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 “ひざトラブル”に悩む中高年は少なくない。実際、ある調査(*)では34%の人が「40代以降からひざが痛くなった」と回答しており、大きな悩みの種となっている。

(*)…生化学工業株式会社「ひざの痛みに関する対処法と改善」アンケート(期間:2022年1月21~26日/40代~60代のひざの痛みを抱える男女600名)より(https://www.ehiza.jp/ja/satisfaction/report01.html

コロナ禍でひざ痛に悩む人が急増

「さらにコロナ禍以降は、首や腰、ひざの痛みを感じる人が1・7倍に増えたともいわれています。外出や運動を控えた悪影響が、今になって表れているようです」

 そう話すのは、ひざ関節の痛みに詳しい、さかいクリニックグループ代表の柔道整復師・酒井慎太郎先生。

「ひざが痛む原因と聞くと、ひざ関節の軟骨がすり減ってしまう『変形性膝関節症』をイメージする人が多いかもしれません。しかし最近の研究で、ひざの軟骨には神経がないことがわかり“軟骨のすり減りは痛みの原因ではない”という見方が強まっています。

 その代わり、新たに3つのひざ痛の原因が判明したんです。私はそれらを“ひざ痛の3大元凶”と呼んでいます」(酒井先生、以下同)

 1つ目の元凶は、ひざ周りにある「膝蓋下脂肪体」の“コブ化”。

「膝蓋下脂肪体とは、ひざのお皿の骨や大腿骨、すねの骨の隙間を埋める脂肪組織です。本来はやわらかなゼリー状をしており、ひざの動きをなめらかにする働きがあります。しかし、この膝蓋下脂肪体がコブのように硬くなると、脂肪部分に神経や血管が増えてしまい、ひざの曲げ伸ばし動作が“刺激”となって痛みを感じるのです。

 2つ目は、すねの骨(脛骨粗面)の“ねじれ”。すねの骨が外側にねじれていると、ひざ関節を支える靭帯や半月板などに余計な負荷がかかり、痛みにつながります。また、ひざの安定性や動かしやすさが低下する要因にもなります」

【ひざ正面図】(イラスト/日江井香)

 3つ目の元凶は“ひざの曲がり”。中腰やデスクワークなどでひざを曲げていると、太ももの前面にある筋肉や、ひざのお皿をつなぐ腱などの器官が張った状態になる。そうした緊張状態が長時間続くと、ひざ周りが硬くなり、炎症を引き起こして痛みを招くのだ。

「ひざが痛む場合は、3大元凶をすべて発症している傾向があります。どれかひとつではなく、膝蓋下脂肪体、ねじれ、曲がりの3点にアプローチするケアが必要です」

 また、ひざ痛に悩む人は、顎を前に出して背中を丸める、いわゆる“悪い姿勢”で生活しているため、首・肩・腰にも痛みを抱えているという共通点も。姿勢の悪さは、全身の痛みにつながるのだ。

今日から始めるひざ痛ケア

「人によっては、手術が必要な症例もあります。しかし、痛みの原因がひざの変形ではなく3大元凶にある場合は、“痛みに効く! 万能ストレッチ3種”をまず試してみてほしいです。

 毎日継続してもらった結果、ほかの医療機関で手術直前だった人でも3週間ほどで痛みが消えたケースも少なくないです。なかには、セルフケアで完全に痛みがなくなったという80代の女性もいます。まずは3週間を目安に続けてみてください。

 医療機関にかかっている場合は、かかりつけの医師と相談してから行うようにしてください」

3大元凶をセルフチェック!

◆ひざのコブ

(1)お皿の骨のすぐ下の内側
(2)お皿の骨のすぐ真下
(3)お皿の骨のすぐ真上

 両脚を伸ばして座り、両手の親指で上記の(1)~(3)の部位を順番に押し、痛みやコブの硬さをチェック。さらに、ひざ裏の真下に手を回して同じように指で押す。皮膚がやわらかくても、奥のほうが硬く、押し込むと痛みがある場合は要注意!

「ひざのコブ」(イラスト/日江井香)

◆ひざのねじれ

 ひざのお皿の下にある出っ張り(脛骨粗面)の位置を触ってチェック。お皿の骨の中央、真下に脛骨粗面があるのが理想だが、お皿の骨よりも外側にある人は、ひざがねじれている可能性大。また、ねじれが強い場合は、O脚やひざの変形リスクが高まっている。

「ひざのねじれ」(イラスト/日江井香)

◆ひざの曲がり

 両脚を伸ばして座り、力を抜く。ひざ裏と床のあいだに隙間があるか確認。手がすっぽり入る人は、ひざ周りが伸ばしにくい状態。また、同様に座り、片方の脚のひざを曲げてお尻に寄せる。かかとがお尻につかない場合は、ひざの曲がりに問題アリ。

「ひざの曲がり」(イラスト/日江井香)

痛みに効く! 万能ストレッチ3種

◆ひざのお皿回し

 ひざを曲げたまま生活すると、お皿の骨と太ももの骨の隙間が狭まり、関節が硬くなる。お皿の骨を前後左右に手で動かして、骨の間にスペースを作り、関節内の骨の動きをスムーズにしよう。「動き始めが特に痛いとき」に行うと予防にも。

・上下左右にお皿を動かす

 イスに座り、痛みを感じるほうの脚を伸ばす。両手の親指と、人さし指の腹をひざのお皿の縁に沿うように当てる。30秒間、手でお皿の骨を上下左右に動かす。

・回転させたり浮かせたりする

 さらに30秒ほど、お皿の骨を回転させたり、浮かせたりするような動きをする。優しすぎず、イタ気持ちいいくらいの力加減で行うのがコツ。

「ひざのお皿回し」(イラスト/日江井香)

◆テニスボールストレッチ

 太ももの骨とすねの骨の隙間が狭くなったひざ関節は、骨同士が引っかかり、動きにくくなる。そこでひざ裏にテニスボールを挟んで押し込むと骨と骨の間にスペースが生まれて動きがスムーズになる。ねじれ改善にも。

・ボールをひざの奥でしっかり挟む

 床やイスに座り、脚の力を抜く。痛みがあるほうのひざ裏中央に、テニスボールをセットする。両手をすねに当て、脚を抱え込むように力を加えながらひざを曲げていく。この体勢を30秒ほどキープ。※場所に余裕があれば、あおむけになって同様に行っても効果的!

◆ひざ押しストレッチ

 ひざの痛みの3大元凶すべてにアプローチする万能ストレッチ。曲げっぱなしのひざがしっかり伸ばされ、コブが硬くなるのを防ぎ、ひざ下の「ねじれ」解消にもつながる。これだけを行っても痛みが消えることも。

「ひざ押しストレッチ」(イラスト/日江井香)

・30秒間ひざを長押し

 無理なく脚が上がる高さのイスや平台に、痛みがあるほうの脚を乗せる。ひざをまっすぐ伸ばし、脚を少し内側に回してから、ひざのお皿の骨の真上に両手のひらを乗せる。垂直の角度から、手でひざのお皿の骨をグーッと押し込み30秒間キープ。脚の力を抜き、ひざ裏がピンと伸びるイメージで行う。“少し痛い”くらいの力加減が効果的。

教えてくれたのは……さかいクリニックグループ代表酒井慎太郎先生●ひざ・首・肩の痛みやスポーツ障害疾患の治療を得意とする。プロスポーツ選手や俳優などの著名人の治療も行い、メディアでも活躍。『痛みの元凶を自分で治すひざ痛ほぐし1分ストレッチ』(徳間書店)など著書多数。

(取材・文/大貫未来【清談社】 イラスト/日江井 香)