不要不急の110番通報の驚くべき中身とは(※画像はイメージです)

「テレビが故障してW杯が見られない!今すぐ来て!」

 これはある1本の電話で口にされた言葉。受けたのは電気屋ではなく、警察の110番通報だ。

不要不急の110番通報の驚くべき中身

 1月10日の『110番の日』に警察庁は110番利用の実態を発表した。昨年受理したおよそ187万7000件の110番通報のうち、冒頭のような不要不急とみられる通報が35万5000件にのぼるという。その驚くべき中身とはーー。

「家の電話の音量を大きくしてほしい」、「時計が動かない」、「図書館で新聞を読みたいがほかの人が読んでいて読めない」など、いずれも110番を呼ぶ正当な理由とは言えないものばかり。さらにこれらは子どもから通報ではなく、成人した大人からからだという。

今上げたような通報を受けても実際には出動していません。電話口で出動しない理由を丁寧にお話ししてご理解いただきます。“急いで来い”などと文句を言う方は少なくありません」とは警視庁関係者。

 そもそもこのような通報をする時点で話が通じる相手とは思えないが、困るのは実際に出動した場合だという。

「今回発表された案件のほかにも、30代とみられる主婦からの“今すぐ公園に来てください、子どもが襲われている”という緊急を要する通報がありました。通報内容が具体的ではありませんでしたが、動揺している声だったので出動し、パトカーが到着すると、“子どもがブランコの順番待ちをしていたのに抜かされた。窃盗罪だ!”とまだ幼稚園くらいの子どもを指差して“あの盗人を逮捕してください!”と叫ばれて。指を指された児童の母親は“名誉毀損だ”などと反論するし、収集がつかなくなったという報告もありました」(警視庁関係者、以下同)

 こういった話が通じない相手への苦労は計り知れない。

「“タクシーがつかまらないから来てくれ”、という通報がありました。もちろんお断りするのですが、聞けば“自分は交通事故の被害者だ。通院のため外出したけれど、帰りのタクシーがつかまらないのだから警察が責任を持って私を運ぶのは当然だ!”と自信満々に主張されました。交通事故被害に遭われたのはお気の毒ですが、個別のケースに対応できないのでお断りしました。この方はその後もしばらくの間、対応した係員あてにクレームの電話をかけ続けていました。最後までご自分は悪くないという主張でしたね」

 業務妨害とも言えるこれらの行為は罰せられないのだろうか。

悪意がないため判断が難しい

「刑法上は『偽計業務妨害罪』が成立する可能性はありますが、通報者に悪意はなく、彼らからしたら本気で困って電話をしているので判断が難しいんです」

 と、処罰する刑法はあっても実際に施行には至らないという。

 2022年の不要不急とみられる通報は2021年と比べておよそ1.3倍に急増している。自分勝手な通報をする人が年々増えている背景には何があるのか。

 “過剰行動”をする人々の取材をしているジャーナリストの渋井哲也さんは、コミュニティーの縮小をあげる。

頼れる人が周りにおらず、閉鎖された環境にいる人が多い。ここに一因があると思います。その上で解決したいんだけれど自分には解決能力がなく、さらに周囲にも解決してくれる人もがいない。それでいきなり110番というのは普通に考えたら極端だとは思うけれど、他に頼るものがない彼らは他にやりようがないのだと思います」

 以前に比べて増えているのはなぜ?

問題解決能力のない人が増えたということがあげられます。自分で困りごとに対処できない人は、それまでの人生において問題解決をした経験値が不足しているのでしょう。ルールは守るがそのルールが破られたときにどう解決するかを学んでこなかった人が多のではないか。

 もうひとつは、待てない人間が増えているように思います。例えば、テレビがうつらない、時計が壊れたという通報はメーカーのカスタマーセンターに電話すれば済む話ですよね。でもカスタマーセンターは手順が複雑です。場合によっては30分以上待たされるケースもある。そんなときに、緊急で対応してくれる110番という発想になるのではないかと。さらに何らかの権力を持って問題を解決したいという他力本願な考えもあるのかもしれません」

 と、渋井さん。続けて、

警察庁や警視庁には緊急を要しない相談専用のダイヤルがあります。その普及がうまくいっていないことも一因かなと。まずはそういった相談ダイヤルの存在を広く周知することで不要不急の通報が少しは減るのではないでしょうか」

警察に相談したいことがあるときには全国共通の短縮ダイヤル「#9110」番へ。携帯電話からも利用できます