看護師の日常の様子を配信するYouTubeチャンネル「NASMENCHANNEL」を運営するシンジョーさん(右)とイデさん(左)。同業種の人から絶大な支持

 2022年10月から放送されているドラマ『ザ・トラベルナース』(毎週木曜21時〜テレ朝系)の視聴率は全話で10%を超え、好調をキープしつつ12月8日に最終回を迎える。

「昨今、テレビドラマは視聴者から『脚本が面白くない』と評価を受けがちですが、この作品は中園ミホさんの脚本が秀逸で、人気を博しています」

ドラマとは異なる実際の現場は

ドラマ『ザ・トラベルナース』で共演している岡田将生(33)、中井貴一(61)

 そう好調の理由を分析するのは、事前に台本を読み“これは跳ねる”と感じたというメディア研究家の衣輪晋一氏。

「秀逸な理由は物語のよさだけでなく、中井貴一さんと岡田将生さんが演じることを踏まえての設定です。テレビ全盛期を熟知した世代の中井さんは、ご自身の経験を岡田さんに伝えたいと話していました。その師弟のような関係性はドラマの役設定と一致しており、まさに“ハマり役”となっているところが作品の面白い理由だと思います」

 中井演じるベテランの“スーパーナース”。ドラマでは岡田演じる若き男性ナースに大切なことを伝えている。だが、こうした関係性というのは実際の看護現場ではかなり稀なようだ。では、男性看護師の実情とはどんなものなのか?

 話を聞いたのは、現役男性看護師のシンジョーさん(29)とイデさん(30)。看護師の日常の様子を配信するYouTubeチャンネル「NASMEN CHANNEL」を運営する2人だ。ともに看護師歴7年目。上司といえばほとんどが女性で、まず男性の上司や、40代50代のベテラン男性看護師はかなり珍しいという。一般的にも看護師10人中に男性は1人以下といわれている。

「現在、中高年の男性看護師をあまり見ないのは、看護師になろうという男性が昔は少なかったからだと思います。なったとしても、職場に居づらかったのもあるのかなと。何かと悩みだらけなのに、まわりは女性ばかりだと相談しづらいことも。男性だからという理由でつらいことはあると思います」(イデさん)

 厚生労働省の統計によると男性看護師の人数は右肩上がりではある。2016年からの2年間だけでも約1・1万人増加。とはいえ2018年時点で男性の割合は全体の7・8%とまだまだ低く、年齢別で見ると中高年の看護師はかなり少ない。

「看護学校時代の同期の男性看護師たちもみんな辞めちゃいました。新人のころの前残業はよくありましたし、忙しいことが理由なのはあると思います」(シンジョーさん)

 ただ、忙しさのほかにも幾つかの辞める理由が推測される。

「仕事でミスしたときは徹底的に犯人探しをしたり、プライベートな噂が回る速度が異様に速いのも、辞める理由かもしれません。この業種ならではだと思います」(シンジョーさん)

 激務や給与面などで辞めてしまうこともある。だが、女性看護師たちとの人間関係もあるのだろう。

業務に関係のない暗黙のルール

男性医師は指摘されないのに…暗黙のルールとは(※画像はイメージです)

「身だしなみなど見た目のことは女性看護師からよく指摘されます。男性医師なら指摘されないのに。例えば『靴下は白』というルールとか、カーディガンなど羽織ものを着ちゃいけないとか。清潔感を出す意味で、冬でも半袖でした。

 患者さんの前ならばわかるんですが、ナースステーションでは着てもいいのでは?と思ったりはします。他にも、夜勤にはお菓子を持っていく必要があったりとか……小さいことかもしれませんが、業務と直接関係のない暗黙のルールが多いですね」(イデさん)

 細かなところまで心を配る女性社会ならではのルール。若手の男性看護師から意見を言うのはもってのほか。

職場ではとにかく“男”を出さない。男要素を消したほうが働きやすいので、女性社会に溶け込むようにしています。『男なんだから』と男性に対する固定観念をぶつけてくるのは師長世代が多い。昔に比べたら男性看護師は増えているので、若い世代の女性看護師は、そういうことはあまりないですが、上の世代にはいまだにあります」(イデさん)

 先輩女性看護師が「筋肉すごいよ」と、男性看護師の身体を触り、他の後輩を呼んで触らせようとするセクハラめいた話や、「女子力が高い」とやたら言われることで、逆に「男のくせに」と言われているように感じて傷ついたという話も聞くという。さらに女性患者から看護を断られることも“あるある”。

「例えば尿の管を入れる、抜くの処置では、若い女性患者だと、ほぼ断られるので、はじめから女性看護師にお願いすることがあります。割り切っていますが、新人のころは、傷つくというよりも、先輩にお願いすることがストレスでした」(シンジョーさん)

 周りに負担をかけてしまうことがつらいと語る。他にも男性の体力面を期待されて任される仕事があり、

やはり力仕事はよく任せられますね。体格のいい患者さんの看護はほぼほぼ回ってきます。それから『術後せん妄』といって手術後に錯乱状態になる患者さんの対応は任されがちです」(イデさん)

 体力的につらいことを任されてしまうのは仕方がない部分はあるのかもしれないが、疑問に思うことも。

「やっぱり男性が少ない分、お局的な看護師に目をつけられてしまうと、生きづらいですね。男性というだけでレアキャラで、目立ってしまうので気をつけないと。表面上は仲良くやっているけど、裏では悪口を言う人も多いのですが、そういったことに慣れないと続きません」(イデさん)

女性の本質を見抜く力が備わってきた

 うまくやっていくには俯瞰で見る力が大事だと話す。

興味がない話でも聞く。とにかく聞く力が鍛えられますね。女性は話したい、聞いてもらいたいんだということがよくわかります」(イデさん)

 女性社会にいることで、ホンネを知ることができるので、女性を見抜く力が備わるという。だが、女心がわかるようになれば、やはりモテるのでは?

「普段は男らしさを消しているのでそんなことは(笑)。けれど、確かに職場結婚はよく聞く話かもしれません。気の強い女性が多いですが、その人の本質も見ることができる仕事だと思うので、看護師同士の結婚も多いのは確か。もちろん、男性看護師よりも医師のほうがいい、といった空気感はありますが、医師だからモテるということもないですよ」(シンジョーさん)

 やはり優しく寄り添うことのできる男性看護師は女性からの好感度は高いのかも。

つらいことばかり語ってきましたが、男性看護師だからこそ可愛がってもらえることもあります。男性の患者さんからも男なら気楽だと言ってもらえることもあり、やりがいもありますし、いい面もあるんですよ」(イデさん)

 男性看護師は少ない分、仲間意識は強いようで、男性だけの看護師会など集まりもあるとか。もっと男性看護師が増えてほしいと2人は切実に語る。

「この仕事の何よりのメリットは全国どこでも行けること。“手に職つける”仕事なので、どこでも仕事はある。住みたいところで働けるのがいいんです」(イデさん)

 実際にイデさんは現在勤める病院が4つ目、シンジョーさんも大学病院2か所を経験している。それは珍しくはないそう。

「都市圏だけでなく、北海道や沖縄、離島と、住んでみたい場所から勤務先を選べる点は魅力。それぞれの理由や目的で選ぶことができます」(シンジョーさん)

 比較的短い期間で辞めてしまうのは、職場環境が理由なだけでなく、自分らしい自由な働き方ができるため、転職が多いともいえる。

 ドラマ内で岡田が演じる看護師、ナース・プラクティショナー(一定の医療行為を実施できる看護資格)は、まだ日本では少ない。ただ、どこでも働けるさすらいの“トラベルナース”は新しい働き方として注目もされている。

在宅看護も増えていて、訪問看護師という道もあり、働き方の選択肢が広いというのも看護師のメリット。命に関わる仕事なので、単純に楽しいことだけの仕事ではありませんが、年齢を重ねても自分次第で働き続けられます」(イデさん)

 男性看護師ならではの苦悩はあるものの、自由に働き続ける。中井が演じるベテランの看護師は男性看護師たちの希望の星なのかもしれない。

しんじょー/いで 現役看護師。看護師の日常やあるあるなどを中心にアップしているYouTubeチャンネル「NASMEN CHANNEL」を運営

<取材・文/竹腰奈生>