2022年末の紅白歌合戦に初出場するグループ(左上から)JO1、なにわ男子、緑黄色社会、IVE(紅白歌合戦のTwitterより)

「知らない出演者が多すぎる。歌をきちんと聴かせてくれる番組なら見たい」

 こう指摘するのは都内に住む50代の女性。厳しい意見の矛先は、今年で73回を数える『NHK紅白歌合戦』だ。

紅白“いる・いらない論争”まで年末の風物詩に

 『NHK紅白歌合戦』といえば、日本国民のほとんどが認める年末の風物詩。ところがここ最近は、「『紅白歌合戦』ってやる必要がある?」といった声が飛び交う“『紅白』いる・いらない論争”まで、年末の風物詩になりつつある。

 事実、昨年の『NHK紅白歌合戦』の世帯視聴率は、総合的な評価の目安とされる関東地区の第2部(21時~23時45分)が34・3%。ビデオリサーチが関東地区で調査を開始した1962年以来、過去最低を記録したほど。

 一昨年('20年)の『NHK紅白歌合戦』は、ステイホームの真っただ中ということもあり、40・3%と躍進したものの、コロナ禍前の'19年は37・3%と当時の過去最低記録を樹立。昨年はそれを更新し、あらためて視聴者の関心が薄くなっていることが浮き彫りになった格好だ。

 そこで『週刊女性PRIME』では、全国600人の20代~60代の女性を対象に、「今年の『紅白』、見たいと思う?」と題したアンケートを実施。コラムニストの吉田潮さんの分析を交え、『第73回NHK紅白歌合戦』を考察します!

◆   ◆   ◆

 見たい257人、見たくない343人─。やはりと言うべきか、「見たくない」と回答した人が半数以上。とはいえ、女性のみのアンケートということもあり、「見たい」という意見が全体の約43%を占めたことは、昨年末の視聴率34%を踏まえると意外かも。

「見たくない」と回答した人が半数以上を占めたアンケート

「見たい」という意見を見てみると、

「半世紀以上、大みそかには『紅白歌合戦』を見る習慣になっているので、見ないと年を越せないような気がします」(広島県・60歳)

「年末は『紅白』を見ないと終わらないので毎年見ている。最近の歌手はよく知らないが、それでも見たい」(埼玉県・67歳)

 “習慣”として「見る」と答える人が一定数いるもよう。その一方で、こんな声も。

「新しいアーティストも出るからそれが楽しみ。知らなかったいい歌手を知るきっかけになるから」(長崎県・22歳)

「一年の集大成なのと、日本の代表的な歌手や新しく出てきて活躍している歌手など多彩。普段まとめて見る機会が少ないので、うれしい気持ちです」(京都府・59歳)

『紅白歌合戦』の“功”

 こうした意見に対して、長年、見続けてきたコラムニストの吉田潮さんは、「アンテナを張っていない人にとって、『紅白』はこんなすてきな人がいるんだよというお披露目会的な側面がある」と『紅白』の“功”を評価。

紅白歌合戦のキービジュアル(NHKのWEBサイトより)

「私自身、昨年出場した藤井風さんのパフォーマンスを見て、彼にハマってしまったひとり。それまでなんとなく存在は知っていたけど、実際にライブパフォーマンスを目の当たりにすることができる場として、『紅白』の存在は貴重」(吉田さん)

 また、次の肯定的意見も見逃せない。

「宮崎県では音楽番組がろくにないので、Official髭男dismやVaundy、King Gnuなどの歌唱力の高い人の歌声が聴きたい」(宮崎県・42歳)

「地方ではあまり歌番組がないから。でも、見たい人、聴きたい曲以外は見ないかな」(福井県・52歳)

 こうした地方部と都市部とでは、歌番組への温度差があることも忘れてはいけないポイントだろう。吉田さんは前出のコメントに対して、ドラマの影響があるのではないかと指摘する。

「VaundyやKing Gnuなどは、ドラマの主題歌にもなっています。ドラマを見ていた人が興味を覚え、実際に歌っている姿を見たいといったニーズもあるのだと思う」(吉田さん)

否定派の正直な気持ち「出場者をほとんど知らない」

すでに“定番”となった三山ひろしの、『けん玉ギネスに挑戦』。はたしてこれを心待ちにしている視聴者はいるのか?

 対して、過半数を上回った「見たくない」と回答した人たちは、どんな理由から否定的見解を示したのか?

「出場者のほとんどが知らない人。歌手として、常に実力があって誰もが知っている人が出る『紅白』ならいいと思います」(宮城県・69歳)

「けん玉はいらない。昔のような純粋な歌合戦が懐かしい。今は見たい人がいない」(愛知県・61歳)

「K-POPやアイドルが多すぎる。売れているのかもわからないグループが出場する意味がわからない」(大阪府・51歳)

 もっとも目立った意見は、冒頭の言葉を含めた、「知らない人が多い」「知らない人が、なぜ国民的番組に出場するのか?」という声。

 先ほど、「お披露目会的な側面がある」と語った吉田さんも、「それを大みそかの『紅白歌合戦』でやる必要があるのか……という疑問はある」と苦笑する。

「仕事でコラムを書くため、毎年見続けてますが、知らない人が増えるほど、“今年で卒業かな”という気持ちになる。

 アンケートの中に、『歌が下手な歌手が多いし、その人たちの持ち歌をよく知らない。歌の上手な人ばかりが出場する歌合戦なら見ます』という回答があったのですが、ごもっとも!と頷いてしまいました」(吉田さん)

否定派はどんな番組なら見たいと思うか

アンケートでベストテン入りした氷川きよしは今年で活動休止

 では、「見ない」という人はどんな『紅白』なら見るのだろうか?

「昭和の歌が聴ける番組。当時を思い出せるような楽曲を集めてくれれば」(千葉県・61歳)

「前半と後半で、若い人向けとシニア向けで分けてほしい。昭和歌謡なら聴きたい」(兵庫県・45歳)

 最近の“昭和レトロブーム”を考えると、この意見は納得できるかもしれない。

 また、肝心の出場歌手の選考方法に首をかしげる人も少なくない。

出演基準が明確にされておらず、特別感がない。みんなが知っている前提で紹介されても白ける。

 明確な出演基準に基づいた出演者のラインナップ(投票制、世代別無差別アンケート、氏名を明確にしたプロの推薦枠など) で、忖度のない『紅白』を目指してほしい」(大阪府・39歳)

 吉田さんも、「『紅白』が商業化しすぎているところがある」と話す。

「『紅白』は、人を動かしてお金も動かす一大イベント。そのため、新しいアーティストやアイドルを広めさせ、ファンを拡大させる役割も担っている。反面、『紅白』を飯の種にする“紅白商人”のような存在がいるのでは、と邪推してしまう」(吉田さん)

 数々の辛辣な意見は、当事者であるNHKも把握しているもよう。12月1日に行われた定例会見で、NHKの前田晃伸会長は、「期待されている一方で、これでいいの?と批判も受けている」と認めているほどだ。

 一方で、「長く続く番組はどうしてもマンネリ化しやすい。年代も広い層が見ている。広い世代に幅広く満足してもらうにはどうすればいいのか、というのを現場にはお願いして、テーマにふさわしい番組になれば」ともコメントしている。

昨年は東京国際フォーラムで開催されたため、ステージが広かったこともあって、演出が冴えていました。“『紅白』やるじゃん”って見直したくらい。でも、今年は再びNHKホールに戻ってしまう。

 マンネリ化を回避するというなら、若いアーティストを増やす以外にも、ほかにやることがあると思うのだけれど」(吉田さん)

 ちなみに、今年のテーマは、「LOVE&PEACE」だそうだ。「テーマに沿った『紅白』を演出してもらえればいいなと思う」と前田会長は定例会見で述べたが、

「歌以外の企画がわざとらしくて見ていられない。昔のように、歌に本腰を入れてほしい」(群馬県・59歳)

「大みそかは忙しいので、長時間テレビを見ていられない。シンプルに歌うだけでいい。企画はいらない」(大阪府・52歳)

 と、視聴者の声は手厳しい。昨年のテーマは「Colorful~カラフル~」、一昨年は「今こそ歌おう みんなでエール」。異なるテーマにもかかわらず、何年も続けてけん玉のギネス記録にトライしている時点で、「マンネリ」と指摘されても仕方ないような気も……。

番組自体に魅力がなくなっている

出場4回目で常連入りしたあいみょんは人気が高いが……

 吉田さんは、「惰性になっている感は否めない」とバッサリ。

「今年の裏番組は、日テレが『笑って年越したい!!笑う大晦日』、TBSが『THE鬼タイジ』、フジテレビが『逃走中』、テレビ朝日が『ザワつく!大晦日』です。しっかりと歌を聴かせれば、『紅白』は見直される好機だと思うんです。

 ところが、近年の惰性ともいえる『紅白』を知っているから、“大みそかなのにこんなに魅力がないラインナップなの”と感じてしまう」(吉田さん)

「見たい人ランキング」を見ると、第1位はKing & Prince。

「解散前の5人での姿を見てみたいから」(福岡県・37歳)

 という声が上がるように、キンプリの人気と魅力によって、「見たい」の声が高まったといえる。『紅白』自体が話題を作れていない証左であり、「見たい人はいない」に205票が集まっていることからも、「話題」や「目玉」がなくなっていることを物語っている。

「小林幸子さんや美川憲一さんがいたころは、番組内容にヤマ場があった。今は、水森かおりさんが巨大な衣装を受け継いでいるけど、いかんせん地味。“巨大なのに地味”って、ある意味すごいことだけど、平坦な『紅白』になってしまっている」(吉田さん)

 ここ数年、大きな見どころになっていた氷川きよしは、今年は白組、紅組の枠を超え、特別企画として出場。だが、今回を最後に、歌手活動を無期限休止することを発表している。またひとつ、目玉がなくなる。

 全国20代~60代女性600人に聞いた『紅白歌合戦』アンケート
《『紅白』出場歌手見たいランキング ベスト10》
【複数回答、( )内は出場回数】

〈第1位〉King & Prince(5) 98票
〈第2位〉あいみょん(4) 96票
〈第3位〉Official髭男dism(3) 92票

〈第4位〉福山雅治(15) 90票
〈第5位〉MISIA(7) 79票

〈第6位〉KinKi Kids(2) 77票
〈第6位〉King Gnu(2) 77票
〈第8位〉星野 源(8) 68票
〈第9位〉ゆず(13) 66票
〈第10位〉氷川きよし(23) 55票
〈見たい人はいない〉205票

紅白という存在がすでにオワコン!?

 そして、歌合戦という構図に疑問を呈する読者も多い。

「男対女といったやり方に文句がくる時代に、これまでの対抗歌合戦ができるわけがない。歌合戦という形に縛らないほうがいいのでは」(福岡県・54歳)

「正直、もう『紅白』というスタイルで年末に競い合うというのがオワコンなのではないかと思っています。合戦とか中世の時代じゃあるまいし、もう役割は十分果たしたから、いらない」(北海道・62歳)

 NHKにとっては、なんとも耳を塞ぎたくなる意見の数々……と思いきや、吉田さんは「こういう意見が交わされているうちが花ではないか」と総括する。

『紅白』って、視聴者やメディアが作っているんですよね。メディアが取り上げなければ、『紅白歌合戦』はまったく盛り上がらないと思う。

“幽霊の正体見たり枯れ尾花”じゃないけども、よくよく『紅白』の正体を確かめてみると、民放の音楽特番と変わらないし、影響力があるコンテンツとも思えない。

 私たちが特別扱いする限り、『紅白』であり続けるというか。だから、この記事にNHKは感謝しているんじゃないかしら(笑)」(吉田さん)

 あーだこーだと話せるだけ、まだ魅力が残っているのかも。まったく話題にならなくなる前に、はたして『紅白』は復活するのだろうか……。

お話を伺ったのは……

吉田潮○よしだ・うしお○コラムニスト。医療、健康、下ネタ、テレビ、社会全般など幅広く執筆し、『週刊フジテレビ批評』のコメンテーターも務める。著書に『親の介護をしないとダメですか?』などがある

 取材・文/我妻アヅ子

 

 

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