平成のトレンディドラマは令和だと非常識だらけ!?

「えっ、なんでプロポーズオッケーしてるの!?」

 これはZ世代が『101回目のプロポーズ』('91年フジテレビ系)を見た感想である。

Z世代は90年代の恋愛価値観に“衝撃”

 BSフジで再放送中、TVerで配信中の同ドラマが今、話題を集めている。

 1991年にフジテレビ系月9枠で放送され、最高視聴率36・7%を叩き出した、野島伸司脚本の純愛ドラマ。建設会社勤務のさえない万年係長、星野達郎を武田鉄矢、W主演の相手役・薫は当時人気絶頂だった浅野温子が演じた。

「'80年代のバブル期に全盛だったトレンディードラマでも、令和のドラマでもそうですが“主演俳優は美男美女が演じる”という暗黙のセオリーがあります。それが武田鉄矢というまさかのキャスティングで、当時、非常に大きな話題を呼びました」(テレビ誌記者)

 '90年代、モテない男性に勇気を与えたドラマは、現在は視聴者に勇気どころか恐怖を与えている。この状況にドラマウォッチャーの神無月ららさんは、

「令和の時代に見たらアウトな作品が'90年代には人々に感動を与えていたのです」

 今だったら受け入れられない“粘着系恋愛ドラマ”を神無月さんとともに、振り返る。

【101回目のプロポーズ('91年)】は「怖い」!?

 まずは冒頭でも話題のこちらのドラマから。

 見合い相手から99回も断られてきた経験を持つ達郎だったが、本気で薫を好きになってしまう。どんなに薫から素っ気なくされても、食い下がる。その姿について─。

「薫とのお見合いの席で“喉から手が出て地面に着くくらい、お嫁さんが欲しいです!”と言ったり、やんわり断られても“連絡待ってます!”とぐいぐい詰める様子は、当時見ていた私も“きっつ……”と思いましたね(笑)」(神無月さん、以下同)

武田鉄矢と浅野温子という組み合わせが斬新で話題を呼んだ『101回目のプロポーズ('91年)』

 交通事故で婚約者を失ったトラウマを持つ薫に、その恐怖を覆させようと、達郎はトラックの前に飛び出して「僕は死にましぇん!」と叫ぶ。「愛した相手に愛されるまで、身体と心を使ってひたすら粘っていく」という、愚直とも思えるアピールの積み重ねで愛を勝ち取るというストーリー。

「たとえイケメンでなくても真心を尽くせば好きな相手から愛される、というストーリーは当時、世の男性に大いなる勇気を与えたかもしれません。“嫌われたって粘ればいつかは振り向かせられる”というのは今の若い人たちが見たら、うっすらとした怖さを感じるかもしれませんね」

【この世の果て('94年)】誰も幸せにならずドン引き

『101回目のプロポーズ』と同じ野島伸司脚本による作品で、フジテレビ系月9枠で放送された。

 出演者が演じるキャラクターが健全だった『101回~』とは打って変わって、こちらは登場人物のほぼ全員がえげつないほどの闇を背負っている。

『この世の果て』('94年)。主題歌も大ヒット(左から豊川悦司、鈴木保奈美、三上博史)

 幼いころ自宅に放火して父を亡くし、妹を失明させた過去を持つ、まりあ(鈴木保奈美)。そんなまりあに交通事故に遭ったところを助けられ、彼女を愛するも覚醒剤中毒になり、身を落としていく士郎(三上博)。

 そして家庭環境から愛を信じられずにいたがまりあに惹かれていく征司(豊川悦司)。士郎への愛を貫くために征司との結婚式で、まりあはヘリコプターから海に飛び込む。

「誰も幸せにならない結末に今の視聴者はドン引きすると思います。まりあが寝たきりになるというラストは当時でも“???”しかありませんでした。

 繊細な士郎よりも、圧倒的に良い男に思えた征司を選ばないまりあに“そうじゃないだろう!”と激しく脱力したのを、今でもありありと覚えています」

 残酷な運命をキャラに負わせるのが脚本家、野島伸司さんの十八番だったが。

「そんな不幸なストーリーを楽しんでいた'90年代という時代に、とてつもない距離を感じます」

【想い出にかわるまで('90年)】絶滅危惧種の恋敵に白ける

 '80年代に『金妻ブーム』を巻き起こしたTBS系の金10枠。そこで放送されて一大ブームを巻き起こした『想い出にかわるまで』は、内館牧子氏が脚本を担当した話題作。

 主人公の恋敵を設定するのは、恋愛ドラマを作るうえでの王道だが─。

「今でも多くのドラマで“ライバル”や“当て馬”キャラが登場しますが、敵役が赤の他人ゆえ、波乱といっても安心して見られるレベルですよね」

『想い出にかわるまで』('90年)は姉が妹に婚約者を奪われる展開が話題に(左から松下由樹、石田純一、今井美樹)

『想い出に~』では、ヒロイン・るり子(今井美樹)の婚約者を奪って結婚してしまうライバルが実の妹・久美子(松下由樹)。生涯縁を切れない妹が恋敵という、地獄のような展開により、当時の今井美樹ブームをさらに加速させるほどこのドラマはヒットした。

「別れてもお互いへの気持ちが抑えられないるり子と直也(石田純一)が愛を確かめ合う場面では“良かったね!”と泣き、久美子が“あの人を取らないで!”とるり子に懇願するシーンでは、私を含め日本中の女たちが“どの口が!”とツッコんだものです。恋敵の背景も大切に描く今のドラマでは、ただただ嫌われるだけの久美子のようなキャラクターは存在しえない

 令和では絶滅危惧種の恋敵だ。

【週末婚('99年)】“弱い女”に共感できない

 こちらも内館牧子氏が手がけ、TBS系で放送された姉と妹のバトルを軸に展開する愛憎ドラマ。

「『想い出にかわるまで』と同じく、姉妹同士でぶつけ合う憎しみや嫉妬の感情の怖さが描かれた作品です。

 姉の陽子(松下由樹)によって恋人と別れさせられた月子(永作博美)が、陽子の結婚式で、これまで姉がしてきた不倫などの行いをスピーチで暴露し“こういう女を、寂しがりやの弱い女っていうんですね。したがりやのずるい女っていうのかと思ってました”と締めて復讐する場面は、胸がすくのと同時に女の怖さをこれでもか!と突きつけてきて背すじがヒヤリとしました」

『週末婚』('99年)。女同士の湿った世界観を描いた作品(左から永作博美、松下由樹)

 令和の今、このような姉妹の争いの物語は受けるのか。

「暴力は使わず、言葉で姉にリベンジする月子のキャラクター造形は、内館脚本ならではの面白さだと思います。ただ、ここまでの激しい姉妹バトルは今は共感されなそう」

 一切の共感のない主役を10話も見続けられない?

【もう誰も愛さない('91年)】ショッキングすぎて見てられない

「バブル崩壊後、トレンディードラマが下火になってきたころに、『ジェットコースタードラマ』といわれるジャンルのドラマが生まれましたが、そのブームのきっかけになり、フジテレビ系『木曜劇場』枠で放送された作品ですね」

『もう誰も愛さない』(’91年)でジェットコースタードラマがブームに(左から田中美奈子、吉田栄作、山口智子)

 一度見逃すともうストーリーがわからなくなる展開ゆえ「ジェットコースター」と呼ばれる同作は、銀行の同僚小百合(田中美奈子)に妬まれ、陥れられる主人公・美幸(山口智子)と、小百合の手先になって美幸を陥れるも、美幸を愛してしまう卓也(吉田栄作)が、それぞれ犯罪を犯しながらも味方になったり敵になったりを繰り返すというヘビーなもの。

「初回から美幸が婚約者と妹の目の前で強姦されるシーンがあり視聴者を驚かせました。その後も、殺人を犯して刑務所から出所した後に女社長に成り上がる美幸に取り入ろうと足にかかった牛乳を這いつくばって舐める卓也、その卓也を高笑いしながら見下ろす美幸……。もう毎週胃もたれするようなショッキングな場面の連続でした」

 視聴者どころかコンプラ的にも受け入れられないドラマだろう……。

*  *  *

 ここまでの作品を並べて神無月さんは、

「'90年代のドラマすべてが、とは言わないけれど、恋愛ストーリーにドロドロと絡みつくような不幸やショッキングな展開が好まれた時代は確かにありました。

 それはもうシンプルに、コンプライアンスが今よりもかなり緩かったのだと」

 と当時の空気を分析。

「2008年のリーマン・ショックが起きるまで、世間も制作するテレビ業界にも、残酷な物語を“他人事”として受け止める空気があったのかもしれません。まだまだいろんなゆとりがあった時代だったのでしょう。

 そして先シーズンのフジテレビ系『silent』のヒットが残酷さやドロドロとした展開がなくても面白いドラマは作れるとある意味証明したと思います。

 恋愛ドラマはこれからもっと“良い時代”に向かうんじゃないでしょうか」