ドラマ『池袋ウエストゲートパーク』('00年)で共演した長瀬智也(当時21歳)と山下智久(当時15歳)

 “伝説のドラマ”とされている作品がある。2000年にTBS系列で放送された『池袋ウエストゲートパーク』だ。これが今年になってNetflixで配信開始。再放送ドラマにもかかわらず、Netflixの人気作品ランキング日本トップ10(テレビ部門)で2週連続3位、3週目も4位という好調な滑り出しを見せている。

 2週目にいたっては、同時期に配信開始された『舞妓さんちのまかないさん』などのNetflixオリジナルの最新ドラマを抑えての3位という堂々たる“再ヒット”。ここにはどんな理由があるのか、探ってみたい。

キャストも制作スタッフも豪華すぎる

 この作品を知らない方、忘れている方もいると思うので、まずは『池袋ウエストゲートパーク』(以下『I.W.G.P.』)とはどんなドラマだったのか、おさらいしておきたい。

当記事は「東洋経済オンライン」(運営:東洋経済新報社)の提供記事です

『I.W.G.P.』は2000年4月から6月にかけてTBS系列で放送されたドラマで、当時29歳の宮藤官九郎が初めて連続ドラマの脚本を担当した作品だ。プロデューサーの磯山晶とはこの作品のあともタッグを組み『木更津キャッツアイ』や『タイガー&ドラゴン』、第29回向田邦子賞を受賞した『うぬぼれ刑事』といった名作を送り出し続けることになるが、その起点となった作品である。

 メイン演出は、当時45歳で『金田一少年の事件簿』や『ケイゾク』のヒットで波に乗っていた堤幸彦。主題歌はSADS、音楽にはKICK THE CAN CREWとしてメジャーデビューする前年のKREVAが名を連ねていたりと、すでに評価されていた者、その後評価されることになる者が絶妙なバランスで集っていた。

 その後開花することになる才能は、スタッフだけではない。

 主人公マコトを演じたのはTOKIOの長瀬智也。「めんどくせえ!」が口癖なのに、困っている人を放っておけず、喧嘩も強い。女性にはモテるが安易に手を出さないという、男も憧れる主人公像だ。すでにこれが6本目の連ドラ主演作だった長瀬だが、この作品を機に男性人気も広がり、俳優としての評価を盤石なものとした。

 その他のキャストたちも、このドラマの後にどんどんと“主演級”になっていく。『I.W.G.P.』は2000年に放送された後、2003年3月に『スープの回』としてスペシャル版が放送されるが、まずはその3年間だけでも多くの俳優がブレイクした。

 マコトの高校時代の同級生で、主要キャラの中でも絶大な人気を誇る「キング」を演じた窪塚洋介は、宮藤官九郎が脚本を担当した2001年公開の映画『GO』で日本アカデミー賞最優秀主演男優賞に輝くなど、その3年で計5本の映画に主演した。

『スープの回』放送直後の2003年4月クールでは、『I.W.G.P.』で下っ端ヤクザを演じた妻夫木聡の連ドラ初主演作『ブラックジャックによろしく』、マコトが心惹かれるも謎多き女性を演じた小雪の連ドラ初主演作『きみはペット』が同じTBSで放送された。1月クールには、ドラマのキーパーソンを演じた坂口憲二の民放初連ドラ主演作となる『いつもふたりで』も放送されている。

 マコトの友人役を演じ、当時はジャニーズJr.だった山下智久は、2003年11月にCDデビュー。同年末には、敵か味方かわからないクセのある刑事を演じた渡辺謙が、映画『ラストサムライ』の公開で世界的俳優に脱皮するという出来事まであった。

 放送からわずか3年の間に『I.W.G.P.』に出ていた面々が一気に第一線に躍り出たのである。

 それ以降も、マコトの親友役を演じた佐藤隆太が2008年に『ROOKIES』で連ドラ初主演、マコトの同級生で引きこもり役だった高橋一生の実力が2017年の『カルテット』等で広く世に知られることになり、ちょっとドジな警官役の阿部サダヲが2019年には大河ドラマ『いだてん』で主演俳優に……と、それぞれに俳優たちが活躍することで、時を重ねるほど、『I.W.G.P.』の豪華感は増していった。

2000年代の若者に刺さりまくったカルチャー

 今から見れば超豪華キャストの揃ったドラマだが、放送当時の平均視聴率は14.9%。当時の基準で考えても、もちろん悪くはない数字だが、同じ2000年の大ヒットドラマ『Beautiful Life 〜ふたりでいた日々〜』が32.3%、『やまとなでしこ』が26.4%だったことを考えると、大ヒットとは言い難いラインである。

 とはいえ、当時の若者への衝撃はすさまじいものがあった。筆者は当時中学3年生だったが、PHSの単音の着メロを、主人公マコトと同じ『Born to Be Wild』にしている生徒が教室の中にあふれていたのを覚えている。

 2015年には、窪塚洋介が「キング」と呼ばれるCMが話題になったし、2021年になっても、人気芸人・ニューヨークの冠番組『NEWニューヨーク』で「勝手にIWGP キングNo.1決定戦」といった企画が行われ、30代の芸人4人が窪塚洋介の演じたキングに扮するなど、根強いファンは多い。

 だが、そんな根強い人気を誇ったドラマは、この20年間、見やすい環境にあったわけではない。2004年にはTBSの深夜帯で再放送されたが、そう頻繁には再放送とならず、2010年代は長らくDVDがこの作品を見る唯一の手段だった。逆に言えば、そんな20年間の間に“伝説のドラマ”感がより熟成されていった。そんな中、初めて配信されたのが今から2年前だ。

 2021年1月クールの同じ長瀬智也主演・宮藤官九郎脚本のドラマ『俺の家の話』放送に合わせたタイミングで、一時的にTVerで、そしてParaviでも配信が解禁された。

 ただ、ほとんどサービスとしては広まっていないParavi(2021年時点の定額制動画配信サービスの市場シェア2.6%)よりも、市場シェア23.1%と独走中のNetflixで配信されたこの2023年のタイミングで、より多くの人が見られる土壌が整ったと言っていいだろう。

 そして、その結果が、冒頭で紹介した2週連続3位、3週目も4位という高視聴数である。

 その他のランクインしている作品にはNetflixオリジナルで制作された新作も多い。特に2週目は、映画『君の名は。』『怒り』等をヒットさせた川村元気氏のプロデュース作であり、地上波CM等でも大体的にプロモーションされたNetflixオリジナル作品『舞妓さんちのまかないさん』よりも上位にランクイン。

2000年の『I.W.G.P.』は“Netflixっぽい”作品

 2000年に放送されたドラマが、2023年の並み居る強豪を抑えてのランクインは快挙と言っていいだろう。前述のとおり、キャストの豪華さや“伝説”となる土壌が整っていたとして、なぜこのような現象が起きているのだろうか。

 改めてこのタイミングで見直して気づいたことがある。『I.W.G.P.』は、とてもNetflixっぽいのである。2000年放送のドラマに対し、まだ当時存在しなかったNetflixというサービスの名前をあてがって評するのは矛盾していることはわかっている。だが、『I.W.G.P.』は今のNetflixでウケる要素が多く入っているのである。

 Netflixの日本オリジナルの作品といえば『全裸監督』のヒットが象徴的である。シーズン2・第1話の冒頭では当時の渋谷のスクランブル交差点をオープンセットで再現して描くなど1980~1990年代という少し昔の風景を再現。

 さらにはエロやバイオレンスなど、現在の地上波では放送できないだろう過激な内容が話題となった。これ以降、配信の作品で“地上波では放送できない”を売り文句にする作品も多い。事実、地上波でのコンプライアンス意識が高まり作品制作の自由度が狭まる中で、配信サービスがそこからこぼれ落ちている作品の受け皿になって支持を高めている面もあるだろう。

 最近のオリジナル作品では『First Love 初恋』も話題となった。1999年の宇多田ヒカルのヒット曲をモチーフとした本作は、物語自体も1998年に高校生だった若者を主人公に、2000年代前半、そして現在とを行き来する。『全裸監督』のような過激さはないものの、ここでもちょっと昔のノスタルジーが支持される一因となっている。

 地上波では放送できない、と、ちょっと昔のノスタルジー。Netflix日本オリジナル作品のヒット要素に通ずるこの2つを、『I.W.G.P.』は実は兼ね備えている。

『I.W.G.P.』は、くわえタバコのシーンといった細かい演出面のみならず、中身も、暴力・薬物中毒・窃盗、警察内部の腐敗にねずみ講など、今の地上波では流さないという判断をされそうなものにあふれている。

 また、ロケ撮影にこだわる堤幸彦監督の手によって、2000年当時の池袋の街が空気感そのままにおさめられているのも特徴だ。宮藤官九郎が「喋りながら書いていた」(『キネマ旬報』2002年2月下旬号)という脚本は、紛うことなき2000年の若者の喋り方が刻印されている。

 単音の着信音がなるiモードの携帯電話やストラップなど、懐かしいアイテムも続々と登場する。それでいて現在も活躍する俳優たちが登場し、もちろん音楽や演出も古びていないため、セットをつくって当時の空気を再現するよりも正確で、しかも低予算で体感できるノスタルジー作品になっている。今のNetflixのニーズにも符号しているのである。

“キング”窪塚洋介がインスタで…

 もちろん、今回の“再ヒット”はNetflix上のニーズに一致したということだけが理由ではなく、根底に作品の強度があったうえでの話である、ということは最後に付け加えておきたい。

 今回の配信にあたって窪塚洋介はこうコメントしている。

「今を生きるほとんどの人が、すぐに答えやリアクション/評価を欲しがるようになった昨今、20年以上前の作品が改めて見直されている(中略)自分にとって本当に大事なことを学ぶというのは、それなりの時間が必要なのかもしれないね?」(公式インスタグラムより)

 どうしても日々の中に流されていってしまうテレビドラマの中で、流されずにど真ん中に舞い戻ってきた『I.W.G.P.』の中には、時が経ても変わらない大事なものが詰まっている。本当に大事な答えというのはきっと、すぐにはわからない「めんどくせえ!」ものなのだろう。


霜田 明寛(しもだ あきひろ)Akihiro shimoda
ライター/「チェリー」編集長
1985年東京都出身。国立東京学芸大学附属高校を経て早稲田大学商学部卒業。9歳でSMAPに憧れ、18歳でジャニーズJr.オーディションを受けた「元祖ジャニヲタ男子」。3冊の就活・キャリア関連の本を執筆後、ジャニーズタレントの仕事術とジャニー喜多川氏の人材育成術をまとめた4作目の著書『ジャニーズは努力が9割』(新潮新書)がベストセラーに。また、文化系WEBマガジン「チェリー」編集長として監督・俳優などにインタビューする。SBSラジオ(静岡放送)『IPPO』の準レギュラーや、映画イベントの司会も務めるなど、幅広くドラマ・映画・演劇といったエンターテインメントを紹介している