生活の質を下げるアレルギー症状は付き合い方が肝心!

 1月後半から飛び始める花粉。今年の飛散量は多いとの予想だ。「今日は鼻水、くしゃみがひどい!」となると思わず薬に頼りたくなるものだが、鼻炎薬は飲んだあとに眠気やだるさを感じやすい。

サラサラした鼻水や、くしゃみ、せき。花粉症状が“つらい”と感じたときはすでに重症のこともあります」と話すのはアレルギー内科専門医でもある、いりたに内科クリニック院長の入谷栄一院長。

「ひどい状態になるまで我慢してから、薬を飲んでおさえようとすることは焼け石に水なんです」(入谷栄一院長、以下同)

集中力や判断力が下がる“鈍脳”は防げない

鼻炎をおさえる薬、特に“抗ヒスタミン薬”の服用は、眠気やだるさを含む、集中力・判断力・作業能率が低下した状態を引き起こします

 花粉などアレルギーの原因物質が鼻の粘膜に付着すると、ヒスタミンというアレルギー誘発物質が放出される。これが粘膜内のある物質(H1受容体)と結合し、くしゃみや鼻水といったアレルギー症状が起こる。抗ヒスタミン薬は、放出されたヒスタミンと粘膜内の物質との結合を阻止することで、鼻炎症状が出るのを抑える。

「しかし、体内だけでなく脳内にもヒスタミンが存在するのです。これは集中力や判断力、作業能率、覚醒の維持という重要な役割を担っており、アレルギー性鼻炎症状とは全く無関係であることがわかっています。脳内にまで抗ヒスタミン薬が入ってしまうと、この脳内にあるヒスタミンの働きも妨げられてしまい、集中力や判断力、作業能率が低下するなどして、“鈍脳”が起こるのです」

 日中仕事があっても薬を飲む必要がある人にとって、薬による眠気やだるさはストレスになるが、どう対処すればいいのか。

「ガムを噛むことで脳に刺激を与えたり、コーヒーといったカフェイン摂取もいいでしょう。私が一番おすすめするのは、我慢できない眠気があるなら、短時間でいいので仮眠をとってしまうことです」

 無理に眠気を払おうとしても身体が辛いだけ。それならば15分間程度の仮眠が、その後のパフォーマンスも上げる。

「ただ、これが30分以上寝てしまうと、かえって身体が重く感じることも。夜の睡眠に悪影響を与えることもあります。サッと寝て15分経ったら行動を開始する程度が理想です」

問題は「飲み方」と「薬の種類」

 眠気そのものを払う努力はしてもいいが、問題は“鈍脳”。

 眠気のように自分で気づいたり感じたりできていないことも少なくない。

「運転や細かな作業、試験など集中したいイベントが控えている場合は、いくら眠気は払えたとしても、“抗ヒスタミン薬”は避けたほうがいいでしょう」

 鼻炎症状による集中力の低下も問題だ。

「皆さん勘違いしているのは、眠気が出る薬が効果が高いというわけではないということ。

 眠気は、脳のヒスタミンをも抑制してしまうことで引き起こされますが、アレルギーの症状を抑制するときは身体の末梢部分にのみ作用すれば効果が出ます。つまり脳内にまで抗ヒスタミンが作用しないもの、“鈍脳”を起こしにくいタイプの抗ヒスタミン薬を検討するべきです」

 そこで注目されるのは、近年開発された第2世代の抗ヒスタミン薬といわれるもの。

「第1世代抗ヒスタミン薬では、投与された量の50%以上が中枢に移行して脳内にも影響するすると言われています。これに対し、第2世代抗ヒスタミン薬は、それが30%以下と低く、中枢神経系の副作用が起こりにくいように改良されています」

効果が薄れることも…市販薬の落とし穴

 しかも、第2世代抗ヒスタミン薬は特にくしゃみや鼻汁に対する効果が高く、また即効性もあるとの報告がある。

種類はたくさんありますが、どの薬がその人に効果があるかは実際に飲んでみないとわからない。市販薬でも、こうした脳内にまで影響が出ない、つまり“眠気の出ない”を謳っている商品が多くあるので、自分にあったものを探してみましょう

 この市販薬にも、使い方によっては効果が薄れる落とし穴がある。

第2世代抗ヒスタミン薬を“今日は鼻炎がつらいな”といった状態の時のみ服用する人がいますが、これでは本来の効き目が得られません

 症状が出た日から、毎日同じ時間に飲み続けること(初期治療)が重要だと入谷医師。

「市販薬にもある、第2世代抗ヒスタミン薬(アレジオンやアレグラ、クラリチン)などは医師が処方するものと全て同じ規格で作られているものです。理想は、これらを花粉シーズン飲み続けること。ただ、市販薬は費用面や、症状が悪化して不必要な服用を避けるためにも、一度は医師へ相談することをおすすめします

お話を伺ったのは
入谷栄一(いりたに・えいいち)医療法人社団勝榮会 いりたに内科クリニック 理事長・院長 東京女子医科大学呼吸器内科非常勤講師 NPO法人日本メディカルハーブ協会顧問 総合内科専門医、呼吸器専門医、アレルギー専門医、インフェクションコントロールドクター、産業医
長年、大学病院でがんの臨床研究に携わり、がん患者の約6割がサプリメントなどの補完医療を行っている事実に直面。自身もぜんそく・アトピー・花粉症で苦しみ、現代医療に補完医療を取り入れ、人生が大きく変貌した経験をもつ。そんな中「ハーブを使った自然療法」を通した手法が評価され、日本初のハーブ専門外来を開設した実績を持つ。現在は地域医療や在宅診療に力を入れている。著書『病気が消える習慣』、『キレイをつくるハーブ習慣』(経済界)