石井亮次アナ(ゴゴスマ公式Twitterより)

「歴史ある番組に参加させていただき、大変光栄です」

 11日放送のTBS系『日立 世界ふしぎ発見!』(土曜午後9時)内でそう語ったのはフリーの石井亮次アナ(45)。37年に渡って司会を務めた草野仁アナ(79)の後任として、4月から同番組に登場する。

石井亮次アナ、売れっ子の理由と視聴者の求めるMC像

 石井アナが名古屋に本社のあるTBS系のCBCテレビを退社してから丸3年。ゴールデンタイムの番組でレギュラーの司会を務めるのは初めてだ。同局系生情報番組『ゴゴスマ~GOGO!Smile!~』(制作はCBCテレビ、平日午後1時55分)のMCも継続する。

 4月からは関西ローカルの生情報番組『LIVEコネクト!』(関西テレビ、土曜午前11・20分)のMCも務める。ほかに単発番組やゲスト出演もあるから、超が付くほどの売れっ子と言える。

 フリーの男性アナは数多いが、どうして石井アナは人気なのだろう。それを考察すると、現代の視聴者が求めている男性アナ像が浮かび上がる。

 2000年ごろまでは個性を前面に出すタイプのアナが主にフリーになり、活躍した。1976年にテレビ東京を退社した小倉智昭アナ(75)やTBSを1979年に辞めた久米宏アナ(78)、文化放送を同年に離れたみのもんたアナ(78)、1991年に日本テレビから出た福留功男アナ(81)らである。

 自分の個性を前面に出す分、一緒に出演するコメンテーターやゲストの存在感が薄くなった。コメンテーターやゲストはMC、あるいは司会のアナが指名しないと話せなかったし、長く語ることも難しかった。アナではないが、故・大橋巨泉さん(享年82)が1970年代に確立したスタイルである。

 面白いことに石井アナは真逆なのだ。『ゴゴスマ』をご覧になっている方ならご存じの通り、自説を熱弁するようなことはなく、一方でコメンテーターには自由に話させる。時には自分がコメンテーターにいじられる。巨泉さんスタイルの司会が王道とされた時代には考えられない。

 石井アナはスタジオで声を荒げることがなく、コメンテーターの意見も否定しない。これについて本人をインタビューした際に尋ねたところ、こんな答えが返ってきた。

「その意見はその人の考えで、正しい、正しくないは決められませんからね。僕の考えと違うからといって、正しくないわけではない。よく言えば、多様性。まぁ『ゆっくりやりましょうよ』って感じですよ」(石井アナ)

 控え目な考え方だ。『ゴゴスマ』は視聴率好調なので、その理由の自己分析もしてもらったところ、やはり自分は二の次だった。

「スタッフのチームワークの良さ、系列局の協力が大きいと思います。(コメンテーターのお陰で)スタジオの雰囲気が和やかなのも魅力だと言っていただきます」(石井アナ)

 自分が努力しているとか、工夫しているとか、そんなことは最後まで一言も口にしなかった。

 2011年に日本テレビを退社した羽鳥慎一アナ(51)と共通点が見出せる。羽鳥アナもMCを務めるテレビ朝日系『羽鳥慎一モーニングショー』(平日午前8時)では控え目。持論はほとんど語らない。一方でコメンテーターには存分に時間を与え、途中で言葉を遮るようなこともない。

 NHKを2月末に退職した武田真一アナ(55)も同じタイプに違いない。武田アナは民放内で争奪戦が繰り広げられた末、4月から日本テレビ系の新生情報番組『DayDay.』(平日午前8時)のMCを務める。  

 武田アナはNHK時代の2019年4月から丸3年間に渡ってMCを務めた『クローズアップ現代+』で、ゲストらの話の聞き役に終始した。感情すらほとんど表に出さなかった。

 災害などの悲劇を報道する時、目を真っ赤にすることもあったが、こみ上げる悲しみすら表に出さないよう努めていた。これは石井、羽鳥アナとも共通する。どこまでも自分は二の次。消極的というわけではなく、タレントではなくアナなのだというプライドからだろう。

 控え目なアナたちが人気なのである。なぜ、アナのトレンドに変化が生じたのか。その理由の1つはMCや司会を務めるお笑い芸人が増えたので、逆にアナには正統派が求められているのではないか。また、説教臭いアナには視聴者側が拒絶反応を起こしているに違いない。

石井アナのコメントから見る真面目な人間性

 4月からゴールデンタイムにも登場し、知名度がさらに上がりそうな石井アナ。その素顔は愉快な人で冗談も言う。情熱的でもある。2004年に結婚した夫人は、旅番組のロケで訪ねた三重県内の喫茶店のお嬢さんで、ひと目惚れした石井アナから声を掛けた。名古屋からその喫茶店までは片道80キロあったが、出会った後は週1回のペースで1年間に渡って車で通った。

 夫婦仲の良さは知れ渡っているものの、それを石井アナにあらためて問うと、少し考え込み、「仲が良いはずです」と答えた。わざわざ「はず」を付けた。夫人に確認せずに断言するのが嫌なのだ。真面目な人でもある。

 アナは全国の人に顔を見せる仕事。疲れた表情ではカメラの前に立てない。石井アナには誰でもマネできそうなセルフコントロール術がある。石井アナは忙しいにも関わらず、いつも上機嫌だが、これにはコツがあった。

「寝るときは『今日もホンマに素晴らしい1日やったなぁ』と思います。すると、気分が違って来るんですよ。朝起きたときも『しんどいな』と思うんじゃなくて、『今日もまた始まるぞ!』って思う。すると前向きになれます」(石井アナ)

 自分は二の次の石井アナが『世界ふしぎ発見!』では、どんな司会ぶりを見せるのか。

取材・文/高堀冬彦(たかほり・ふゆひこ)放送コラムニスト、ジャーナリスト。1964年、茨城県生まれ。スポーツニッポン新聞社文化部記者(放送担当)、「サンデー毎日」(毎日新聞出版社)編集次長などを経て2019年に独立。

 

CBCを退社日の石井亮次アナウンサー(CBCテレビアナウンサー公式Twitterより)

 

木村拓哉との1枚(ゴゴスマ公式Twitterより)

 

『世界ふしぎ発見!』後任司会が報じられた石井亮次アナ(事務所公式HPより)