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 自転車の交通取り締まりが強化されてから、はや1か月が経過した。

自転車運転での違反で前科がつくことも

 今年10月31日からは「信号無視」「一時不停止」「車道の右側通行」「徐行せずに歩道通行」の4つの違反に対する取り締まりが厳格化され、刑事処分の対象となる「赤切符」が積極的に切られるようになった。

 都内では2022年9月末時点ですでに3906枚の赤切符が交付されており、前年同月に比べると669枚増加している。取り締まりが強化されて以降は、実際に書類送検される例も出ており、懲役や罰金刑となる可能性も。

 自転車運転での違反で前科がつくことも十分にありうるのだ。

 こうした取り締まり強化の背景には、目まぐるしく変化する昨今の「交通事情」がある。警視庁のデータでは、2021年に東京都内で発生した交通事故2万7598件のうち、自転車が関与している事故は1万2035件。

 交通事故件数自体は減少傾向にある一方で、交通事故の自転車関与率は2016年の32・1%から2021年の43・6%と過去5年増加し続けている。加えて、コロナ禍以降はフードデリバリー需要が拡大し、自転車で配達を請け負う個人配達員も増加。

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 さらには、感染リスクの低いパーソナルな移動手段としての需要や運動不足解消のニーズも追い風となり、2020年度の自転車販売市場は2100億円超と過去最高額を更新した。

 自転車ブームが過熱する一方で、利用者に対する交通ルールの周知は遅れていると言わざるをえない。通勤で毎日自転車を利用している都内在住の樽田学さん(67歳・仮名)は次のように語る。

日常の足として50年以上自転車を利用していますが、きちんと交通規則を学んだことはないです。自転車の取り締まりが強化されたということも知らなかったですし、原則左側通行ということも、どういう場合に歩道を通行していいのかということも、実際はあまりピンときません。

 信号無視や飲酒運転をしないというくらいの認識はありますが、なんとなく乗っているというのが実情ですね」

 自転車の交通ルールを学ぶ施設として、全国各地に交通公園がある。横断歩道や交差点、踏切など、実際の道路を模した場内で自転車に乗りながら、標識や交通規則について学ぶことができるが、多くは児童向けの施設として運営されている。

杉並児童交通公園で娘に自転車の乗り方を教える真田さん。園内ではスタッフの方が交通指導をする場面も

 東京都の「杉並児童交通公園」は、年間に16万5千人以上の来園があり、平日の午前中に訪れると、たくさんの親子連れの利用者でにぎわっていた。利用者のひとりである真田幸恵さん(35歳・仮名)は、実際の交通ルールについて不安の声を漏らす。

「6歳と4歳の娘に自転車の乗り方を教えるために、交通公園にはよく遊びにきています。上の子はもう自転車でスイスイ走り回れますが、公道はまだ怖くて走らせていません。

 公園では、信号や標識の意味を子どもに教えたりしていますが、私自身が正しく交通規則を理解しているかといわれると、不安のほうが大きいですね。

 実際に自転車を使うなかでは左側通行ができないときや、道が狭くて歩道を通らざるをえない場合もありますし、子どもにどのようにルールを教えたらいいのか悩むことは多いです」

 免許制の車と異なり、講習の義務がないまま誰でも気軽に使える自転車。交通ルール啓発の課題について杉並児童交通公園の事務所長である浅川俊夫さんにお話を聞いた。

「当園では近隣の幼稚園や小学校の団体利用者に対し、警察の交通総務課などと連携しながら講習会を開いたりもしています。ただ、中学生や高校生になるとルール厳守の認識が薄れてしまう方はやはり多いようです。

 本来はコンスタントに交通ルール啓発の機会があるべきだと思いますが、大人に対する講習の機会は少なく、自治体のホームページなどで自ら学ばないといけないというのが現状ですね

ついやりがちな自転車の危険運転

 今回取り締まりが強化されたのは冒頭に挙げた4つの違反が中心となる。注意すべきポイントはどこだろうか。

「いずれも重大な事故につながる危険行為です。まず、自転車は軽車両に分類される車の仲間ですので、基本的には車道を左側通行しなければいけません。

『右側通行』が違反となるのは、車両の死角になりやすい車道の右側を走行することは、逆走にあたる危険な走行になってしまうからです。車の流れと向かい合って走行している場合は、逆走をしているという認識が必要ですね」(浅川さん、以下同)

自転車の走行が可能な歩道の標識。歩行者優先で、ベルを鳴らして歩行者をよけさせるのは違反行為となる

 自転車を歩行者の仲間だと思っている人も多いが、基本的には自転車は歩道の走行は認められない。車道と歩道の区別がない道路も多いが、その場合も左端走行が原則だ。

標識などで歩道の通行が許可されている場合や、道路事情によってやむをえず歩道を通行するしかない例外的なケースはありますが、いずれも徐行することが大原則。

『徐行せずに歩道通行』というのは、歩道を自転車で通行する際には、いつでも停止できるスピードで、歩行者の邪魔にならないように走行しなければいけないということです」

 自転車はどの信号に従うべきかというのも、多くの人が間違いやすいポイントだ。

基本的には、車道を走行中の自転車が従うべき信号は車道用信号。車道が赤信号であれば自転車も停止線の手前で止まる必要があります。

 歩車分離式の横断歩道などでは、歩行者用の信号が青でも、車道用信号が赤であれば自転車は進むことができません

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 しかし、歩道の走行が許可されている道路や、自転車横断帯がある横断歩道、信号に「歩行者・自転車用信号」と表記されている場合は、原則とは異なり、自転車は歩行者用の信号に従う必要がある。

間違った信号に従うと、意図的ではなくとも『信号無視』ということになり道路交通法違反となります。普段よく通る道の信号がどのようなルールになっているのか、調べておくことも大切ですね」

 意外に見落としがちなのが、路上の『止まれ』の標識や停止線。車両と同様に従わなければ、これも違反となる。

バイクなどと同様に、止まれの標識がある場所ではきちんと片足をつけて、速度0の状態で安全確認をしなければ『一時不停止』となってしまいます。歩行者や車との出合い頭の事故はとても多いため、たとえ面倒でもきちんと厳守すべきルールです」

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 いずれも身の安全を守るために必要な規則。ただ、道路状況によっては守ることが難しい場面も多々あるが……。

自転車は、乗っているときは軽車両ですが、降りて歩行する場合には歩行者とみなされます。走行が難しいと判断した場合などには、自転車を押して歩くという選択をまず考えるべきでしょうね

 取り締まり強化の4つ以外にも、スマホのながら運転やイヤホンをつけての走行、傘差し運転や夜間の無灯火運転など、街中で見かける危険運転行為はとても多い。

子どもも高齢者も自動車免許を持っていない人も、自転車に乗るときは車を運転しているという自覚が必要です。事故の加害者・被害者にならないためにも、いま一度自分の自転車の使い方が安全か、見直してみてください

 ルールの厳守は皆の安全を守るため。「たかだか自転車の違反だ」という軽い認識は、もう通用しない。

間違いやすい!?自転車交通ルールクイズ

 普段自転車を使うなかで、ついやってしまいがちな間違いも多いはず。〇×クイズでチェックしてみて。

【Q1】自転車で車道左側を走行しているとき、歩車分離式の交差点で歩行者信号が青の場合、歩行者と一緒に横断してよい

自転車交通ルールクイズ(1)歩行者用信号が青なら進んでもいい?

正解は……【×】

 原則は車道の信号に従わなければならないため、車道が赤のときは歩行者信号が青であっても、自転車は進んではいけない。ただし、自転車通行が可能な歩道で、歩道を走行中は歩行者信号に従う必要がある。

【Q1】自転車で車道を走行しているとき、一方通行/進入禁止の道には自動車と同じく進入してはならない

自転車交通ルールクイズ(2)一方通行や進入禁止の道路に自転車に乗ったまま入ってもいい?

正解は……【〇】

 自転車も車と同じ標識に従わなければならないため、進入禁止の道や一方通行の道に入ることはできない。ただし、標識に「自転車は除く」と補助表記がされている場合は、自転車の進入は可能となっている。

【Q3】自転車で車道左側を走行しているとき、交差点を右折したい場合、自動車と一緒にそのまま右折してよい

自転車交通ルールクイズ(3)交差点で車と一緒に右折してもいい?

正解は……【×】

 原付バイクと同様に、自転車も車と一緒に右折レーンを走行することはできない。交差点の左手前隅から左奥隅まで直進して一度停止し、方向を変えてさらに右奥隅に直進する「二段階右折」をする必要がある。


取材・文/吉信 武