ブームの火付け役『餃子の雪松』。こうした無人販売所は商店街の側に店を構えていることが多く、24時間営業がポイント

 いまや至るところで目にするようになった無人販売所。ギョーザを筆頭にスイーツ、中華料理、古着にメダカと種類はさまざま。店舗数も増加の一途をたどっている。
商品ジャーナリストの北村森さんが解説する。

「ブームの先陣を切ったのは2019年に埼玉・入間で1号店をオープンさせた『餃子の雪松』(以下、『雪松』)です。その後、コロナが感染拡大するにつれ、とりわけ経営が逼迫した飲食業が無人販売に活路を見いだした。客にとっても、非接触で購入できる無人販売所のニーズは高い。今では『雪松』の無人販売所は全国各地に広がり、400店を超えるほどです」

万引きや盗難も頻発

 店側の利点として「人件費のコストが下げられることが大きい」と指摘するのは、フードジャーナリストの山路力也さんだ。

「不況が続く中、食材費や人件費のコストも上がっています。商品価格に転嫁したくても、あまり値上げをすると売れなくなってしまいますし、原材料費を削ると食品の場合、おいしさや品質を下げてしまう。となると、人件費か店の地代家賃を削ることしかできません。

 その点、無人販売所は基本的に人件費がかからない。そのうえコロナ禍で廃業する店が増え、商店街の空き店舗などが借りやすくなったこともプラスに働きました。無人販売所は、こうした時代のニーズに合っているのだと思います」(山路さん)

 その一方で、万引きや盗難などの事件が頻発している。11月23日には千葉・柏、神奈川・横浜の無人販売所で、ラーメンの窃盗が相次いで発生。大阪・東大阪でも肉の無人販売所で、ギョーザやアイスクリームを盗まれる被害が。

 SNS上でも、無人販売所のアカウントからこんな悲鳴が聞こえてくる。

《先日、お金を払わないで商品を持って行く盗難被害に遭いました。うちの商品は、どれもスタッフが手作りで、ひとつひとつ丁寧に作ってます。悲しくなるようなことはしないでくださいね》

《数回にわたり2人組の男による万引きが発生しました。警察署には被害届け済みです。(防犯カメラの映像では)大量にリュックに入れて逃走しています。万引きは犯罪です

ローテク過ぎる防犯設備

 都内でギョーザの無人販売所を経営するAさんは言う。

「防犯カメラを設置して店内を遠隔監視しています。お客さんが入ってきたときだけ録画できる仕組みです。万引き被害は月に1~2件ぐらい。防犯カメラがあるとはいえ、常時チェックできるわけではないですし、事務所から店までは離れているので、万引きを現行犯で取り押さえることは難しい。代金を入れたように見せかけて、実は入れていない“エア入金”を企てる輩もいます。被害届ですか? 提出はしましたが、まだ犯人は捕まっていません」

 さらに鹿児島では、市内の花や苗を売る無人販売所で赤ちゃんが置き去りにされる事件が起きている。事件から2か月が経過した今なお、両親は名乗り出ていない。

「基本的に“誰も盗んだり悪いことをしたりはしないはず”という性善説が前提で成り立っているビジネス。ここまで事件が続くと、その限界を感じてしまいますね」

 そう話すのはITジャーナリストの三上洋さんだ。事件頻発にもかかわらず、無人販売所が増え続けている理由を三上さんは、「極限までコストを下げることで利潤を出しているから」と、分析する。

全国の有名ラーメンが味わえる冷凍自販機『ヌードルツアーズ』は丸亀製麺が手がけて話題に

 例えば、前出の『雪松』の場合、店に入ると冷凍ケースが整然と並んでいる。ケースにある商品は36個入りの1000円のギョーザ、1種類だけ。支払いは現金のみ。それも賽銭箱によく似た箱に客が直接、お金を入れる仕組みだ。当然ながら自動精算の機能はついていないため、お釣りは出ない。

「防犯対策としては唯一、クラウドカメラと呼ばれる防犯カメラが設置されているだけ。これはインターネット上につながっていて遠隔監視でき、買いに来た人の動作をすべて記録できます。このカメラのほかには防犯設備に当たるものが一切ない。驚くほどローテクです」(三上さん、以下同)

 ローテクな店づくりは『雪松』だけに限らない。クレジットカード払いやキャッシュレス決済が可能な無人販売所もあるとはいえ、防犯対策に関していうと、どの店も大きな違いはない。

「無人販売でも安全に売る方法はあります。ロッカー型の冷凍自販機に商品を入れておけばいい。自販機なら投入した金額に応じてロッカーが開錠されます。あるいは、無人コンビニが導入している顔認証システムや重量センサーで自動決済をすることも技術的には可能です。

 ただし、冷凍ロッカーは70万から120万円、顔認証やセンサーも80万円以上の費用がかかる。頻繁に窃盗が起きているならともかく、月1~2件の被害のために、それだけのコストをかけられるかという難題があります」

無人販売に期待したい企業

 異物混入のリスクについてはどうか。前出の北村さんは、「故意に破れないパッケージにするなどして対策をとる必要があります。また商品を搬入したり陳列したりする際に、商品のパッケージが破られていないか、異常はないかなど、店側が厳しくチェックし続けるかがカギになります」と話す。

 こうした対策に加えて、商品の品ぞろえを工夫することで、被害を防ぐ無人販売所もある。東京・中野などで古着の24時間営業を行う『ムジンノフクヤ』だ。

「4坪の店内に並んでいる古着はトップスが中心。販売価格は1480円からで、自動販売機に代金を入れて支払う仕組みです。オープンから1年弱の間に盗難が2件と、もともと被害は少なかったんですが、さらに商品構成を工夫することで防犯対策をしています。

 それは、一点物の古着をそろえること。こうすれば転売しても発覚しやすくなるため、万引きの抑止にもなるというわけです。食品のケースには、そのまま使えるアイデアではないでしょうが、防犯対策を考えるうえでヒントになるはずです」(北村さん)

 長引くコロナ禍の中、ますます勢いに乗りそうな無人販売所。今後、注目したい店の種類を尋ねると、こんな答えが返ってきた。

古着の無人販売を行う『ムジンノフクヤ』

「もし『オリジン弁当』や『ほっともっと』が無人販売所をつくったら、コンビニ弁当の手ごわいライバルになるでしょうね。『餃子の王将』や『コメダ珈琲』のような、誰もが知っているブランドを持つ企業が新規参入してきたら、また違うニーズを掘り起こせるのではないかと思います」

 と、前出の山路さん。一方、北村さんからは、食品以外のジャンルの提案が。

「注目したいのは古本。実は古本には、定期的に古本市が開かれるなど一定のニーズがあります。便利であることはもちろんですが、ジャンルを問わず、楽しさを追求する無人販売所が増えることを期待しています」(北村さん)