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「はじめは朝、指がこわばる程度だったのですが、やがて第二関節に引っかかりを感じるようになり、ある日、右手の薬指が曲がったまま戻らなくなってしまったのです。

 無理に伸ばすと激痛が走ります。指が曲がったままでは顔を洗うのもひと苦労。家事はもちろん、パソコンが打てないので仕事もできなくて」(Aさん、51歳)

伸ばすと激痛が!老化現象ではない

 整形外科を受診すると、典型的な“バネ指”の症状と診断を受けたという。

「思い返せばこわばりを自覚する前から、物を落とすことが増えていました。炎症を抑えるステロイド注射を打ってもらい、なんとか動くようになりましたが、1か月後、今度は左手の中指に違和感が。

 大病ではないものの、手がスムーズに使えないと生活のすべてに支障をきたし、本当に不便。何度も病院に通うのも負担です」と前出のAさんは語る。

 更年期以降の女性に多くみられるこうした手指のトラブル。気になっていても、そのうち治るだろうと放置していたり、老化現象だから仕方がないと諦めている人も少なくないはず。

「引っかかりや痛みのほかにも、腫れやしびれ、変形など、症状はさまざまですが、どれもれっきとした手指の疾患です。

 中高年の女性に多く発症し、女性ホルモンの減少が関連するともいわれていますが、手の使いすぎも大きな原因のひとつ。そのまま使い続けると、関節が動かなくなってしまうこともあります」

 と教えてくれたのは、プロスポーツ選手など多くの著名人からも信頼される治療家・酒井慎太郎さん。家事に介護、荷物の持ち運びなど、日常生活で手を使う機会は多いが、近年、患者を急増させる原因となっているのがスマホ。

「指を使いすぎることや、長時間うつむく姿勢でいることで首の自然なカーブが失われ、全身の関節のバランスが崩れやすくなる影響も。

 また、どんどん重くなっているスマホを、腕を捻った状態で持ち続けると、腕の腱や神経に負担がかかります。その結果、手指に異常が現れるのです」

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日本人の8〜9割がストレートネック

 手指の疾患で特徴的なのが、「治りづらい」「併発しやすい」「繰り返す」という悩み。これには隠れた原因が。

「私のクリニックでも、整形外科で手術したばかりなのに、違う指にまた症状が出た、という相談でいらっしゃる患者さんが非常に多い。手を酷使する職業でもないのにです。その原因は、首にあるのではと私は考えています」

 スマホやパソコン操作をはじめ、うつむきや前屈みの姿勢が多い現代人。

「前屈みの姿勢を続けていると、カーブしているはずの首の骨・頸椎が、前方に向けてまっすぐになった状態、いわゆる“ストレートネック”になってしまいます」

 近年、ストレートネックの人は激増しており、日本人の8〜9割に兆候がみられる。

手指の疾患を繰り返している人は、ほぼ100%ストレートネックです。それにより血流が悪くなるため、治りづらいのです。

 首には無数の血管や神経が通っていますから、連携性が高い肩や肘、手首、指先の痛みやしびれが増幅するうえ、頭痛やめまいなども引き起こします」

 つまり、痛みやしびれがある手指だけでなく、首のケアも重要なのだ。痛みやしびれが繰り返し起こる場合は必ずかかりつけ医に相談を。

 そうしたうえで、日常で気をつけるポイントを教えてくれた。

「変形は元に戻すのは難しいですが、痛みやしびれは、ご自身でケアを行うことで進行を食い止め、症状を軽減できます。

 今後の予防のためにも、ぜひ普段から正しい姿勢を保つこと、また身体を動かして血流をよくすることを心がけてほしいですね。ウォーキングなど、軽い運動で十分です」

連鎖する手指の症状
(1)手根管症候群
 手のひらの付け根の神経が圧迫され、痛みやしびれが起こる。親指、人さし指、中指、薬指の内側半分に現れやすい。
(2)ヘバーデン結節
 指の第一関節に痛み、腫れ、変形が起こる変形性関節症。放置すると変形が進み、物がつかめなくなることも。
(3)バネ指
 腱鞘炎のひとつで、指の曲げ伸ばしの際に引っかかりを感じ、進行すると「パチン」とはねるような動作に。
(4)ドゥ・ケルバン病
 親指の下の手首の周辺に痛みやしびれが現れる腱鞘炎。親指の使いすぎが原因と考えられている。

こんな症状があったらケアが必要
手指のトラブル進行度チェック

軽度
□朝、指がこわばる
□指が曲げにくい
□首や肩にこりをよく感じる

中度
□指の関節に痛みを感じる
□持った物をよく落とす
□指や手のひらに痛みやしびれがある
□ペットボトルのフタが開けられない

重度
□ボタンが留めづらいなど、手先が動かしにくい
□手の痛みやしびれで集中できない
□手指だけでなく腕や脚にもしびれが出てきた
□頭痛やめまい・耳鳴り・吐き気がある

手指のこわばり、痛みを感じたらやるべきセルフケア3選!

(1)固定する

 痛みのある関節に幅が広い絆創膏を巻きつけて固定し指の負担を軽減する。そのまま2週間程度様子をみる。固定することによって、変形を食い止めることもできる。

セルフケア1「固定する」

(2)首を温めながら痛むところをほぐす

 入浴時、首までお湯につかりながら、指の付け根や上腕など、痛みの元となっている腱に沿ってマッサージする。

(3)枕を使わずに寝る

 首への負担軽減のため枕を使わずに寝るのがおすすめ。畳んだバスタオルなどで調整を。

予防が肝心! 症状を軽減するストレッチ&マッサージ

 痛みやしびれは、腱や靭帯が緊張することで起こる。激しい痛みが落ち着いてきたら、かかりつけ医に相談のうえ、ストレッチやマッサージでほぐすのもおすすめ。指の痛みに直結する上腕のケアも忘れずに。

手指のストレッチ&マッサージ

 温めて行うと効果的

(1)胸の前で両手の5本指の先端を合わせて押し合い、約10秒キープ。指をしっかり伸ばす。

胸の前で両手の5本指の先端を合わせて押し合い、約10秒キープ。指をしっかり伸ばす。

(2)手の甲側にある、指と指の間のくぼみを、反対の手の親指で軽く押すようにマッサージ。

手の甲側にある、指と指の間のくぼみを、反対の手の親指で軽く押すようにマッサージ。

上腕のストレッチ

 朝晩、気がついたらいつでもトライ!

《上腕の外側を緩める》
(1)右手のひらを下に向けて腕をまっすぐ前に伸ばし、手首の力を抜く。
(2)肘を伸ばしたまま、手のひらを外側に向けるように腕を回し、5秒キープ。左手も同様に。

ストレッチ「上腕の外側を緩める」

《上腕の内側を緩める》
(1)右手のひらを上に向けて腕をまっすぐ前に伸ばす。
(2)肘を伸ばしたまま、手のひらを外側に向けるように腕を回し、5秒キープ。左手も同様に。

ストレッチ「上腕の内側を緩める」
教えてくれたのは……酒井慎太郎さん●さかいクリニックグループ代表。柔道整復師。腰、首、肩、膝の痛みやスポーツ障害の治療を得意とする。プロスポーツ選手などの著名人も含め、診療実績は100万人超。『ヘバーデン結節 痛みと不安を解消する!』(内外出版社)など、著書多数。

(取材・文/當間優子)