ホラー作家兼ユーチューバーの雨穴(うけつ)さん

「自分で作った作品が怖すぎて、夜眠れなくなることもあります」

 そう語るのは、ホラー作家兼ユーチューバーの雨穴(うけつ)。YouTubeのチャンネル登録者数は73万人を超え、10月に発売した、9枚の絵に隠された謎を解くというスケッチ・ミステリー小説『変な絵』は、1か月で32万部を突破する大ベストセラーとなっている。

 全身黒タイツに白い仮面という独特すぎるスタイルで活動する雨穴に、このたびインタビュー取材を敢行。謎に包まれた素顔を語ってくれた。

ユーチューバー・雨穴の正体とは

矛盾しているようですが、昔から怖がりのくせにホラーが好きだったんです。幽霊の話を聞いたり、怖い映画を見ると、恐ろしくて夜に眠れなくなってしまうことがよくありました。

 見ると生活に支障が出てしまうので、なかなか見られない。でも見たい……。という気持ちがあり、大人になったとき、怖がりでも楽しめるホラーを作りたいと思いました。

 ホラーというと、怖さを極限まで突き詰める作品がヒットしていますが、私の動画や本には基本的に幽霊が出てきません。だからなのか、ホラー作家になってからも怖がりなところは克服できていないですね

 自身で描いた絵や、作詞・作曲を手がけ、歌唱した音楽も公開されている。

「子どものころから創作活動はしていました。オリジナルの漫画を描いたり、ギターを買うお金がなかったので段ボールでギターやベースを作って演奏していました」

 そんな子ども時代に憧れていたのは、意外にも……。

「サザンオールスターズが好きでしたね。子どものころは桑田佳祐さんに憧れていて、ああいうふうになりたいと思っていました。でも、成長するにつれて、“自分は桑田さんのようなタイプの人間ではないな”と感じてきたんです。みんなの中心になって引っ張っていく、明るい人気者ではないなと気付いて、それがコンプレックスだったこともありました。

 でもあるとき、“桑田さんのようになれないのなら、いっそ真逆の暗くてジメジメした世界観で攻めていこう”と考えました。それが今に繋がっていると思います」

 独特な世界観で人気を博しているが、作品のインスピレーションはどこから得ているのだろうか?

「実体験から思いつくことが多いです。例えば、『寄生マトリョーシカ』という、変な生物に別の変な生物が寄生している動画を作ったことがあるんですが、きっかけとなったのは、アサリの味噌汁でした。買ってきたアサリを茹でていたら、その貝の中から小さいカニが出てきまして。“これなんだろう”と思って調べてみたら、アサリにはよくカニが寄生しているということを知り、なんだか気持ち悪くなりました。この気持ち悪さをほかの人にも味わってもらいたいなと考えて、それを『寄生マトリョーシカ』という形で表現したんです。

 また、『サンタさんからのプレゼント』という動画に登場する歯茎が入ったプランターは、とあるお店の肉まんの広告がきっかけです。赤い箱の中に肉まんやシュウマイが並んで入っている写真を遠目で見たときに、それが歯茎に見えてしまって。そこから着想を得ました」

 動画制作はもちろん、登場する奇妙な生き物やアイテムも、すべてが自作だという。

「1時間前後の長編動画には、1か月から2か月くらい時間をかけています。作中に登場する生き物なども、粘土などを使って作っていて。私はもともと工作が好きなので、やっぱり実際に手を動かしてモノを作っているときがいちばん楽しいですね」

現在のスタイルに至った理由

 雨穴の大きな特徴である黒タイツに白いお面というスタイルも、考えがあってのことだった。

「作品を際立せるために、自分自身の情報量を少なくしようと思ったんです。ユーチューバーの見た目の情報量が多いと、中身よりも見た目に目がいってしまいますから。 なるべく目立たないようにと、今の恰好を選んだのがはじまりでした。今では主婦の皆様が雨穴のキャラ弁当を作ったり、親子で『変な絵』を読んでいただくなど、社会現象になっていると聞いています」

「この絵の仕掛けが解けますか?『変な絵』第一章」より

 “情報量を少なくする”という言葉のとおり、自身の年齢や性別などのプロフィールをいっさい明かしていない。

「編集者さんとのオンラインミーティングでも、基本的にカメラをオフにしていて、素顔を明かさずにお付き合いをしています。チャンネル登録者数が50万人を超えたあたりからは、家の外で撮影するのもやめました。今も、家族以外に正体はバレていません」

 30万部を突破した『変な絵』は、主婦層や若い女性をはじめ、多くの方々がハマる“国民的スケッチ・ミステリー”。日本だけでなく、中国や台湾など、すでに4か国から翻訳のオファーも殺到している。

「『変な絵』は10代から70代までと、本来のユーザー層よりも幅広い年代の方々が読んでくださっています。中でも、主婦や若い女性が多く読んでくださり、何かおかしい奇妙な9枚の絵に秘められた謎を解くのに夢中になってくださっているようです」

 この作品は、得意とする絵と音楽を融合させたものになっている。

「1年前にYouTubeで『消えていくカナの日記』という動画を作りました。奇妙な絵から謎を解くという話なんですが、これを作ったときに、自分の中で手応えがありました。視聴者の方からの反応も大きかったので、絵を題材に、さらに長編の物語を作りたいと思っていたんです。

 そのタイミングで編集者さんからお声がけいただき、『変な絵』の刊行に至りました。そして先日、このプロジェクトの“あとがき”にあたる “ロックオペラ音楽”をYouTubeで公開しました。小説を既読の人と未読の人では歌詞の意味が変わる、そんな音楽に仕上がっています。ぜひ、小説と合わせてお楽しみください」

 ひと仕事を終えた直後だが、今後の目標もすでに見据えている。

「小説で賞を取りたいです。もちろん、動画制作なども今まで通りやった上での目標なので、長期的な話になりますが……。今までの作品は、読者のことをメインに考えて話を作ってきました。でも、もっと表現とか面白さを超えたものをやりたいなと思っていて。その一番の指標になるのは、賞を取るということに繋がっていくんじゃないかなと思っています」

『週刊女性PRIME』の読者に向けては、こんなメッセージを。

「『変な絵』の大きなテーマは“母性”なんです。この母性というのは、女性に限った話ではなく、男女問わず、大人も子どももお年寄りも、誰の心の中にもあると思っていまして。今回は自分の中にある母性に向き合って、この話を書きました。

 なかでも私は、子育てを経験された、もしくは現在進行形で子育てをされている女性の方に対して興味がありまして、そういった方々のお話を書きたいなと思って出来上がった作品です。発表させていただいた歌にも、この母性に関するストーリーのヒントが隠されています。ぜひ『週刊女性PRIME』の読者のみなさまにも読んでいただきたいと思っております」

 聞けば聞くほど謎多き作家、雨穴。本人の謎は解けそうにないが、『変な絵』の謎は解けるのかトライしてみたい!

『変な絵』(双葉社)著=雨穴 ※記事の中の写真をクリックするとアマゾンの紹介ページにジャンプします