鹿島市方面からの道、パトランプが光り防犯カメラが設置されていた。50m先には越川容疑者かが住むプレハブ小屋がある

「何もお話しできないわ。ごめんなさい……。私が話したってバレたら、何をされるかわからないから怖くって。もしかしたら火をつけられるかも……」

 茨城県神栖(かみす)市の太平洋沿岸を通る『波崎(はさき)シーサイド道路』のそばに住む女性は、記者にそれだけ告げると、ドアを閉めた。

通せんぼおじさんの正体

 この女性に限らず、近隣住民たちが怯える男がいる。

 それが、『波崎シーサイド道路』の一部を通行止めにしている“通せんぼおじさん”だ。

 茨城県警は12月5日、神栖市に住む、無職の越川俊雄容疑者を傷害の容疑で逮捕した。

「11月8日、鹿嶋市に住む会社役員の男性(43)が、誤って越川容疑者の私有地に入ってしまったことから始まります。車の侵入に気づいた越川は、その車が出られないよう、私有地の出入り口をチェーンロックで塞いでから、自分も車で男性のもとに駆けつけて、罰金として4万円を要求。男性は支払いを拒み、2人は押し問答に。車で出られなくなってしまった男性は、越川が立ち去ろうとする車の前に立ちふさがったが、越川は車を急発進させて追突。男性は、腰の骨を折るなど全治2か月のケガを負いました」(捜査関係者)

 容疑については、どのような供述をしているのか。

「最初は黙秘していたが、今は“車で押しただけでケガをさせるつもりはなかった”と話している」(同・捜査関係者)

警告看板の異様な光景

支払いができない場合は車を預かり、預かり料は1日4万円の文字が…

 さっそく千葉県のJR銚子駅から現場へ向かうと、

《警告 WARNING この先私有地! 金銭等のトラブルになる恐れあり 侵入禁止》

 と書かれた看板が見えてきた。さらに先に進むと、

《この先、私有地の為通り抜けできません この先は、道路ではありません》

 再び警告する看板が。あまりにも異様な光景に戸惑いながらも奥に進むと、

《私有地につき通行止め 無断侵入した場合は四万円を徴収します。支払いができない場合は、車を預かります。預かり料は、1日4万円ずつ増えます》

 と書かれた看板が立ちはだかる。

 ここが事件現場となった場所だが、私有地の“入り口”と思しき場所には、左右に侵入を警告する看板が置かれ、その間に車両の進入を阻む柵のようなものがあり、チェーンが掛けられている。これなら誤って侵入することもないはずだけど……。

 神栖市の道路整備課の担当者に話を聞くと、

「普段は土地の権利者さんが通行しますので、通常は柵やチェーンなどない状態です。警告する看板は、市で設置しています。間違って入ってしまう人が少しでも減るように、数を増やしたりしてきました」と話す。

 通行止めにするのであれば、土地の所有者が使用するとき以外は“柵”を設置しておけばいいはずなのだが……。

越川容疑者と市のトラブル

 市の広報誌によると、1970年に整備された同道路でのトラブルは、越川容疑者の親族が1994年1月にこの土地を購入したところから始まる。

「1996年12月に地権者さんが、道路には自分が持つ私有地が含まれるのだと当時の波崎町を提訴。最高裁まで争い、2004年12月に波崎町が敗訴しました。現在は、波崎町の合併に伴って神栖市がこの問題を引き継ぎました。今も道路として使えるよう、権利者さんとは弁護士を通して交渉している段階です。ただ、交渉内容については、控えさせていただきたい」(同・道路整備課の担当者)とのこと。

 通行止め区間の近くに住む住民たちに話を聞くも、

「全然わからない。関わりたくもない」

「話すことはない」

 と、冒頭の女性と同じく、口を閉ざす。

 土地の権利者と市が対立する構図のようだが、なぜ、地権者である越川容疑者を近隣住民は恐れているのか。

 とある地元住民の男性は、囁くように話し始めた。

「この“通行止め問題”は、テレビで何度も取り上げられているんだけど、顔が出ないインタビューでも声や服装で誰が話したか越川にバレちゃうんだよ。それで文句を言われた人もいる。余計なことを言うと、越川に何かされるんじゃないかって、みんな怖がっているんです。過去に何度も逮捕されていますから。それぐらい危ないヤツなのよ」

 2009年には器物損壊容疑で、2012年には人に向けて水中銃を発射したとして、殺人未遂の疑いで逮捕されていた。

 そして今回の経緯についても説明する。

「波崎町は裁判に負けてから、越川の父親に道路の使用料を払っていたんです。トラブルのきっかけは、波崎町が2005年8月に神栖市に合併されてから。神栖市は工業地帯もあって金があるだろうと、越川の父親は“使用料として2億円払え”と言った。それを聞いた当時の市長は“なら道路は使わない!”と激怒して、使用料を払うのをやめたんです。すると父親や、その仲間が通行料500円を徴収し始めたんだよ」(地元住民の男性)

 “通行止め”問題のウラには、どうも穏やかではない“越川家”の歴史があるようだ。

愚連隊だった越川容疑者の父親から

 越川容疑者の父親と知り合いだったと話す別の男性は、

「捕まった俊雄の父親は“愚連隊”だった。ヤクザの目を盗んで賭場を開いたことで、捕まって留置場に入ったことも。問題の土地は、高利貸しをしていた越川の父親が、人から借金の担保として取り上げたもの。父親が住んでいた一軒家も、借金のカタで手に入れた家です。父親はそんなことばっかりしていた。数年前から体調を崩して、1~2年ほど前に亡くなったけどね。それで今は息子の俊雄が1人で監視しているワケよ」

越川容疑者の父親が住んでいた家(表札には別の人の名前が書かれているが、それは父親が家を取り上げた前の住人)

 市との交渉について、越川容疑者はこんなことを言っていたという。

「市はずっと土地の買収交渉をしていたんだが、越川は3億円の価格を提示して、頑として値引かなかった。だけど今回の逮捕前に俊雄と会ったとき“市との交渉は順調か?”と聞くと“1億円で売れそうだ”と言うんだよ。2億円も下がったとはいえ、市がそんなに払うかね?」(同・知人男性)

 監視のためか、越川容疑者は、私有地の一角に建てられたプレハブ小屋に住んでいた。

俊雄がプレハブ小屋に住みだしたのは、5年ぐらい前からかな。詳しいことはわからないけど、親子の関係はよくなかったはず。父親は骨董品が好きで、木彫りの観音像とかたくさん集めていたんだが“俊雄が小遣い稼ぎに盗みに来るんだ”なんてこぼしていたからね。俊雄は定職に就いていたわけではないし、金がなかったんじゃないか」(同・知人男性)

 無断侵入に対する4万円の罰金は越川容疑者が生きるため、金を稼ぐ手段だったのか。

「被疑者によると、以前は通行料をとって通行させていたが、ゴミを捨てられるなどの嫌がらせを受けたため、通行禁止にした。最初は罰金1万円だったが、興味本位で侵入する人が後を絶たず、2万円、3万円と値上げしていったと話している」(前出・捜査関係者)

 地元のタクシー運転手は、

「車1台が通れるようになっており、タチが悪い。防犯カメラを何台も設置して、入ったらアイツがすぐに車で飛んでくる。それで道路から出られなくなって、車を置いていかなくてはならなくなった人を、今年は3人ぐらい迎えに行きました。警察も“民事不介入”にしており、車を置いたままだと“1日たつと、もう4万円増える”って言われて、みんな諦めて払うんです。トラブルになるのは、事情を知らない遠方からの人だね。鹿嶋市の方面に行くのに、あの道を使えば信号もないから30分ぐらい違うんだよ。通れるようになったら、便利なんだけど……」

 問題が解決する日は来るのか――。