ホットドリンク『缶スープ』のラインナップ

 冬になると自販機で、缶のコーンポタージュやおしるこが売られていることは知っていた。だが、駅の自販機でラーメンスープの缶を発見したときは、思わず二度見してしまった。缶のサイズはコーンポタージュと同じくらいで、麺や具は入っておらず、スープのみ。とんこつラーメンで有名なラーメンチェーン「一風堂」が監修しているようだ。

変わったホットドリンクの品揃え

 気になって他の商品ラインナップを見てみると、カレーやクリームシチュー、甘酒やチゲ風フープ、しょうが風味のスープなど、ちょっと変わったホットドリンクがたくさん。いつの間にこんなに増えたのだろう。

 しかも、なぜか街中にある自販機にはあまり見られない。駅の自販機に多いのだ。いったい、この変わり種ホットドリンクは誰がいつ飲んでいるのか。朝のホームでおにぎりなんかをラーメンスープで流し込んでいる人がいるのだろうか……? JR東日本管内のホームや駅構内の自販機を主に展開している株式会社JR東日本クロスステーションの小室塁さんに話を聞いた。

ド定番商品を大きく上回るヒット商品

コーンスープやラーメンスープなどの商品を私たちは『缶スープ』と呼んでいますが、弊社では実は2017年の冬ごろから力を入れています。ただ、昨シーズンに新発売した一風堂さん監修のラーメンスープが異例のヒットになったので、最近、急に増えた印象を持っている人も多いかもしれません」(小室さん、以下同)

 もともと駅構内やホームでは、朝の時間帯に水やお茶がよく売れるという。午後になると売り上げは落ちてしまうが、その時間帯でも比較的よく売れるのが缶スープ類。自販機全体の売り上げを伸ばすためには缶スープが欠かせないのだ。

 そのため、JR東日本クロスステーションでは、2017年ごろからふかひれスープやとん汁、ミネストローネなど、多いときには10種類ほどの缶スープを取り扱っていた。そのおかげもあり、缶スープの売り上げは2015年と比べると2018年は120%以上の伸びだったという。

一風堂のラーメンスープがヒット商品に

 そんななか、2021年10月に発売された一風堂のラーメンスープは缶スープの大定番であるコーンポタージュの1.5倍の売り上げを記録(※)。これまでの缶スープの中でいちばんのヒット商品になったのだ。いったい、このラーメンスープ缶はどういう経緯で作られたのだろうか。きっかけは意外にも、ゼリーだったとのこと。

※アキュアの自販機における2021年10/18 週、10/24 週の1箇所あたりの週間販売本数実績での比較による

「2020年に『天然水ゼリー』という商品を弊社のオリジナル商品として開発・発売したところ、発売当初からSNSで話題になり、緊急増産するなど大ヒットしました。ラムネ風味の水をゼリー状にした商品なので、当初はここまでヒットするとは思っていませんでした。その成功体験があったので、『飲料メーカーさんが考えないようなちょっと変わった商品を作ってみよう』という社内の空気があり、それが『コクと旨味の一風堂とんこつラーメンスープ』の開発につながっていきました」

 実際にラーメンスープ缶を製造しているのは飲料メーカーだが、この商品はJR東日本クロスステーションが企画を提案してメーカーと一緒に開発したもの。そのため、JR東日本クロスステーションが扱っている自販機で主に売られている。街中の自販機にないのはそのためだ。

 なぜラーメンなのかというと、開発のヒントになったのは以前にふかひれスープを販売した際の『このスープ、シメのラーメン代わりになるよね』というSNSのコメントだったとのこと。では、実際にシメのラーメンのように飲まれているのだろうか。

その場で飲まず、家に持ち帰って雑炊に

「SNSなどでたくさんのコメントが寄せられましたが、『おにぎりのスープとしてはかなり良い』といったように、おにぎりに合うという声は多く見られました。実際、私も昼休みに会社の近くにある駅の自販機で買って、おにぎりと一緒によく飲んでいましたよ」

 また、家に持ち帰ってご飯にかけたり、雑炊にして食べている画像もSNSで多かったという。これまでに30本以上買って飲んでいるという愛飲者に話を聞いたところ、自宅で缶2本分のスープに市販の中華麺を入れて食べたこともあると教えてくれた。やはり、炭水化物を食べたくなる味なのだろう。

 売れる時間帯としては午後から徐々に伸びていき、18時台がピーク。朝の時間帯に朝食と一緒に飲んだり、お酒を飲んだ帰りにシメの代わりに、が主流というわけではなさそうだ。

 ちなみに、購入者は男性が75%。圧倒的に男性に人気がある。売れている場所としては特定の自販機で多く売れているということはないそうだが、ホットドリンク全体でいうと意外なところでは、千葉県の蘇我駅といった始発駅でよく売れることがあったという。始発駅で待機中の冬の車内は、暖房が切れている場合もあってかなり寒い。ホット缶で温まりたくなるのもわかる。

店より油と塩分を少なくして飲みやすく

 実際に一風堂のラーメンスープを買って飲んでみた。プシュっと開けたとたん、強烈なとんこつの匂い。缶からただよってきたことのない匂いなので、多少の違和感あり。飲んでみると、想像以上に“とんこつラーメン感”が強い。一風堂のとんこつスープがこの値段(1本150円)でよく再現されていると思った。

「一風堂」が監修したラーメンスープ

でも実は、お店の味を結構変えているんです。基本的には一風堂さんの看板商品である『白丸元味』のスープをイメージしていますが、ラーメンのスープそのままだとしょっぱくて飲みづらいので、塩分濃度を下げています

 油の量もかなり調整しているという。たしかに、缶をひと口飲んで口のまわりがギトギトだと敬遠されてしまうだろう。皿にあけて見てみると、一風堂のラーメンと比べて油がかなり少ない気がする。そういう意味では、飲みやすくなっているので、購買者の少ない女性にもいいのではないかと思い、知人女性に飲んでみたいか聞いてみた。

 すると、「ラーメンの汁って残すものでしょ、残飯みたいでヤダ」と一蹴。男性か女性かというより、スープを残さずに飲むほどのラーメン好きかどうかが、この商品を受け入れられるかの分かれ目なのだろう。

 せっかくなので、カレーやクリームシチューも飲んでみた。一風堂のラーメンスープはおにぎりとたしかに合うが、『じっくりコトコト 飲む缶カレー』はサンドイッチとの相性がよかった。ただ、想像以上にスパイシーなので子どもには向かなそう。『とろ~りまろやか クリームシチュー』は、コーンポタージュのコーンのように具材として小さなにんじんが入っているので、ちょっとした小腹なら満たしてくれる。

 でも、やはり印象に残ったのはラーメンスープだ。

 SNSを見ると一風堂だけではなく、一蘭や天下一品のとんこつスープも発売してくれ、という声が。たしかに需要はあるかもしれない。ただ、とんこつスープに限る必要はないので、根強いファンのいる東池袋系の大勝軒や煮干しをがつんと利かせたニボ系ラーメンのスープだってアリな気もする。駅の自販機で人気のラーメンスープを選べるようになる日も近いかも?