大変身を遂げる前の女性(イメチェン動画『わたし2.0』より)

 2021年7月から日本でも導入された「YouTubeショート」。60秒までの短い動画が投稿でき、スマートフォンを使えば動画の撮影から編集まで、YouTubeのアプリ内でできるのが特徴だ。2022年のYouTubeの公式発表によると、その総視聴回数は全世界で1日あたり300億回を超えている。

 また、収益化の申請をしている投稿者は、今年の2月1日からショート動画でも広告収入を得られるようになったこともあり、よりメジャーな存在に。

 そんなYouTubeの新たな主流ともいえるショート動画を中心に投稿しているチャンネル『わたし2.0』は、昨年の12月にチャンネルを開設したにも関わらず、すでに総再生回数が4100万回(2023年3月現在)を突破しているチャンネルだ。

今よりもっと自分を好きになれるツール

 内容は、容姿に自信をもてない人や、おしゃれになって変わりたいという人のビフォーアフターを紹介するという、いわゆる“イメチェン”や“垢抜け”をテーマにしたもの。

 動画の冒頭には、変身を希望する人のコンプレックスや生い立ちなどがでかでかと表示され、スタイリストが衣装を選び、メイクやヘアスタイリング、時には美容師が施術をしているシーンが音楽にのせてテンポよく流れる。

 そうして、見事に変身を遂げた依頼者が音楽のサビとともに登場。最初とは打って変わった生き生きとした自信に満ち溢れた表情で、画面越しでもそのキラキラとしたまぶしさが伝わってくる。

 多くのショート動画が100万回再生を超えており、絶好調のスタートを切っているように思える『わたし2.0』チャンネルだが、プロジェクトの代表でヒアリングからスタイリングを担当している87子さん(29歳)によると、はじめから上手くいっていたわけではないという。

実は『わたし2.0』は私の4つ目のチャンネルなんです。これまでも、こういったイメチェンの動画や、垢抜けをテーマにした動画などをアップしていたけれど、全然うまくいかなくて。原因は継続して投稿できなかったことと、すべてを1人でやろうとしていたことにあると思います」(87子さん、以下同)

 もともとは、グラフィックデザイナーの仕事をしていたという87子さん。けれど、「わたし2.0」プロジェクトに集中するため、1年ほど前からデザインの仕事を受けるのを止めた。プロジェクトをはじめたきっかけのひとつは、自分自身が容姿に自信を持てるまでに、長い時間を要してしまったことだという。

小学生のころから垢抜ける努力はしていた

「小学生のころからメイクやネイルに興味はあって、自分に合うものを探し続けていました。もともと天パなんですけど、納得のいく縮毛矯正をしてくれる美容室をたくさん調べて通うなど、垢抜けるための努力はずっとしていて。

 ただ、実際に周りが『メイクが上手だね』とか、『おしゃれだね』と言ってくれるようになったのは、大学卒業後くらい。この、自分に似合うスタイルを見つけるまでの時間を短縮できる、トータルのプロデュースをしてくれる場所があればいいのにとはじめたのが原点です

職場で上司からパワハラを受け、手取りが少ないこともあり、自分の容姿にお金をかけられずにすっかり自身を失っていた23歳の女性。「わたし2.0」チャンネルで大変身を遂げる

 また、デザイナーの傍らはじめたフォトグラファーの仕事で、撮影前の被写体にメイクを施すなどのスタイリングをする機会があり、それもきっかけになった。長年のセルフプロデュースの研究の成果もあってか、そのときに、相手の魅力を引き出すことが得意だと気づいた。

 資金を調達し、ときには借金もしながら細々と“イメチェン事業”をはじめた。約1年間、無収入の期間もあったというが、プロジェクトに参加してくれる仲間も徐々に集まり、いまでは、ヒアリング、動画編集、イメージコンサルタントなどを担当する5、6人のコアなメンバーで活動ができるようになったという。

 また、SNSでたくさんの情報が流れてくる現代だからこそ、「本当に自分に合うもの」を探すのも大変だと語る87子さん。確かに、メイク、髪型、ファッションなど1つ1つしっくりくるものを探すのには長い時間がかかってしまうかもしれない。「わたし2.0」は、いまよりももっと自分を好きになりたいと願う人たちの、道しるべになってくれるプロジェクトなのだ。

整形しても自信が持てない女性の大変身

 先にあげたように「わたし2.0」の特徴のひとつが、冒頭に大きく表示される依頼者の悩みや生い立ちだ。

 「彼氏の浮気現場を目撃し破局。見返すためにかわいくなりたい24歳の女性」や、「1200万円で起業するもコロナで倒産、心身共にボロボロになった61歳女性の大変身」など、壮絶な人生を送り、それゆえに変身を希望している人を集めたようにも思える。

 けれど、そういったバックボーンを抱えた人たちを探したわけではなく、動画に出演してくれる人を友人や知り合いを通して募集していった結果だという。

 ただ、見た目にコンプレックスを抱えて精神を病んでしまう人、逆に心の傷により自分の容姿に自信が持てずにおしゃれを諦めてしまう人は、87子さんが想像している以上に多かった。

メイクの途中で「整形は逃げだとわかっているがやめられない」と悩みを打ち明け、涙する女性と、その涙をそっとふきとる87子さん。女性は変身後にとびきりの笑顔を見せてくれた

 87子さんが特に印象に残っているという依頼者も、そのひとり。冒頭では「300万かけ整形したのに可愛くなれない28歳 失恋からの大変身」と紹介された。整形のきっかけは、片思いをしていた男性に言われた「ブス」の一言。ショックで醜形恐怖症になり、整形をしたという。

 女性は、「どう変わったらいいのかわからない。整形とか逃げだと思うけど、ダイエットしたり努力してもダメなら、もう整形するしかなかった」と、涙を見せながら語った。その様子に、胸が締め付けられ撮影中に涙してしまったという87子さん。

悩みを打ち明けてくれる彼女の姿を見て、本当につらくなってしまいました。好きな相手の言葉って良くも悪くも大きな力をもっているので、その言葉にどれだけ傷つけられたのかって……。依頼者さんの骨格に合うメイクやファッションを考えて、変身後に笑顔を見せてくれたときにはホッとしました。やっぱり、かわいくなりたい、変わりたいって大事なテーマだと改めて気づかされました」

 依頼者の気持ちに深く寄り添うことのできる彼女だからこそ、最大限に相手の魅力を引き出すことができるのかもしれない。

右から、スタイリスト兼プロジェクトの代表、87子さんと、美容師のれいなさん

「3月の上旬にショート動画ではなく、3分ほどのご報告の動画を投稿しました。準備が整ってイメチェンをするための実店舗をオープンしたことについての告知です。いままでは、レンタルスペースを借りていたのですが、なんとか軌道にのせることができて

イメチェンに特化したサロンをオープン

 少しずつではあるが動画の収益も入り、“イメチェンに特化したサロン”をオープンすることができた。最初は知り合いに頼んで出演してくれる人を探していた彼女たちだが、いまでは開設した公式LINEに1日あたり、40~50件ほどの依頼がくるようになったという。

私の目標は、自分のことを好きになってくれる人をひとりでも多く増やすこと。サロンでは美容室のようにいくつかメニューを設けて、トータルプロデュースやメイクの仕方などいろいろなことをお手伝いできるお店になればと思っています。

 動画にあげているような大変身のほかにも、例えば医療従事者や教師をしている人たちが『普段は派手な髪はできないけど、休日だけはウィッグをつけて楽しみたい!』といった、カジュアルなイメチェンをブーム化させることも、目標のひとつです。私たちの活動をもっとたくさんの人に知ってほしいので、動画投稿も続けていきます」