2月22日午前、66歳で亡くなった笑福亭笑瓶さん

 落語家の笑福亭笑瓶さんが2月22日午前、66歳の若さで死去した。死因は急性大動脈解離。笑瓶さんは2015年にも、ゴルフのプレー中に急性大動脈解離を発症して救急搬送されているが、このときも12月という冬の時期だった。

「大動脈解離という病気は、冬の寒さがリスク要因のひとつになります」というのは、りんくう総合医療センター循環器内科部長の増田大作先生だ。

どういうことなのか。

パリパリッという違和感が身体の中を駆け抜けた

 急性大動脈解離とは、血液を全身に運ぶ、おおもとの血管である大動脈の内側に突然、亀裂が入り、その裂け目から血液が大動脈の層の間に入ってしまう病気だ。血液が層の間に溜まることで大動脈が破裂することもあり、胸や背中に今まで経験したことのないような激しい痛みを伴う。大動脈が破裂すると、約6割の患者が病院に到着する前に命を落とすという。

 2015年に大動脈解離を発症したときのことを笑瓶さんがインタビューで語っている。

「12月29日、打ち納めと称して後輩の神奈月君と出かけたゴルフ場で、4ホール目を終えたときでした。朝9時半ごろです。パリパリッという違和感が身体の中を駆け抜けたあと、背中にそれまで経験したことのないような激痛が走り、その場に倒れ込みました」(『突然死を防ぐ脳と心臓のいい病院2019』朝日新聞出版より)

 このときはドクターヘリで救急搬送され一命をとりとめたが、今回は残念ながら「6割」のほうに入ってしまった。

「気温差」で血圧は急上昇する

「大動脈解離は血管がもろくなることが原因だと考えられています。血管がもろくなる原因はコレステロールや糖尿病、喫煙などいくつかありますが、もっとも大きな要因は高血圧です」(増田先生、以下同)

 ふだんから血圧が高めの人はもちろん要注意だが、血圧は、正常な人でも何かの拍子に突発的に急上昇し、非常に高い数値になってしまうことがある。例えば、気温差だ。暖房のついた温かい部屋から寒いトイレに行き、いきんだりすると、血圧は急上昇する。

 一定の圧力がかかっている血管に急に大きな圧力がかかると、その力が全身の血管内を駆け巡る。その圧力に耐えきれずに脳の細い血管が破れると脳出血になり、笑瓶さんの場合は、以前解離したところと同じ箇所かどうかは不明だが、大動脈が耐えきれなかったということだ。

「寒さや気温差、トイレでいきむなどは血圧上昇の大きな誘因になります。お風呂場の脱衣所も要注意。寒い冬は事前に暖房で温めておくのもひとつの手です」

 足元は温度に反応しやすい部位なので、冬の朝、起きてすぐに裸足で歩くのも、血圧が急上昇する危険があるという。朝は交感神経が優位で血圧を抑える力が弱まるため、もともと血圧が高い時間帯なのだ。足元を冷やさないよう、室内を移動するときはスリッパをはくのも血圧コントロールに役立つ。

 普段のちょっとしたことで血圧の上昇を抑えることが可能だ。寒い冬の時期は、生活にとり入れたい。