遠くから孫を見守るようなイッセー尾形(撮影/佐藤靖彦)

「衝動と関係がキーポイントの舞台です。3人の登場人物が、それぞれの衝動で誰かにアクションを仕掛けて関係ができ、それを紡いでいく。どんな衝動なのかを考えていくうちに迷路に入り込み出口が見えない。そんな渦中にいます」

一人芝居の第一人者&名バイプレーヤー

 そう語るのは主演舞台『管理人』(11月18日~東京・紀伊國屋ホール)の稽古場でのイッセー尾形(70)。

 ノーベル文学賞受賞の英国の劇作家ハロルド・ピンターが1959年に執筆、翌 '60年に発表し“ピンタレスク”といわれる不条理劇の傑作。職をなくしたホームレスの老人・デーヴィス(イッセー)、アストン(入野自由)とミック(木村達成)の兄弟による3人の間で虚実ないまぜの会話が展開していく。

 イッセーといえば一人芝居の第一人者。役者を志して福岡から上京。劇団を結成したがうまくいかず演出家と役者のイッセー2人だけが残った。

「何をしようかと考えたとき、当時は演劇とは思わずお笑いだと。漫談の牧伸二さんみたいなひとり芸人をやろうかなと思っていました」

  '81年に『お笑いスター誕生!!』に出場、金賞を受賞し注目されたが、芸人ではなく初心に返って一人芝居を始めた。

「最初は難しかったですよ。相手がいるようにしゃべっているけど、そういうふうに客席からは見えない。そのうちにデフォルメしないと見えてこないというのがわかってきました。

 そして、キャラクターの心理的なことよりヒエラルキーを描いた『バーテン』をきっかけに、キャラクターを社会的にとらえるようになり、それが一人芝居の背骨になっていると思います。

 社会的ランクや収入でとらえ、中流層のキャラクターが多いのは僕の憧れからです。だからこそ演じたいし、想像を巡らすこともできる。中流以上は何を考えているかわからないし、想像できないから」

撮影に笑顔で臨むイッセー尾形(撮影/佐藤靖彦)

 代表作『イッセー尾形の都市生活カタログ』をはじめこれまで700以上のキャラクターを演じ、舞台上では着替えやメイクの様子も公開する独自のスタイルを確立。ニューヨークやベルリンなど海外でも公演し好評を博した。

「印象に残っているキャラクターは、セリフも身体もはつらつとしているネタ。『アトムおじさん』は老人で動きもほとんどないけど、逆に見ている人が動いた。瞬発的な反応で拍手や笑いの動きが起き印象に残っています。

 ネタは無からは生まれないし、街中で観察することもしないです。無と観察の間。普段、生活していて聞こえてきたこと、何げに見ていたものが家に帰ってからもひっかかっている。あれは何だったのか、なぜ気になるのか。そういうのが核になってネタ作りをしています

渥美清さんの目にとまり映像でも活躍

 舞台だけでなく映像でも長く活躍する。 '80年代に映画『男はつらいよ』シリーズやドラマ『花へんろ』への出演は、渥美清さんの存在があった。

「僕の舞台を見に来てくださっていて、ひとりだけ笑っていないお客さんがいて、それが渥美さんでした(笑)。でも面白いと思ってくれて『男はつらいよ』や、渥美さんと親交のあった脚本家の早坂暁さんの『花へんろ』にも呼んでもらえたのかなと思います」

『花へんろ』での靴修理の店主、花井院長役は、舞台との違いを実感するきっかけになった。

「早坂さんの役の説明が印象的でした。実在のモデルがいて、その方は社会運動に傾倒していて漢字の楠を〇で囲んだ看板を掲げていたとか、人も靴も壊れるから院長と名乗るとか役について魅力的に話されて気持ちが動かされました。しかも主役の桃井かおりさんはじめステキな役者さんが出演している。

 NHKの名物ディレクターには、顔を作るなと叱られましたよ(笑)。役作りでやったけど、そのときに舞台とは違うなと。映像は素を撮って演出してキャラクターができあがる。(自分で)作り込まないほうがいいと思いました

コロナ感染予防のためマスクをして稽古中。18日から本番が始まる(撮影/星野麻美)

 以降、映画やドラマのバイプレーヤーとしてオファーは絶えない。近作でもドラマ『石子と羽男−そんなコトで訴えます?−』の裁判官の厳格な父親役、『PICU小児集中治療室』では誤診の過去を抱えた老医師役と少ない出演シーンでもインパクトを残している。

尾形はやりすぎ、作りすぎ、浮いているとつい最近まで言われていましたよ(笑)

8歳の孫娘に見せて自慢しています

 10年前にフリーになり、奥さんをマネージャーにして二人三脚で活動。2015年から夏目漱石の作品を題材にした『妄ソーセキ劇場』、その後は『妄ソー劇場』と銘打った一人芝居を公演している。

「フリーになる前は新作に追い立てられていましたが、今はゆっくりと時間をかけられる。自己規制がなくなり(気持ちが)楽になりました」

 フリー後は思いつきで始めたという人形劇と紙芝居を自主制作し、ホームページやYouTubeで公開している。

「一人芝居の分身みたいなものです。樹脂粘土を使って人形を作り、ひとりで操作して撮影する。孫娘に見せて自慢しています」

 まなじりを下げた照れ笑いは好々爺の素顔がのぞく。

 8歳になる孫娘は小学校に入学してから一人芝居を見るようになり、『管理人』の観劇も楽しみにしている。

「孫は一人芝居の印象的なディテールを言います。それは批評であり、評価になっています」

 この10年で手がけた人形や映像作品は『イッセー尾形一人芝居妄ソー劇場・すぺしゃるvol.4』(12月22日~有楽町朝日ホール)の会場で展示される。

 古希になり、俳優人生は半世紀を迎えた。

「人生100年では足りない。時間が足りないと思っていても(生命の)時間は限られている。そのなかでやりたいことをやろうとして、やらないといけないのは無理難題なことです。一人芝居はモノローグ(独白)だが『管理人』はダイアローグ(対話)。挑戦になるし、対極の先を見極めて感じたいです」

 出口が見えない芝居の幕が間もなく上がる。

イッセー尾形(撮影/佐藤靖彦)