寛一郎 撮影/矢島泰輔

「最近、日に日に顔が濃くなっている気がします。外国の人に間違えられることも多くて、飛行機に乗るときに僕だけ英語で案内されたり。ヘッドスパに行ったら店員さんに“○○○(国名)の方ですか”って聞かれて、“いや、違います”って言ったらちょっと残念な顔をされたり(笑)」

 スラリとした長身に、大きな瞳がセクシーな寛一郎。

初舞台にして初主演

 昨年の大河ドラマ『鎌倉殿の13人』で公暁(こうぎょう/2代将軍・頼家の次男)を演じたときも、剃髪(ていはつ)した僧侶の姿から復讐に燃える刺客へと変貌していって視聴者の目を惹きつけた。

「僕はあまり世の中の評判を気にするほうではありませんが、それでも“鎌倉殿見たよ”って声は入ってきました。鎌倉殿はちょっと現実とのメタ構造みたいになっていて、親父(佐藤浩市/ドラマ前半で非業の死をとげる上総(かずさ)広常を演じた)との関係性も含めて見てくださった方もいたようです。それを意識して僕自身の演技が変わることはありませんでしたが、そういう楽しみ方もあるんだなぁと」

 後継のいない3代将軍・実朝にかわって「鎌倉殿」になろうとした公暁。「千日参籠(さんろう)」と呼ばれる修行を何度も抜け出すうちに、剃っていた髪は伸び放題になってしまい欲も色気もダダ漏れに。

寛一郎 撮影/矢島泰輔

「いや、色気はもともとあるものなんで……なんってのは嘘ですけど(笑)。まあ、公暁っていうのは出家しているにもかかわらず“三日坊主”でしたからね。邪念だらけじゃないかって。実際、彼にはそれだけ大事なものがあったんだし、役としても悟りを開いちゃうより、貪欲で欲深いほうが魅力的だと思います」

 デビュー以来、映像(映画やドラマ)の世界で活躍してきたが、初舞台にして初主演の『カスパー』をひかえている。

「自分にとって、まったく新しい体験です。舞台に立つとは想像もしていなかったし、覚悟もあんまりなかった。それが今こうして立っているのは、この『カスパー』に惚れ込んでしまったから」

 生まれてから16年間、外界と遮断されたまま成長した謎多き孤児のカスパー・ハウザー(19世紀初めに実在したドイツ人)を題材に、ノーベル賞作家ぺーター・ハントケが執筆した衝撃作。

「僕らが生まれてから当たり前にしてきたことや、多少の違和感があっても見て見ぬふりしてきたことを、カスパーっていう人物は16歳からいきなり叩き込まれます。そこに軋轢(あつれき)が生じるし、(価値観を押し付けてくる)社会へのアンチテーゼみたいなものを発散もする。僕は読んでて泣きそうになっちゃう台本なんです」

事務所を移籍した理由

 父・佐藤浩市も祖父・三國連太郎さんも“舞台に立たない俳優”として知られているが、プライベートでは母親がもともと舞台女優だったこともあり、よく一緒に舞台を見に出かけていたという。

僕、これまでに『マクベス』を4本ぐらい見ているんですけど、佐々木蔵之介さんが演じた“ひとりマクベス”は強烈でした(2015年)。たった1人で20役ぐらいやってたんですよ。“すげえな、この人!”って圧倒されたのと、まだ自分が役者になる前でしたが“うわ、これはやりたくないわ”って思って(笑)。でも今回のカスパーも1人何役こそやりませんが、それに近いことをしていて。毎日が不安ですし、いい意味で楽しめてもいます」

 父も祖父も長年にわたって俳優として活躍を続けてきた。どのくらい先まで、自分の将来像をイメージしているのだろうか。

「役者として“ものを作る”現場にいられて、本当に幸せではあります。ただ以前はなんとなく“この仕事を一生続けていくんだろうな”って思っていたんですが、最近少し変わってきました。1回やめて違う職業をしてみてもいいし、また役者に戻ってくるでもいいですし。決めきらないっていうことが大事なのかなって」

寛一郎 撮影/矢島泰輔

 忙しい日常の中で、いま大切にしている時間は?

「サウナに行ったりとか、自分の家でもお風呂にゆったり入るのが好きです。考えなくてすむんですよ。自分の脳に余白をつくることっていうのは、やっぱり大事かなと思います」

◆環境が変わってサプライズ!

「新しい環境を求めて事務所を移籍しました。今のマネージャーとは、デビュー作の映画『菊とギロチン』(2016年撮影、2018年公開)の現場で会っているんです。きちんとコミュニケーションがとれるしダメなことはダメって言ってくれる。そういうのがうれしいですね。

 今の事務所の役者さんともいろいろ縁があって、門脇麦さんとは2作目の『ナミヤ雑貨店の奇蹟』で共演しています。昨年、僕は京都で撮影していたんですけど(4月28日公開の『せかいのおきく』)、たまたま麦さんも2か月くらい京都にいてマネージャーを含めて会食しました。

 今回、舞台をやるのは“こういう話があるけど”って言われて自分で決めたことですが、たぶん環境が変わらなかったらなかった。これからも自分自身へのサプライズがある気がします

舞台『カスパー』■東京公演3月19日〜31日 東京芸術劇場シアターイースト■大阪公演4月9日 松下IMPホール

 

舞台『カスパー』

■東京公演
3月19日〜31日 東京芸術劇場シアターイースト
■大阪公演
4月9日 松下IMPホール

 

 

 

 


撮影/矢島泰輔 取材・文/川合文哉