'19年11月、天皇陛下の即位を祝うパレードである『祝賀御列の儀』。燕尾服の陛下とローブデコルテにティアラ姿の雅子さま。およそ11万9千人の国民が沿道に集まった。

 皇室の方々のお正月のシーンといえば、テレビで見る一般参賀のご様子。宮殿のバルコニーに立って手を振られている印象が強いが、実は天皇陛下のお正月は超大忙しなのだ。

天皇陛下がいちばんお忙しい日

「元日は『天皇陛下が1年でいちばんお忙しい日』といわれています」と元宮内庁職員で、皇室解説者の山下晋司さんが教えてくれた。

 なんと、元日は夜が明けきる前の暗い時間から最初の行事に臨まれるというのだ。いったい何時に起きられているのか、前日の紅白歌合戦はご覧になる余裕はあるのだろうか、疑問が尽きない。

 山下さんに皇室のお正月の行事や、年末年始の過ごされ方など素朴な疑問を聞いてみた。天皇ご一家のお正月を拝見させていただこう!

お雑煮やおせちは召し上がるの?

 ご多忙を極める元日、天皇・皇后両陛下にのんびりお正月料理を囲まれる時間は皆無。

 天皇陛下が宮殿で行われる最初の行事に、おめでたい料理を神様に捧げる晴の御膳というものがあるが、実際にその御前を召し上がることはない。ご朝食に召し上がるのは御祝先付と呼ばれる伝統的な宮中の正月料理だ。

「なかでも重んじられているのが、薄く丸い白もちの間にひし形の小豆もちと白みそ、ごぼうの甘煮を挟んだ菱葩と呼ばれる食べ物です」(山下さん、以下同)

 聞き慣れないが、年末から年明けに街の和菓子屋さんの店頭に並ぶ花びらもちは、この菱葩を模したものだ。

 正月料理といえばお雑煮も気になるところ。

「お忙しい両陛下がゆっくりお食事をとられるのは夜。ですから、お雑煮も夜に召し上がるそうです」

 明治になるまで天皇がいたのは京都のため、雑煮は京風。甘い白みそ仕立てで、お湯でやわらかく戻した丸もちと、鶴に見立てた里芋、三種の神器の鏡に見立てた大根の輪切り、アワビやナマコのやわらか煮などが入っている。

 ちなみに、年越しそばは?

「宮内庁の大膳課が作った手打ちそばを召し上がるそうですよ」

 ひと口分ずつ巻いて盛りつけたそばのほかに、揚げ物や煮物、小鉢も大みそかの晩に供されるという。

紅白歌合戦はご覧になるの?

「天皇陛下は元日の早朝から儀式があるため、まだ真っ暗な午前4時とか4時半には起床されると思います。そのため、前日の大みそかに遅くまで起きていらっしゃるとは考えにくい。少なくとも陛下は深夜に及ぶ番組はご覧にはならないと思いますよ」

 元日の早朝からいったい何をされているのか。

「元日は、早朝5時半から始まる四方拝というとても大事な儀式があるんです。神嘉殿という殿舎の前庭に敷かれた畳に座られ、四方の神々に向かって拝礼されます」

 天皇陛下の新年はこの祭祀から始まるのだ。

「宮内庁に在籍していたときに四方拝の直後に行われる歳旦祭の儀に参列したことがありますが、真冬の早朝、しかも屋外ですから、厳しい寒さで足の感覚がなくなったことを覚えています(苦笑)」

 この儀式の間、雅子さまはお慎みになっているが、午前9時45分の祝賀以降はご一緒にスケジュールをこなされる。

「両陛下は夕方まで部屋を次々に移動して、皇族や内閣総理大臣など多くの人々の祝賀をお受けになります」

 主なスケジュールを右ページにあげたが、目が回りそうなほどの分刻み。私たちにとって休日である元日は、陛下にとってはもっとも激務でいらっしゃる日なのだ。

高齢の新年一般参賀は行われるの?

 1月2日、天皇・皇后両陛下が皇族方と一緒に、皇居の宮殿東庭で国民から祝賀を受けられる一般参賀。

「コロナ禍以降は見送られていましたが、来年は3年ぶりに実施される予定です。ただし、今回は事前申し込み制。参加の申し込みは11月に終了しています」

 当日、皇室の方々は計6回ベランダに立たれる予定で、各回1500人、合計9000人のみが参加できる。抽選倍率はなんと約10倍とのこと。

「感染対策の面から、参加者の人数を非常に絞った形で行われることになりました。平成以降でいちばん多かったのは平成31年の15万人ほど、これまでの最多は1953年の64万人ですから、かなり少ないことがわかると思います」

 なお、最多人数を記録した翌年、一般参賀のため皇居に押し寄せた人々が二重橋の上で将棋倒しになり、17人が死亡、60人以上が重軽傷を負う事故が起きている。

「今年10月に韓国の梨泰院で起きた雑踏事故も記憶に新しいですが、この二重橋での事故などをふまえて日本の警察は雑踏警備に力を入れてきました。抽選に当たった人はどうぞ安心してお出かけになってください」

 抽選に外れた人にも朗報が。宮内庁庁舎前に記帳所が設けられ、こちらには誰でも参加することができる。

「上皇・上皇后両陛下は、こうした記帳簿を天皇・皇后時代にすべてご覧になっていたそうです。自分たちに対して記帳してくれたのだからすべて見なくては、というお考えだったようです」

 忙しい公務の合間を縫って膨大な量の記帳簿をご覧になっていたというおふたり。

「天皇陛下は皇太子時代からそういったお姿に接してきておられるので、同じお気持ちを持たれていると思います」

皇居ではお正月に何を飾るの?

 お正月飾りといえば、門松、鏡もち、しめ飾りなどが思い浮かぶが、皇居に飾られるのは「春飾り」と呼ばれる大型の盆栽だ。

「おととし、当時中学2年生だった悠仁親王殿下が作られた春飾りの写真が公開されました」

悠仁さまが作られたお正月用の春飾り。梅の古木や松が植えられている(2020年1月2日、元赤坂の赤坂東邸)

 春飾りは、松竹梅のほか千両、万両など、縁起ものの植物をあしらった伝統の正月用の盆栽で、通常は宮内庁の庭園課職員によって作られる。

「悠仁親王殿下は、この写真が公開される10年ほど前から、春飾り作りに取り組まれていたと聞いています。幼稚園に通われているころから、紀子妃殿下と一緒に皇居の大道庭園で庭園課職員にいろいろと教えてもらい、作られていたそうですよ」

黒田清子さんはご実家に帰らない?

 2005年にご結婚されて皇室を離れた黒田清子さん。一般の家と同じように、年末年始に両親のもとに帰ったりしないのだろうか。

「元日に皇居にいらっしゃいますが、あくまでご挨拶にお見えになるだけで、一般の家庭のように泊まりがけでご実家に帰られるということはありません」

 ただ、元日の夜にご家族みなさまで過ごされることはあったそう。

「コロナ禍以前は上皇・上皇后両陛下、秋篠宮家の方々もお集まりになり、みなさまでお食事をされていたそうです。しかし今はコロナ禍ということで、お食事会はしばらく行われていません」

 実家に帰って大勢で気軽に食事をしにくくなったのは、皇室の方々も一緒なのだ。

天皇陛下の元日の主なタイムスケジュール(平成28年元日)

午前
5:30 御所で四方拝
5:40 三殿で歳旦祭
9:05 両陛下、祝賀およびお祝酒(侍従長はじめ侍従職職員)
9:30 晴の御膳
9:45 (以降、両陛下)祝賀(長官ほか参与、御用掛)
10:00 祝賀の儀(皇族)
10:10 祝賀(元皇族、御親族)
10:15 祝賀(未成年皇族)
11:00 祝賀の儀(内閣総理大臣、衆参議院議長、最高裁判所長官ほか)

午後
1:10 祝賀(元宮内庁職員、元皇宮警察本部職員)
1:20 祝賀(宮内庁職員、皇宮警察本部職員)
2:30 祝賀の儀(各国の外交使節団の長と配偶者)

教えてくれた人……山下晋司さん●皇室解説者。元宮内庁職員。書籍『美智子さま100の言葉』(宝島社)、テレビ番組『皇室の窓』(BSテレ東)などの監修を手がける。

(取材・文/後藤るつ子)