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「第8波がやってくる!」などと騒がれ始め、いまだ収束が見えないコロナ禍。

 一方で、観光需要回復の一環として、10月11日からはコロナ感染症の水際対策が緩和され、外国人の入国制限が撤廃された。訪日観光客の姿が次第に増え始め、街でもよく見かけるように。

 テレビをつけると、外国人観光客が「円安で何もかも安いから、今日は20万円分買っちゃいました!」などと満面の笑みでインタビューに答えていて、うらやましい気持ちになることも……。

 でも、インバウンド(訪日旅行)でまた爆買いしてくれたら、日本経済も少しは元気になる!? そのあたりの見通しについて、テレビでもおなじみ、経済評論家の加谷珪一さんに聞いた。

日本政府観光局によると、10月の訪日外国人の数は約50万人と、前月から倍以上に増えました。ただ、コロナ前の'19年10月は約250万人でしたから、まだ5分の1です。

 これは、中国がゼロコロナ政策で、いまだ出入国を厳しく制限していて、中国人観光客の数が復活していないことが大きいですね」(加谷さん、以下同)

コロナ前後の訪日外国人数の推移(出典:日本政府観光局(JNTO)データは11月21日現在)

 コロナ前は訪日外国人の3割を占め、爆買いの主力となっていた中国の人々。その人たちが自由に日本に来れないとなると、その影響は大きい。

 でも、今すぐにとはいかないけれど、コロナ感染症の流行が落ち着いて、中国のゼロコロナ政策が緩和されれば、インバウンドによる経済効果はさらに加速する可能性も。

「なにせこの円安です。今まで1ドル110円台だったのが、一時は150円台になりました。わずか半年で日本円の価値が3分の2になったことで、外国人から見ると、日本での買い物は3割引きのバーゲンになったようなもの。

 欧米に加えて、中国の方が来るようになれば、爆買いによる観光需要は間違いなく復活するでしょう」

 海外からの旅行客が必ず利用する、航空、宿泊、飲食、小売り、まずはこの4業種が恩恵を受けることになるだろうと加谷さん。

「さらに、中国の方が戻ってくると、彼らの中にはリピーターも多いでしょうから、メジャーな観光地以外の、地方の町にも訪れたりして、買い物や飲食を楽しむようになるはず。全国のあらゆる町に経済効果が高まるチャンスがやってきます」

 現在、政府も5兆円のインバウンド消費を目指し、観光産業の支援の姿勢を示しているが、今後はそれに向けた取り組みも課題となっている。

円安やインバウンド、生活や経済への影響は?

 インバウンド需要や輸出業界にとってはうれしいこの円安。いったいなぜ始まったのか、今後も続くのか、気になるところ。

「今起きている円安の最大の原因は、アメリカと日本の金利の差が大きく開いてしまったことにあります。アメリカでは、長期の定期預金などは金利が4%くらい。一方、日本はほぼゼロです。

 つまりアメリカでお金を運用したほうが圧倒的に有利なんです。そうなると、多くの投資家は円を売ってドルを買いますから、円安ドル高が進むわけです」

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 ならば、日本も金利を上げたらいいのに……と、円安による生活コストのアップに悩む庶民は思ってしまうけど。

「そう簡単にはいきません。金利を上げると、借金を返済するときの金利も上がります。つまり、借金しづらくなるということ。企業も個人も借金をしづらくなると、設備投資や買い物といった経済活動が停滞します。

 それに何より、すでに国が国債発行などで1000兆円という大きな借金を背負っています。この状態でもし金利がアメリカ並みに4%になれば、利子の返済だけで年間40兆円になってしまいます」

 ちなみに私たちが必死で払っている消費税の税収は年間20兆円。なのに、その倍の利子の支払いをすることになると……。

「どう考えても無理な話ですよね。当面、日本の金利は上げられず、円安の流れは続きやすいということ」

 円安が進行・継続すれば、私たちの食費や光熱費の負担は重くなっていく一方で、インバウンドによる経済効果はより増していく可能性も。ただしもう1つ、円安の長期化で懸念されるデメリットがあると加谷さんは言う。

「心配なのが、日本で働いてくれる外国人労働者の方が減ってしまうことです。今、建設、飲食、農業、介護などの現場は、アジアから来た労働力なしには成り立たなくなっています。

 そんな中、円安が進めば日本で受け取る給料の金額は変わらなくても、彼らの国の通貨からみると、実質、目減りしてしまいますよね」

 日本は稼げない、となれば外国人労働者が減っていき、私たちの生活にこんな影響も。

作り手が減ればモノの生産量が減るわけですから、賃金の高さをアピールしての労働者の取り合いになって、物価高がさらに進む可能性がありますね。政府も深刻に考えて対策をとらないと、今後大変なことになります。

 考えられる対策は、賃金を上げること。ただ、これはやはり物価高の原因となります。もう1つは、あらゆる産業でIT化を進め、人手不足に備えること」

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今日からできるインバウンド対策

 円安による生活への悪影響を極力抑えつつ、インバウンドの経済効果をうまく取り込む方法はあるのだろうか。

「インバウンド効果が実際に表れ始めるのはしばらく先のこと。一方で、物価上昇はすでに始まり、その流れは止められません。

 私たちはまずは節約しつつ、生活をスリムにコンパクトにしていくことが必要でしょう。可能なら主婦や年金生活者も、働いて収入を増やすことを考えて」

 すでに飲食業や小売店で働いているなら、インバウンド効果をいち早く取り込む努力もしたいところだ。

「コロナ前の傾向ですと、外国人観光客のリピーターは、ごく普通の町の、ごく普通のお店にも興味を持ちます。地方の小さなお店でも、英語や中国語の表示を貼ったり、外国人には必須のキャッシュレス決済を導入したり、スマホに翻訳アプリをダウンロードするなどしてみましょう。

 外国人観光客はSNSでの口コミを頼りに行動していますから、そういう工夫がきっかけで人気を集めることもありますよ」

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教えてくれたのは……

加谷珪一さん
経済評論家。著書に『スタグフレーション』(祥伝社新書)、『貧乏国ニッポン』(幻冬舎新書)など。

取材・文/鷺島鈴香