)ら売れっ子クラスだと契約金は年間5000万円をゆうに超える。そうでない女優も知名度があると契約金年間2000~3000万円以上かかるという。

 半面、知名度の高くない女優なら同1000万円台で済む。「それでは女優側が割に合わない」と思う人がいるかも知れないが、女優側にもメリットはある。CMによって顔を売ることが出来るからだ。スポンサーと女優でウインウインの関係になる。

大ヒットCMを生み出した広末涼子

 また、商品に清新なイメージを出すため、あえて新人を起用するスポンサーも存在する。だからCMで世に出た女優も少なくない。その代表格は広末涼子(42)だ。

デビュー当時の広末涼子

 まず1994年、高知市内の中学校の2年生のときに、「ぴかぴかフェイスコンテスト」と銘打たれたニキビ治療薬・クレアラシルのCMオーディションに出場し、ぶっちぎりでグランプリを得た。

 翌1995年に始まった同社のCMで広末は「毎日ピカピカ!」と叫ぶ。このCMは大評判となる。当時の広末はルックスがかわいらしかっただけでなく、屈託や憂いが一切感じられないという点でほかの10代のタレントとは全く異質だったからだ。突出して無垢だった。広末は同年、人気に背を押される形でフジテレビ系のオムニバスドラマ『ハートにS』で女優デビューを果たす。

 翌1996年からはNTTドコモのポケベルのCMに出演。広末が誕生日プレゼントとしてポケベルを買ってもらうという設定で、児童遊園地の滑り台で「さて、誰にベル番号を教えるかな」とつぶやく。これも大ヒットCMとなった。当時、「広末効果でクレアラシルとドコモのポケベルの売り上げが急伸した」と言われたが、決してオーバーではなかった。

 広末の印象があまりに強かったため、忘れられがちだが、ポケベルのCMには前任者がいた。1994年から2年間登場した葉月里緒奈(47)である。葉月の場合、TBS系の連続ドラマ『丘の上の向日葵』(1993年)で女優デビューしてから1年後のCM出演だった。

初代リハウスガール・宮沢りえ

 やはりCMからスタートしたのは宮沢りえ(49)。1984年に雑誌モデルとして芸能界入りしたあと、翌1985年に不二家 『キットカット』などのCMに出演。さらに1987年、三井不動産販売(三井不動産リアルティ)のCMに出演したことで、一気にスターとなる。

宮沢りえ

「今度、旭丘にリハウスしてきました。白鳥麗子です」。宮沢は三井不動産販売の仲介で引っ越してきた転校生という設定だった。当時、14歳。このCMも大評判となり、「リハウス(引っ越し)」は流行語にまでなった。その翌1988年、宮沢は映画『ぼくらの七日間戦争』の主演で女優デビューを遂げる。

 ちなみに宮沢は初代リハウスガール。スポンサーは宮沢以降も女優の卵たちを次々と登場させた。8代目は池脇千鶴(40)、10代目は蒼井優(37)、11代目は夏帆(31)、13代目は川口春奈(27)が務めた。

 この4人もリハウスガールを務めたことで知名度を決定的なものにした。「新人女優の登竜門」と称されるCMは数多いが、出身女優が最も成功しているのはリハウスにほかならない。現在の近藤華(15)は15代目。宮沢は母親役で共演している。

CM出身で活躍、今井美樹や桜井日奈子

 CM出身の女優で忘れてならないのが今井美樹(49)。1984年、今井が「1日1杯のお味噌汁で大人になりました」と口にする「ハナマルキ」味噌のCMが話題をさらった。もっとも、CM出演時の今井は女性向け情報誌のモデルだったことから、「モデルがCMに出ただけだろう」という冷めた見方も強かった。

布袋寅泰と今井美樹

 ところが、その後の今井は女優として快進撃を始める。同年、オーディションで選ばれ、山田太一さん(88)が脚本を書いた女子プロレス界のドラマ『輝きたいの』(TBS系)に新人レスラー役で主演。10代後半の揺れ動く女性心理を繊細に表現する一方、本職さながらのレスラーぶりを見せた。

 この作品で高い評価を受けたことから、その後もTBS系『意外とシングルガール』(1988年)や同『想い出にかわるまで』(1990年)などのドラマに主演。やはり女性心理を描いた作品であり、一方で歌手としても女性をテーマとする歌をうたったことから、「OLの教祖」と呼ばれるようになる。

 芸能界入り早々、CMで顔を売りまくったのが桜井日奈子(25)。2014年、17歳の時に「岡山美少女・美人コンテスト」で美少女グランプリに選ばれると、翌2015年から賃貸住宅探しサイトの「いい部屋ネット」(大東建託)のCMに登場した。

 このCMは出稿量(流れる回数)が多いため、桜井の顔を知らぬ者はいないほどになった。完全にCM先行であり、女優デビューは2年後の2016年。日本テレビ系『そして、誰もいなくなった』に出演した。2020年にはテレビ東京の深夜ドラマ『ふろがーる!』で地上波初主演も果たした。

 女優にとって、売れて契約金が高くなってからCMに出たほうが得なのか、それとも自分の宣伝にもなると割り切り、契約金の低い時からCMに出るべきなのか? その金銭的損得はほぼないと言っていいようだ。新人でCMに出始めようが、売れたら契約金が見直されるからだ。

 もっとも、スポンサーの中にはCMに出演する女優の契約金はなるべく抑えたいと考えているところもある。その場合、人気が出て契約金が高くなると、ほかの女優と交代となる。

取材・文/高堀冬彦(たかほり・ふゆひこ)放送コラムニスト、ジャーナリスト。1964年、茨城県生まれ。スポーツニッポン新聞社文化部記者(放送担当)、「サンデー毎日」(毎日新聞出版社)編集次長などを経て2019年に独立。
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