吉本のお笑いコンビ・天才ピアニスト(左から竹内知咲、ますみ)

 かもめんたる・岩崎う大が、近々きっと話題になりそうだと思うお笑い芸人を予想する連載企画。今回の芸人は天才ピアニスト。

ストイックな芸風のコントでTHE Wを制覇した女性コンビ

 ストイックなコントでTHE W 2022を制した女性コンビ・天才ピアニスト。

 思えば、'21年は'22年と変わらずストイックなコントでAマッソと並び準優勝でした。ストイックなコントとはどういうことだ?と思われるかもしれませんが、僕は2人のコントからリアリズムを大事にしている印象を受けるのです。

 例えば、ストイックじゃないコントでは、大きな笑いを起こすためにキャラクターや展開を不必要に派手にする手法が取られます。一方彼女たちは、設定と登場人物を提示した後は、そこに自然に存在する要素をうまく掛け合わせたストーリーを作り、笑いを起こすことを大事にしているように思います。

 THE Wでの1本目のコントは、路上で恋人とケンカしている女性と他人のケンカをさながらスポーツ観戦のように楽しむのが趣味のおばさんが対立するコントで、2本目は夫に冷たい態度を取られてVRの世界に理想の家族を求めるお母さんと、その世話を焼く娘のコントでした。

 設定だけで面白そうなコントですが、2本のコントがあそこまで秀逸だったのは、まさに女性同士でやるべき設定だったからだと思います。1本目のネタは、ケンカを見てる「おじさん」よりも「おばさん」のほうがポップですし、見られる側は同性のほうが対立も描きやすいです。

 2本目のネタも、父と息子でもできなくはないですが、思春期の息子はそんな父親にわざわざ世話を焼くようには思えません。娘だから母の女心に同情するというところにドラマがありました。THE Wは女性しか参加できない大会ですので、その大会でしっかりとそういうネタで優勝したことも大きな意味があったと思います。

ストイックなコントでは賞レースに勝つのは難しい

 しかし、こういうストイックなコントでインパクトが勝負の賞レースに勝つのは、実は至難の業で、しかもTHE Wは、ピン芸もあれば漫才もあるお笑い異種格闘技戦です。それをあのストイックな芸風のコントで制覇したのは大きな称賛に値すると僕は思います。

 ストイックなコントは、派手さを外に求めることはできません、外に手を伸ばすと途端にストイックなコントではなくなってしまいます。脈絡からそれた動きや、顔芸を彼女たちは御法度にしているような印象を受けます。そうした場合、強いネタにするには、逆に内側に目を向けなくてはいけません。

 爆笑を取るには、コントの解像度を上げ、深掘りして、その世界の中でどんな化学変化が最大限の笑いの爆発を起こせるのかを模索する必要があります。まさにストイックな作業です。

 また、天才ピアニストを非凡なコンビにしているのが、ネタの制作者がツッコミの竹内さんだということではないでしょうか。ボケのますみさんは上沼恵美子さんのモノマネ芸人でもあり、おばちゃんキャラなどのポップな芸風が印象的です。

 竹内さんはコンビの中でいうと、見た目のインパクトとしては地味といわれるほうだと思います。ツッコミで地味なルックスとなるとコント中に目立たないという事態になりかねません。しかし、彼女がネタを作っている分、ネタの中に彼女の主張がしっかりと入っていて、ちゃんと面白く目立てるのです。両方がちゃんとシュートを決められるわけですから、それは強いです。

 こんな両方しっかり面白いコンビですから、彼女たちは漫才も面白いんです。見る人によって、コントと漫才どっちが好きか分かれるぐらい同じレベルで面白いので、キングオブコントそしてM-1グランプリで活躍する日も遠くはないでしょう。

岩崎う大 1978年東京都生まれ。早稲田大学卒。かもめんたるとして槙尾ユウスケとコンビを結成。キングオブコント2013年優勝。お笑い芸人だけでなく、脚本家、放送作家、漫画家として多彩に活躍中
 
加納の住むマンションから出かける『ザ・ラヂオカセッツ』の山下秀樹

 

加納の住むマンションから原付で出かける『ザ・ラヂオカセッツ』の山下秀樹

 

直撃に答えるAマッソ・加納(左)と村上

 

加納の住むマンションから出かける『ザ・ラヂオカセッツ』の山下秀樹