休刊が決まった『週刊ザテレビジョン首都圏関東版』2023年2月10日号(Amazon商品ページより)

 レモンを片手に笑顔を浮かべるタレント――。『週刊ザテレビジョン』でおなじみの表紙だ。'82年に創刊されて40年以上の歴史を持つ同誌は、3月10日号(3月1日発売)をもって休刊する。

 出版元のKADOKAWAは、同誌が『月刊ザテレビジョン』と統合し、3月24日から新たな『月刊ザテレビジョン』としてリニューアル刊行すると発表。雑誌とWEB、それぞれの長所を活かして『ザテレビジョン』のブランドを強化するとしている。

『ジョン』が高い売り上げ部数を維持できた理由

 日本雑誌協会が公表しているデータによると、2008年10月から12月の間の発行部数は642,317 部。それが2022年4月から6月にかけては、93,513 部へと減少していた。

 元テレビ誌記者の男性は、テレビ雑誌が数多く名を連ねていた時代をこう振り返る。

「私がテレビ誌の仕事をしていたのは30年前ですが、当時は『週刊ザテレビジョン』『月刊ザテレビジョン』のほかにも『週刊TVガイド』『テレビブロス』『TV Taro』『TV LIFE』『テレビぴあ』『テレビステーション』『TeLePAL』『週刊テレビ番組』……ざっと数えても10誌くらいありました。どの雑誌も“テレビ○○”という名前で紛らわしいので、現場では“ガイド”“ライフ”と略して呼んでいて、テレビジョンは“ジョン”だった(笑)」

『ジョン』は、そんな中でも異質な存在だったという。

「記者は毎日、テレビ局の記者室に行って、いろんな情報を集めるのですが、“○日放送のゲストは誰ですか?”といった質問をテレビ局員に何度も聞いたら困るだろうから、この番組は『ガイド』が、この番組は『ライフ』がと、番組ごとに“担当制”にして情報を集めて、記者同士で共有していたんです。

 だから記者同士の仲がよくて、ライバル心はそんなになかったんだけど、『ジョン』の記者だけは、少しでも他誌とは違う情報を集めようとしていました。だからこそ、高い売上部数を誇っていたんだと思います。

 そんな雑誌が休刊というのは感慨深いけど、よくこの時世まで週刊というサイクルで続けてこれたよな、と。僕が仕事をしていた雑誌は25年以上前に休刊しちゃいましたし、『ジョン』にもお疲れ様でしたと言いたいです」(同・元テレビ誌記者)

 業界でも一目置かれていた『ジョン』。休刊について、コラムニストのペリー荻野さんはこう分析する。

「近年は“テレビ離れ”が続いており、週刊というサイクルでテレビ誌を読む人が減って、販売部数が厳しくなってきたのが大きな理由でしょう。若者にとってテレビの情報が欲しいかというのが根本的なところ。テレビ誌には番組表があって、いろいろな番組の情報を知るためのもので、テレビを見ない人にとっては、ほぼいらないものだったりします」

 そんな中でも発行を続けることができたのは、雑誌だからこその魅力を感じてくれる人たちがいたからだった。

「自分が好きなドラマのことが書いてあるものを、手元に紙として保存できるというのは魅力でした。作品のファンが、ある種グッズのように集めていた。最近は何かを保存するということ自体をしない人が多くなったし、そういう楽しみがなくなりつつあるのかなと」(ペリー荻野さん、以下同)

『ジョン』は、芸能人もその存在を意識する雑誌だった。

アイドル全盛期の波に乗って人気雑誌に

「表紙になることが、タレントにとって1つのステータスになっていました。レモンを持って表紙を飾ることが目標の1つというか。そのチャンスが、今まで年間50回くらいあったのが12回になっちゃうことは、タレント側としても寂しいのかなと。“ついにこの子たちも表紙になったんだ”みたいな、ファンも喜ぶことができる立ち位置を作ったのは功績ですよね」

 特にあの“アイドル帝国”とは、切っても切れない間柄で……。

「ジャニーズはWebメディアに写真の掲載を解禁してこなかった期間が長かったから、ファンにとっては“このアイドルの、このカットは『ザテレビジョン』でしか見れない”という写真が絶対にあったはず。アイドルファンにとっても寂しいだろうなと思います。自分の推しが大きく出てるかどうかも気になるじゃないですか」

 家族とのコミュニケーションが生まれる“きっかけ”だったとも。

「今は、親子で同じアイドルを応援する人たちもいますよね。でも、娘は自分のスマホなんか親に見られたくないけど、こういう雑誌があれば、話のタネになっていたと思うんです。“お母さん、買ってきて”って言えるでしょう。そうやって、親子で楽しめる媒体でもあったと思います。情報は個々で収集する時代になっているけれど、雑誌が1つあることで違う世代とも語り合える。そんな雑誌の刊行が減るのは残念ですよね」

 創刊された時代背景を振り返りながら、ペリーさんはその特徴をこう語る。

『月刊ザテレビジョン』関西版2023年3月号(Amazon商品ページより)

「『ザテレビジョン』が創刊された'82年は、トレンディドラマの少し前で、ちょうどお笑いブームのころでした。みんながテレビを見て笑っていた時代で、すごく景気もよかった。フジテレビは“楽しくなければテレビじゃない”なんて標語を掲げて、その後トレンディドラマブームを起こしたりと、テレビがガンガン娯楽を先導していました。『ザテレビジョン』は、創刊されたタイミングから考えると、その勢いをすごくキャッチしていた雑誌だったんだろうなと。

 '70年代までは、テレビはなんとなく大人の文化的な側面があったけど、'82年には“花の82年組”と言われるように、早見優さんや中森明菜さん、小泉今日子さん、堀ちえみさんなど、アイドルがたくさん出てきたんです。『ザテレビジョン』はそんなアイドル全盛期に突入していく波に乗って、表紙も含めて、テレビの華やかさを象徴していた印象があります

 そんな『週刊ザテレビジョン』の休刊には、テレビ離れに加えて、雑誌全体に共通する逆風も関わっている。

「やっぱり、ネットの普及も大きい。もう紙がなくてもいいという人たちもたくさんいる。とはいえ、アイドルも永遠にいてくれるわけじゃないことを、私たちは知っているじゃないですか。“あのときの号を買っておいてよかった”という充実感が、いつかあると思っています」

 手元にあるその1冊が、いつか貴重な“秘蔵版”になる日も!