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「乳頭がかゆい」「においがわかりづらい」などの軽い症状が実は、がんや寝たきりを招く、重病のサインであることが!受診する診療科を間違えると、原因不明で放置される心配も。ここでは、放っておくと危ない症状と失敗しない対処法を紹介。あのとき治療していれば……と後悔しないために、必読!

ちょっとした症状から重病に!

「ちょっとかゆいだけで生活に支障はないから」「たまに痛むだけだから」……。そんな症状が命にかかわる重病のサインだとしたら?

 ドキッとするような警告をしてくれたのは、幅広い医療知識とわかりやすい解説でテレビ出演も多い秋津医院院長の秋津壽男先生だ。

「私は東京・品川の下町、戸越銀座で長く町医者をやっていますが、早期に治療すれば大事に至らないのに身体からのSOSを見逃して重症化させてしまう人を多く目にしてきました」(秋津先生、以下同)

 いったい、どんな症状がどう危ないのか。よくある症状に意外な病気が隠れていることもあるという。また、受診する診療科を間違えると、見当違いの検査で原因不明とされ、結果的にそのまま放置されてしまうことも少なくないとか。

 そこで今回は、見逃されやすい、見逃してはいけない9つの重病サインをピックアップ。早期治療につなげ、あとで後悔しないために、命を守る対処法を秋津先生に教えてもらった。

重病サイン1 ウエストだけ太ってきた→卵巣のう腫

 お腹が出てきても「太ったかな」と軽く考えがちだが、ウエストだけがふくらんできたら卵巣のう腫を疑ってみたほうがよい。

 卵巣のう腫は卵巣内にやわらかい腫瘍ができる病気。のう腫が大きくなると、ウエストがふくらむほか、腸や膀胱(ぼうこう)が圧迫されて、便秘や頻尿、下腹部痛といった症状が起こることがある。

 卵巣のう腫は若い女性に比較的多く、9割は良性だ。ただし、閉経後にがん化するリスクも……。

 また、良性でも卵巣の重みでねじれて卵巣捻転(ねんてん)を起こすと激痛が生じ、腹膜炎を引き起こすことも。早期に発見して対処することが大切なのだ。

頻尿を訴えて当院を受診した21歳の女性は、腹部触診すると異様な張りがありました。聞くと1年で4kg太り、お腹も出てきたとか。腹部をエコーで見ると直径12cmほどの卵巣のう腫がありました。これが膀胱を圧迫して頻尿の症状が出ていたのです」

 秋津先生は、すぐに大学病院の婦人科を紹介し、手術をして事なきを得たという。

 太ったと思ってダイエットをしたり、便秘薬でやりすごそうとしていると対処が遅れる心配が。疑わしい場合は婦人科を受診したい。

重病サイン2 乳頭がかゆい→乳がん

 乳頭のかゆみは、下着で刺激されたり、不潔にしたりしていると起こることがある。ところが、そんな覚えはないのに乳頭がかゆくなったり、血が混じった乳汁のようなものが出たり、下着に血がついたりしていたら、乳がん、正しくは乳管がんの可能性がある。

しこりのできない乳管がんは、マンモグラフィーではわかりにくいが、乳頭に症状が出る場合があるので要チェック!

 乳管がんは、乳管(母乳が通る管)にできるがんで、乳がんの9割を占める。がんが乳管内に収まっている場合は手術でほぼ100%治る。ところが、まわりに浸潤(しんじゅん)すると状況が悪くなっていくので、早期発見が非常に大切だ。

 診断にはマンモグラフィーやエコー検査が行われるほか、しこりがある程度の大きさになると自己触診でもわかるようになる。良性のしこりもあるが、悪性の場合は表面がでこぼこしていて硬く、あまり動かないことが特徴だ。

 一方で、しこりを作らず乳管に沿って広がるタイプの乳管がんもある。マンモグラフィーやエコー検査ではわかりにくく、見落とされがちだ。

 その場合は特に乳頭の症状を見逃さないことが大事。乳管と乳頭はつながっているので、乳管にがんが広がると、前述のように乳頭がかゆくなったりといった症状が起こるからだ。

「このタイプの乳がんの見逃しを防ぐには自己触診する際に、しこりのチェックだけでなく、乳首をつまんで異常な分泌物がないかもチェックしてください」

重病サイン3 酸っぱいものだけむせる→食道がん

 なぜか酸っぱいものを食べたときだけむせる場合は、食道がんや咽頭がんの心配がある。口からは、食べ物が入る食道と、吸気が入る気道が延びている。どちらの管をオープンにするかは上部にある分かれ目で交通整理が行われているが、その近く、食道の最上部や喉頭や咽頭付近に腫瘍があるとむせやすくなる。

 がんが進行すると、どんなものでもむせるようになるが、初期は特に酸っぱいものにむせやすいので、早期発見のサインになるのだ。

 また、風邪のような声のかすれにも注意。なかなか治らない場合は、声帯付近にがんがある可能性がある。

 食道がんも咽頭がんも、発見が遅れるとやっかいながん。予防には定期健診で胃カメラを入れることだ。

「その際には『食道も心配なのでよく見てください』と一言添えましょう。胃カメラは胃の検査がメインですが、その一言が命を救います」

重病サイン4 軽い運動で左胸が痛む→狭心症

「動くと左胸が痛むが休むと収まる」というのは、実は狭心症に特徴的な症状。原因は、心臓に血液を送る血管が動脈硬化を起こして狭くなっていること。運動すると心臓は多くの血液を必要とするが、血管が狭いと十分な血液が行き渡らず、心筋が酸欠になるせいで心臓のある左胸が痛くなるのだ。最悪の場合、狭心症から心筋梗塞を起こし、突然死するおそれもある。

病院ではジョギングを5分すると痛くなるなど、具体的に伝えることが大切。CT検査で診断できるので、心配な人は循環器内科で検査を受けることをおすすめします」

重病サイン5 のどが渇く日が続く→糖尿病

 糖尿病とは、糖のコントロールがうまくできず、血液中の糖が増えてしまう病気。糖は水分を引きつけるので、糖が多いと体内が水分不足になり、異様にのどが渇くことになる。糖が血管内に増えて、体内に取り込まれなくなるので体重も減ってくる。

 糖尿病を放置すると怖いのは合併症だ。糖尿病性網膜症による失明のほか、透析が必要になったり、脳卒中や心筋梗塞など突然死を引き起こすリスクも高まる。防ぐには、やはり早期発見・治療だ。

「ある25歳の男性は、なぜか2か月前からのどが渇き、体重が減ったと受診。血液検査でHbA1c(血糖値を示す数値)が高く、糖尿病と診断しました。食事や運動指導と薬でのどの渇きは改善し、体重の管理を行い、薬も不要に。早期治療の成果ですね」

糖尿病になると脳卒中の発症率が3倍に!出典:久山町研究(Fujishima.etal.)より作成

重病サイン6 心当たりのない腰痛が続く→老人性うつ

 腰痛になったら、ぎっくり腰や腰椎ヘルニアをまず疑うだろう。ところが、腰痛のなかには、うつ病から起こるものが意外に多いことがわかっている。この場合は整形外科でエックス線検査をしても異常は見つからない。

 うつ病は気持ちが極端に落ち込んで悲観的になってしまう病気。精神的なストレスで自律神経が異常をきたし、それが痛みとなってあらわれることがある。頭痛や肩こりも起こるが、特に起こりやすいのが腰痛だという。

 最近は、65歳以上の高齢者がかかる「老人性うつ」が問題になっている。定年退職や子どもの独立など環境の変化によるストレスが原因になることが多い。活動する意欲を失って不活発になると、筋力の低下が進み、寝たきり予備群になるおそれも。

「落ち込みがひどければ、整形外科ではなく、心療内科や精神科へ。高齢者の活動低下を防ぐには抗うつ剤の服用も検討しましょう」

重病サイン7 においがわかりづらくなった→認知症

 高齢者が「最近、においがわからなくなった」と言い始めたら、認知症の疑いがある。嗅覚障害は、認知症のごく初期にあらわれる症状だからだ。認知症の人は、鍋を焦がしても気づかなかったり、料理の味つけがおかしくなったりしがちだが、それは単なる注意力低下ではなく、嗅覚障害も原因だと考えられる。

 年相応のもの忘れと認知症の違いは、例えば昨日の夕食のおかずをヒントがあれば思い出せるなら、もの忘れ。食事をしたこと自体の記憶が抜け落ちていたら認知症の可能性が高い。

「現在使われている認知症の治療薬は、原因物質の増加を抑えますが、その効果は進行を遅らせる程度。大切なのは、日頃から脳や神経を働かせることです。私がおすすめするのは文章を書くこと。特に新聞への投書は、じっくりと読んで考えたうえで書く必要があるので効果的です」

重病サイン8 急に暑がりになった→バセドウ病

 バセドウ病とは、のどにある甲状腺の病気。甲状腺では「元気ホルモン」ともいえる甲状腺ホルモンが作られている。甲状腺ホルモンは、身体の新陳代謝を調整したり、心拍数や体温を上昇させる働きをしている。この甲状腺ホルモンが過剰に作られてしまうのがバセドウ病だ。

「元気ホルモン」が必要以上に増えると、ドキドキして脈拍が速くなり、体温が上昇して汗も出てくる。そのため、急に暑がりになったように感じるのだ。

 また、バセドウ病による不整脈から命にかかわる脳卒中や心不全を起こす人もいるので要注意だ。

「女性のほうが圧倒的にかかりやすく、遺伝的要素も関係するとされています。早期発見すれば薬で治せる病気。女性の方や、血縁にバセドウ病の方がいる場合は、暑がりになったと感じたら特に意識してほしいですね

重病サイン9 食後に口の中がかゆくなった→アナフィラキシーショック

 最後に、見過ごすと即、命にかかわるサインを紹介したい。アレルギー症状が全身で一気に起こるアナフィラキシーショックは血圧が急低下し、意識障害や呼吸困難などが起こる。食べ物だと、カニ、えび、そば、卵、桃、バナナなどを少量食べただけで起こることがあるという。

 食べ物の場合はおよそ1~2時間でじんましんなどが起こるので、放置せずにすぐに病院へ。口の中がかゆくなってきたら粘膜まで異常をきたしたサイン。息が荒くなってくるようならすぐ救急車を。

「短時間で重症化するので、命にかかわります。一刻も早く対処してください」

診療科に迷ったら総合内科がおすすめ

 腰痛がうつ病からくるとか、嗅覚障害が認知症の初期症状だとか、知っていなければ思い至らないだろう。例えば腰痛で整形外科に行っても、うつ病が原因だったら、いくら検査しても異常は見つからない。原因不明のまま放っておくと症状が治らないうえに、隠れた重病の治療が遅れることになってしまう。

 秋津先生は、「なかなか原因がわからなかったり診療科に迷ったら、大学病院などに開設されている総合内科外来を受診するのもおすすめ」とアドバイスする。

 総合内科とは、一人の患者を循環器、消化器、呼吸器など各内科領域を含め、全身を横断的に診るという比較的新しい概念の診療科だ。現代医療は高度化すると同時に、診療科が臓器別、疾患別に細かく分かれるなど専門化が進んでいる。

 そのなかで総合内科医は、専門に偏らずに症状を全身的に見極め、適切な専門医に導く案内役も担っている。秋津先生も日本内科学会の認定総合内科専門医だ。

「身体のSOSに早期に対処できるか否かが運命の分かれ道。ちょっとした不調だからと放置せず、医師にしっかり診てもらうことが大切です」

 話を伺ったのは……秋津壽男先生 ●秋津医院院長。1998年、東京都品川区戸越銀座に秋津医院を開業。かかりつけ医として地域医療を担う一方、「何でも解決!スーパー町医者」としてテレビ出演・講演も多い。著書に『放っておくとこわい症状大全』(ダイヤモンド社)ほか多数。

〈取材・文/志賀桂子 イラスト/伊藤智代美〉