今はあまり聞かない「勝ち組・負け組」※写真はイメージです

 1980年代後半のバブル期、「勝ち組・負け組」「寿退社」「3高」などの当時の世相から生まれたユニークな俗語は多い。しかし、結婚に対する価値観などが変化していった令和の時代、若者たちは当時とどう変わっているのか。今では使われなくなった懐かしい言葉を振り返りつつ、令和の価値観を探っていくーー。

 かつては25歳が適齢期といわれていたが、今や30代での結婚は当たり前。総務省の人口動態統計によると初婚年齢の平均値は1995年で26・3歳だったのが、2020年で29・4歳と、年々上がっている。昨今では40代50代が中心のマッチングアプリも登場している。

 そんな流れの中、女性が考える「勝ち組」「負け組」という言葉は消えつつある。ひと昔前の「勝ち組」は、早く結婚して子どもを持つ女性のことを指した。一方、「負け組」は結婚していない“おひとり様”のことだったが─。

「この言葉が全盛のころは、女性の結婚適齢期はクリスマスケーキに例えられ、25歳前後といわれていました。それを過ぎたら売れ残り、値引き対象と揶喩された。未婚化が話題になりだしたころに生まれた言葉ですよね」

 そう解説するのは、芝浦工業大学教授の原田曜平氏。若者文化に精通し、Z世代などの新語を生み出してきた原田氏は、結婚に関する価値観についてこう続ける。

「勝ち組」「負け組」は消えつつある

今は、何歳で結婚してもいいという時代。30歳を過ぎたら負け組という価値観は特に東京では皆無です。マッチングアプリ市場は安定しているし、“婚活”という言葉があるくらいだから、結婚に価値を見いだす考え方はなくなっていません。若者にも結婚願望があるにはあるけれど、早くに結婚=勝ち組ではなくなっているのは確かです」

 結婚への意識変化で「勝ち組」「負け組」の価値観は消えつつある。

 結婚にまつわる言葉では「寿退社」もあったが、最近ではあまり使われなくなった。

「今は男性1人で家計を支えるのが難しく、共働きが主流。結婚したら女性は仕事を辞めて家庭に入るなんてムリとの考えが男女ともに増えました。しかも3組に1組は離婚する時代なので、結婚がゴールという感覚ではなくなっています」(原田氏、以下同)

モテる要素は“見た目”が急浮上

 結婚するとなれば相手選びが重要だが、かつて高学歴・高収入・高身長である男性を示す「3高」という言葉もあった。女性が結婚相手に望む条件を指したもので、1990年初頭の流行語に。この言葉も今ではほとんど聞かれなくなったが、若い世代は何を重視して恋愛相手や結婚相手を選んでいるのだろうか。

写真はイメージです

外見で判断することが多いです。最近ではそれを意味する『ルッキズム』という造語が生まれています。表向きは外見で差別できない風潮の世の中ですが、Z世代はTikTokで容姿を加工し、スタイルも抜群にしてバズっているのが現状です。そういった流れで、結婚相手の条件として容姿が以前より重要視されるようになった。昔に比べると男女の賃金格差も減ってきているし、女性の労働参加がある。SNSでも稼げる時代。結婚相手に3高の要素を求める人はごくわずかでしょう」

 高身長は見た目なので今もモテる要素かもしれないが、高学歴があまり重視されなくなった理由を原田氏はこう分析する。

「偏差値の高い大学出身であることを武器に一流企業に勤めても収入には限度がある。一方で学歴は武器にできなくても起業して、会社員以上に稼ぐ人が出てきていますからね。『東大に入ったら人生バラ色』というのは、昔の話。学歴社会もまだまだありますが、絶対的な価値観ではなくなりました」

『マーチ以下と以上』

 そもそも、大学の偏差値や教育内容などは変わってきており、学歴を昔のままの価値観で判断するのは危うい。例えば「MARCH」(マーチ)といった大学群があるが、最近ではその括りが薄れているという。

「今でもマーチという基準はあります。若い世代も知っているし、『マーチ以下と以上』というふうに使われることもあります。ただ、各校の偏差値にばらつきが出てきており、その大学群を疑問に感じるのも不思議ではありません」

 最近ではマーチのほかに、SMART(スマート)という大学群も。これはマーチの中央大学、法政大学を外し、上智大学と東京理科大学を加えたもので、大学への価値観も時代とともに変化していることがわかる。

 変わってきたのは学歴に関する価値観だけでなく、職場選びについても。労働環境や作業内容が「きつい」「汚い」「危険」であることを意味する「3K」。この言葉もあまり使われなくなった。その理由には企業側の改善もあるという。

「人手不足が深刻化している中、当然、労働環境の悪い企業では人は定着しません。SNSの発達で職場の状況はすぐに広まりますし、企業側もかなり改善を進めてきたという側面もあると思います」

「オバタリアン」もいなくなった

 働き方でいえば1989年ごろ栄養ドリンク『リゲイン』のCMの歌詞から「24時間戦えますか」という言葉も流行した。

「今だと、ワークライフバランスに反するし、ブラック企業に該当するワード。24時間頑張るという価値観ではなく、定時に帰りオフを楽しもうという流れになっていますよね」

 近年では「帰れない」「厳しい」「給与が低い」などの言葉を組み合わせて「新3K」という呼び名もあるとか。

 漫画の『オバタリアン』が発祥で、厚かましい振る舞いをする中年女性を「オバタリアン」と呼んだ時代もあった。

「女性の社会進出も進みましたし、社会との関わり方で非常識な振る舞いをする人は減ったのかもしれません。それに、年齢を重ねても見た目に気を使う人が増えた。主婦の方でも化粧やおしゃれをまったくしない人は少ないのではないでしょうか」

 いくつになっても現役。働き続ける女性が増えたため「オバタリアン」は消滅したのだろう。

『美魔女』という価値観が生まれ、今や藤あや子さんや宮崎美子さんなど60代でも若々しく美しい方は増えています。実際、今の若者にもこの世代をきれいだと思っている人も多いです」

「アッシー」は『パパ活』『港区女子』に変化

「アッシー」「メッシー」「ミツグ君」という言葉。その言い方は違えど、今も似た価値観はあるという。

『パパ活』『港区女子』にかわってきていますね。1980年代に若者だったアッシー世代がいまだに小金を持っていて、『パパ活』で女性にお金を払っていることも。一方で若者は基本的に割り勘主義。“男が全おごり”の文化はなくなってきています」

 ここまで“消えた価値観”について解説してきた原田さんが今の時代に感じることとは何だろうか。

昔は経済成長一辺倒で『お金至上主義』『お金稼いだ人が偉い』という考えだったことが見えてきますね。

 今は、そんな右肩上がりの時代に起こった理不尽を是正していこうという流れだと思います」

はらだ・ようへい マーケティングアナリスト。芝浦工業大学教授。信州大学特任教授、玉川大学非常勤講師。BSテレビ東京番組審議会委員。「さとり世代」「マイルドヤンキー」「伊達マスク」などさまざまな流行語を作った。『Z世代 若者はなぜインスタ・TikTokにハマるのか?』(光文社新書)など著書多数

取材・文/竹腰奈生