(左から)ギャル曽根、もえあず

 “やせている”のは美なのだろうか。ジャーナリストの加藤秀樹氏が現代女性のストレスと心の闇を考える連載企画。何かと疑惑の多いやせの大食い女子の謎に迫ります。

ギャル曽根以外はみんな吐いてる?「やせの大食い女子」の謎

 年末年始は太りやすい。運動不足になりがちなうえ、食べるイベントがめじろ押しだからだ。

 クリスマスに正月、忘年会に新年会。この時期には、数か月、あるいは1年近く続けてきたダイエットも挫折しやすくなる。また、摂食障害において、拒食から過食に転じることが多いのもクリスマスや正月。食欲に火がつきやすい時期なのだ。

 しかし、食べすぎれば太るという法則から無縁に思える人たちがいる。テレビやユーチューブなどで「やせの大食い」ぶりを見せる女性たちだ。

 こうした人たちが注目されるようになったのは1990年代。きっかけを作ったのは、テレビ東京系のバラエティー番組だ。大食いをエンタメ化して、そこからギャル曽根のような人気者も生まれた。

 今も大食いは視聴率をとれる企画だし、ユーチューブで数十万人単位のチャンネル登録者数を持つ人もいる。

 また、地域おこしのイベントにも登場。今年10月に新潟県の道の駅あがので、おごせ綾がユーチューブの公開撮影を行った際に、筆者も訪れてみた。

 大食い番組で準優勝した経験もある彼女は、現在32歳。最近のプロフィールでは、150センチ32キロとある。地元食材によるすき焼きや新米を食べまくるだけのイベントだが「やせの大食い」にはそれだけの見る価値があるのだ。

 彼女以外にも、もえのあずき三年食太郎はらぺこツインズ大盛のり子、さらには東大生タレントの中澤莉佳子やホリプロの女優・佐竹桃華といった人が注目されている。いずれも、標準よりも細いくらいの体形なので、あやかれるものならあやかりたい人もいるだろう。

 とはいえ、彼女たちには常にある「疑惑」もつきまとっている。本来、人間の体重変化はカロリーの摂取量と消費量のバランスで決まるのに、あれだけ食べていてやせているのはおかしいというわけだ。

 2年前には『日刊サイゾー』が、

《摂食障害が疑われる事例も……大食い番組の闇を元ADが暴露!『みんな収録後に吐いてる……』》

 と題したネットニュースを配信した。

 摂食障害といえば、先月、高橋ちなりが自身のツイッターで入院したことを告白。

《双極性鬱 拒食症 自殺願望 どうしてこんなに酷くなった》

 と、つぶやくなど、心配された。酒好きでもある彼女は、肝臓の数値も標準の30倍以上に悪化していたという。

摂食障害で体重が27キロに

 実際、大食い番組の実情については、元フードファイターだという女性が衝撃的な告発をしたことも。12年前、自身のブログで、

《怪物級に食べてもガリガリなのは、嘔吐で、消化吸収する前に出してしまうから。過食嘔吐の量やタイミング、吐き出す技術に長けたごく一部の『ベテラン摂食障害者』のみが選ばれし『トップフードファイター』として華やかな世界で活躍できるのです》

 と書き、話題になった。この人は摂食障害をこじらせ、168センチで27キロにまで激やせ。当時、筆者は何度かやりとりしたが、現在の消息は不明だ。

 というわけで、彼女たちをめぐってはネットでもいろいろ騒がしい。「手に吐きダコがある」とか「唾液腺が腫れてエラが張っている」といった指摘が飛び出したり、ちょくちょく、こんな声も上がっている。

「ギャル曽根以外はみんな吐いてるんじゃないかな」

手を喉に突っ込み嘔吐するときに写真のようなタコができるようになる。これが「吐きダコ」と呼ばれ、大食い系ユーチューバーなどの手を見る視聴者も多い

 ここで注目したいのは、なぜ彼女だけは例外扱いされるのかということ。今年の11月にはアニメの『デリシャスパーティ プリキュア』(テレビ朝日系)に、本人役で登場したりもした。

 食べることが大好きな少女を主人公とする今回の「プリキュア」は、食の素晴らしさを描く食育的な作品でもある。そこに起用されるというのは、世間がギャル曽根に健康的なイメージを抱いているからこそだろう。

 これはテレビなどで、彼女がやせの大食いでいられる理由がたびたび検証されてきたことも大きい。

 2008年に出版された『ギャル曽根の大食いHappy道~食べても食べても太らない~』にも、空腹時の胃袋と食後の胃袋の写真が掲載され、通常は普通サイズなのに4倍もの大きさまで膨らむことが示されている。

 ではなぜ、普通の4倍も食べられるのに、太らないのか。同書ではまず《褐色脂肪細胞の活動が活発》で《体温が上がりやすく》《エネルギーを消費しやすい》ことが挙げられていた。

 また《ビフィズス菌が多くて、腸のぜん動運動が活発》なので、排泄も盛んだという。本人も、

《なんせ、めっちゃ出ますからねっ。まぁ、あれだけ食べれば出なきゃ困るんですけど、大は1日6回くらいで、1回の平均が約15分ですからっ!(略)当然ながら長年痔には苦しんでます……》

 と、納得の様子だ。

 つまり、さまざまな体質が作用しての「やせの大食い」というわけだが─。このうち、トイレの回数の多さについては、もえあずなど他の人の検証でも紹介されたりしている。しかし、他の人だと「トイレはトイレでも、吐くために行くのでは」という声が上がりやすい。やはり、ギャル曽根だけは特別なのだ。

 これは彼女のキャラや生き方にもよるのだろう。

 食べ方もキレイだし、言動も自然で、結婚や出産も経験してきた。体形についても、年相応の変化はしている。22歳だった前出の本のころは、162センチ45キロと記されていて、まさにギャル体形だが、37歳の今はそれなりのアラフォー体形だ。

ギャル曽根の生き方

 そんな本人の普通っぽくて飾らない健康的な雰囲気が、ガチの「やせの大食い」という認定につながったのではないか。

ギャル曽根は高校卒業後に調理師免許、2010年には食育アドバイザーの資格を取得。太りぎみだった夫を15キロやせさせた実績もある

 また、最近は彼女の母や姉、子どももテレビに登場して、大食いを披露。遺伝的要素もあることが示されている。

 だとしたら、彼女は奇跡の体質の持ち主ということに。一方、後天的に「やせの大食い」体質に変われたという人もいる。

 大食い番組で、女性では史上最強ともいわれた赤阪尊子だ。彼女は高校時代、ミニの女王・ツイッギーに憧れ、過激なダイエットを行い、159センチで31キロまでやせた。回復するまで4年もかかったが、その結果「いくら食べても太らない身体」になっていたという。

 病院では「胃の壁が普通の人の2倍ある」と言われたそうだが、史上最強レベルの大食いでも太らないことの理由にどう関係しているかは謎のままだ。

 そういう意味で、こちらも奇跡みたいなものだろう。筆者は摂食障害の女性を数多く見てきたが、たしかに闘病を経て、少食が身についてしまったり、消化吸収の機能が弱まったりする人はいる。ただ、赤阪のように普通の人の何倍も食べて太らないという体質に変わった人の話は他に聞くことがない。

 むしろ、ギャル曽根のほうがまだ参考にできるかもしれない。大食いなりに規則正しく、また、ちゃんとしたマナーでおいしく味わうという姿勢。子どものころから長距離走が得意だったというだけに、身体を動かすことも嫌いではないようだ。

 そして何より、メンタルの安定感だ。彼女は小倉優子と仲良しで、離婚問題でゴタゴタしているときも相談に乗ったという。それも週5日の長電話という、かなりヘビーなもの。ネガティブな話に付き合っても、引きずられてメンタルをやられたりしないところはさすがだ。

 前出の本では、ネットでの中傷についても、

《あんなの、いちいち気にしてもしかたないですよね。『わっはっは!』って笑っちゃう》

 と語っていた。

 この性格のおかげで長年、芸能界で活躍できているのだろうし、ストレスによる食の乱れとも無縁なのではないか。そこもおそらく「やせの大食い」の維持につながっているはずだ。

 太りやすい年末年始は、ギャル曽根レベルの安定メンタルで乗り切りたい。

加藤秀樹(かとう・ひでき)●中2で拒食症の存在を知り、以来、ダイエットと摂食障害についての考察、その当事者との交流をライフワークとしてきた。著書に『ドキュメント摂食障害―明日の私を見つめて』(時事通信社)がある