自らも舌がんを発症した医師の青木厚先生

40歳目前のある朝、歯を磨いていたら、舌が一部、白くなっていることに気づいたんです。がんの前段階でもある『白板症』だと思い、経過をチェックしていました。10か月後、ピリリとした痛みを感じるようになり『舌がんになった』と確信したんです」

 と話すのは、医師の青木厚先生。

舌の一部が白くなりピリリとした痛みが

 タレントの堀ちえみがかかった舌がん。女性に比べて、男性の患者数が多いという。

「親族は90歳越えの長生きばかりで、がんになったのは私だけ。『まさか』という思いでいっぱい。しかも、白板症から舌がんになる確率はたった5%。その確率でがんになったことがショックでしたね」(青木先生、以下同)

 幸いステージ1の状態。治療は手術だけで、抗がん剤治療は受けずに済んだ。

「当時、私は好きなものを食べて、お酒も飲んでいて体重は今より16kgも重かった。そのころ、よく風邪をひいていたので、免疫力が落ちていたのだと思います」

 人間の体内では、日々がん細胞が生まれている。健康な状態なら、身体の免疫システムががん細胞を排除するが、免疫力が低下しているとがんを発症してしまうのだ。

「免疫力を上げ、再発を防ぐために医学論文を読み『16時間断食法』を考案し実践しています。おかげで再発もせず、風邪もひかなくなりました」

食べない習慣で細胞を元気にし、がんを抑制

 青木先生が注目したのは“食べない時間”だ。

12時間以上空腹だと『オートファジー』といわれる“細胞のお掃除”が行われることがわかっています。

 エネルギー産生が増え、がんの原因となる活性酸素を抑制。免疫細胞も元気になると考えられています」

「16時間断食」するとオートファジーでいろいろな効果が(イラスト/ますみかん)

 細胞のがん化は、遺伝子のコピーミスといわれている。断食をすることで、コピーミスが少なくなり、がん細胞が生まれてくるのを抑制する。

「さらに消化で負担がかかっていた内臓が休まり、さまざまな不調がリセットされます」

 食べない時間は、胃や腸における消化吸収を考えると16時間が適切だという。

16時間断食の基本スケジュール(外出する人が多い人向け)

「1日3食の習慣は、内臓に負担をかけています。人類は長い間、飢餓状態にありました。日本で1日3食が習慣化したのは江戸後期から。生理学的に人間の身体は対応できていないのです」

 がん予防にはもちろん、がんの治療後、再発予防にも適している16時間断食法。1日の中でどこか1食を抜くだけでいい。

 ただダイエット効果が高いので、肥満度を示す※BMIが16以下の人は行わないこと。目安としては身長160cmなら体重40kg以下の人だ。

「私は朝食を抜いて、午後1時半ごろ昼食をとり、夜8時ごろ夕食をとります」

 朝昼夜、どの食事を抜くかは、それぞれのスケジュールに合わせてよい。

1日2食習慣を週1回から始めてみよう

16時間断食の基本スケジュール(家にいることが多い人向け)

 朝食をとらないと体内時計が乱れるといわれているが、「体内時計のことを考えると、朝食と早めの夕食というパターンがベスト。しかし、忙しい現代人は無理せず自分のスケジュールに合わせることが大切です」と話す。

 16時間断食は毎日行うことが理想的だが、週1回から始めてもOK。慣れてきたら日数を増やしていく。

「私の場合、月~土曜日は16時間断食を行い、日曜日は昼食もカットして24時間断食をしています」

 断食時間中でも水分はきちんと摂取しよう。

「ただし、糖質を含む飲み物はとらないようにしましょう。糖質をとってしまうと、目指すオートファジーが起こりにくくなります」

 断食で困るのは「空腹ががまんできない」ことだ。

お腹がすいたらレスキューフード

「そんなときは少量のナッツや高カカオチョコレート、ヨーグルトなどでお腹を満たすといいですよ。ナッツが私のオススメ。ナッツ類に含まれる『不飽和脂肪酸』は、オートファジーを活性化することがわかっています」

 食べてOKの時間内は基本的に何を食べてもいい。空腹時間をつくることが、健康な身体をキープ、につながる。

「空腹ががまんできない」ときはナッツ類、高カカオチョコレートなどのレスキューフードを食べる ※画像はイメージです

 ナッツ類、高カカオチョコレート、ヨーグルト、生野菜サラダ、チーズは、断食時間内に食べてもOK。ナッツ類は20g(片手の手のひらに軽くのる程度)を目安に。このほかは腹持ちのいい食品を選び、糖質を含む食品は避ける。

週2回の家トレで断食効果アップ!

 最新の研究では、空腹時に運動すると、オートファジーがより活性化することもわかってきた。そのため、青木先生は前ページで紹介した16時間断食と一緒に、運動を行うことをすすめている。

筋肉量を増やしてオートファジーを加速

「食後10時間以降、オートファジーの活性化が始まるころから、脂肪を燃やしてエネルギーにします。脂肪が減ると同時に筋肉のタンパク質もエネルギーにかえてしまうので、筋肉を増やす必要もあります」

 加齢によっても筋肉は衰えていくという。

「20代をピークに筋肉量は年1%減ります。50代から急激に減り、80代になると20代の約半分に。筋肉量が減ると基礎代謝が落ちたり、免疫力が低下しやすくなります」

 上半身、下半身の両方をバランスよく鍛えるとよい。

青木医師も実践!オートファジー活性化の家トレ

「週2回、1日合計20分を目安に、次のような運動を実践してみてください」

◆オートファジー活性化の家トレ〈1〉
【つま先上げ】

オートファジー活性化の家トレ〈1〉【つま先上げ】(イラスト/ますみかん)

 すねとふくらはぎの筋肉を使う運動。足首の動きに連携するすねを鍛えると、つまずきにくくなり転倒を予防。血流促進にも役立つ。

〈やり方〉
1.つま先を前に向け、足裏全体を床につけて立ち、腕は軽く腰にあてる。左右どちらかの足を前に出して、前後に開いて立つ。

2.前に出している足のつま先を軽く上げ5秒ほどキープ。つま先を下ろしたら、後ろの足のつま先を上げて同様に5秒ほどキープ。交互に行い繰り返す。

 1セット各5~10回を目安に。

◆オートファジー活性化の家トレ〈2〉
【ワイドスクワット】

オートファジー活性化の家トレ〈2〉【ワイドスクワット】(イラスト/ますみかん)

 太ももやお尻などの大きな筋肉を刺激する運動。お尻の筋肉は、正しい姿勢を保つのに必要で、腰痛、肩こり予防にも効果的。

〈やり方〉
1.両手を腰にあて、足を大きく開いて立つ。つま先はまっすぐ前ではなく、軽く左右に開く。

2.視線を前に向けたまま、ゆっくりお尻を沈める。上半身をやや前かがみにするとお尻に負荷がかかって、筋肉増強につながる。このとき、膝がつま先より出ないように注意。

◆オートファジー活性化の家トレ〈3〉
【上半身ひねり】

オートファジー活性化の家トレ〈3〉【上半身ひねり】(イラスト/ますみかん)

 胸と背中の運動。胸の筋肉を鍛えると、肩こりや四十肩、五十肩の予防につながる。また、呼吸を補助する筋肉が鍛えられる。

〈やり方〉
1.足を軽く開いて立ち、両手を図のようにずらして、片手は立てて、もう一方の手は前を向くように合わせる。合わせた両腕に力を入れながら、肘が伸びきらない程度に前に伸ばす。

2.両腕を引き寄せて、そのまま右側に上体をひねって3秒キープ。身体を元の位置に戻したら、同様に左側へ。このとき腕だけでなく上体をしっかり回すのがポイント。

3.上体を正面に戻したら、両腕を頭上に伸ばして3秒維持。左右に壁があると思って、手のひらで壁を押すように両肘を曲げる。そのまま、お腹を軽く引き上げながら両腕を肩のあたりまで下ろす。

 1セット5~10回を目安に。

教えてくれたのは……

青木 厚先生
あおき内科さいたま糖尿病クリニック院長。医学博士。2010年、40歳で舌がんを患う。再発予防のため16時間断食法を開発・実践。16㎏の減量にも成功。近著に『98キロの私が1年で40キロやせた 16時間断食』(アスコム)。

取材・文/ますみかん