ヘンリー王子が表紙となっている暴露本『スペア』は各国で話題に

 

 1月10日に数か国で発売された書籍『スペア』が世界に激震をもたらしている。イギリスのチャールズ国王の次男、ヘンリー王子が書いた“暴露本”だ。

「アメリカ、カナダ、イギリスの売り上げを合わせれば140万部以上という大ベストセラー。王室内の確執について記し、自身の性体験や薬物摂取などについても赤裸々に語っています。スペアとは予備という意味。“次男”という自分の立場を露悪的に表現しています」(一般紙記者)

「支離滅裂」「ばかばかしい」との批判が

 ヘンリー王子はチャールズ国王とダイアナ妃の息子で、長男ウィリアム皇太子の2歳違いの弟にあたる。

「'18年にメーガン妃と結婚してから、王室からは距離を取るようになりました。'20年にふたりは王室の主要メンバーから抜け、経済的に自立することを電撃宣言。公務から退き、アメリカに引っ越します。それからは、ずっと王室の暴露ネタを発信していますね」(同・一般紙記者)

 王室の内情が書かれているということで、話題性は抜群。英国在住のフリーライター・名取由恵さんは、騒ぎの一部始終を現地で見ていた。

「ロンドン市内の各書店では、10日午前0時の発売開始に合わせて、本を買い求める人々の長い行列ができ、ノンフィクション書籍のなかで、発売初日の売上数が史上ナンバーワンになりました。英メディアの多くは“支離滅裂”“ばかばかしい”と批判的に報じましたね。一方で、“母親の死から立ち直ることができなかった少年”と同情する見方もありました」

 注目を集めたのは、やはり父のチャールズ国王と、兄のウィリアム皇太子との関係だ。

「ヘンリー王子は本の中で、ウィリアム皇太子からメーガン妃について“気難しく、無礼だ”と批判されたことを明かしています。その後、暴力を振るわれたとも書いており、父であるチャールズ国王からの愛情不足など、家族に対して悩みを抱えていたようです」(前出・一般紙記者)

 17歳でコカインを覚え、年上女性とパブの裏で初体験したという記述も。

衝撃的な戦場での体験談

「ヘンリー王子は昔からやんちゃなお騒がせキャラでしたが、逆に親しみが持てるということで英国民から愛される存在でした。しかし、いわゆる“メグジット(夫妻の英王室離脱)”以降は人気が下降。自伝の内容が伝えられた今月初めの国民調査では、王子に好意的な人はわずか26%でした。1月8日夜9時に放送されたヘンリー王子の独占インタビューの視聴者数は410万人で、裏番組の犯罪ドラマの530万人を下回りました。多くの英国民は一連の騒ぎを冷ややかな目で見ているようです」(名取さん)

 英国王室に詳しいジャーナリストの多賀幹子さんも、英国民のヘンリー王子への見方が変わってきたと考えている。

「士官学校に行き、軍に10年間所属。その後は『インヴィクタス・ゲーム』という退役軍人のためのスポーツ大会を主催し、慈善活動もしていました。やはり結婚が転機でしたね。“国民の次男坊”として愛されていたのに、結婚してほどなく“王室離脱したい”と言いだして。離脱後にはインタビューを受け、王室批判をしました。去年の12月にはNetflixからドキュメンタリー番組も出して、ひんしゅくを買っています」

 以前は、まじめな兄よりも明るい弟が人気だったという。

'20年に突如、王室離脱宣言をしたヘンリー王子とメーガン妃(公式インスタグラムより)

「ドラッグはやるわ、ラスベガスで裸になるわ。次から次へと女性との浮いた話も出ていました。ハメを外すほうで、それが“明るい、面白い”という評価にも通じていき、パーティーボーイともいわれていました」(多賀さん)

『スペア』の中で最も衝撃的だったのが、アフガニスタンの戦場での体験談。《殺した25人を人間だとは思っていなかった》《彼らはボードから取り除かれたチェスの駒だった》という記述だ。

「“チェスの駒”発言はまずいでしょう。人間じゃないと思っているように聞こえ、批判が集まりました。戦争なので、相手を人間と思っては殺せないという考え方もありますが、活字に残す必要はなかったと思いますね。“わざわざ書いたのは、自慢のためだろう”という声も。その後のインタビューで、“自殺を防ぐためだった”と言い訳していますが、やはり軽率だったと思います」(多賀さん)

 ヘンリー王子は、なぜ暴露本を出版したのだろう。

やっぱりお金と王室批判でしょう。インタビュー、Netflixのドキュメンタリー、次は本と、媒体を変えながら発信しています。王室を批判して、“自分たちは被害者だ。いじめられた、人種差別された、つらかったのに助けてくれなかったから王室を離脱したんだ”として、同情を買おうとしているんです」(多賀さん)

 しかし、その作戦がうまくいっているとはいえない。

戴冠式に合わせて過激な暴露か

「出版によって、大衆からより多くの同情が得られることを望んでいたと伝えられています。父親や兄との関係も修復したいと考えているようですが、今回の出版は正反対の結果を招きそうですね。出版契約でヘンリー王子は27億円を受け取ったといわれており、高額な報酬が目的で私生活と英王室を切り売りしたとも批判されています。暴露話があまりにも続くので、少し食傷ぎみというのが大半の英国民の正直な感想ではないでしょうか」(名取さん)

 ヘンリー王子は“王室が謝れば許す準備はできている”と話しているが、王室側は相手にしていない。新たな火種が生まれる可能性もある。

「注目されるのは、5月6日に行われるチャールズ国王の戴冠式ですね。王室は形式上、ヘンリー王子に招待状を送るはずです。ただ、その日は長男アーチーくんの誕生日。誕生日パーティーを理由に欠席する可能性があります。逆に、新たな暴露ネタを仕入れるためにイギリスへ帰ってくることも十分にありえますね」(多賀さん)

エリザベス女王の戴冠式は、1953年に行われている(公式インスタグラムより)

 一方で、戴冠式はヘンリー王子にとっての“攻撃”チャンスだともささやかれている。

「戴冠式は王室全体にとってこれ以上ないほどの一大行事です。世界中から注目されますから、王室への攻撃をするのに、こんなにいいタイミングはないでしょう。“戴冠式に合わせてさらに過激な暴露をするのでは”と恐れている人もいます」(在英ジャーナリスト)

 5月6日、ヘンリー王子はどちらの“家族”と過ごすのだろうか─。


多賀幹子 ジャーナリスト。元・お茶の水女子大学講師。ニューヨークとロンドンに、合わせて10年以上在住し、教育、女性、英王室などをテーマに取材。『孤独は社会問題』(光文社)ほか著書多数