映画『レジェンド&バタフライ』大ヒット御礼舞台挨拶での木村拓哉('23年2月)

 木村拓哉(50)が主演し、綾瀬はるか(37)が共演する映画『レジェンド&バタフライ』の公開から約2か月が過ぎた。まだ全国300以上のスクリーンで公開中であるものの、興収は足踏みが続いている。

キムタクの『レジェンド&バタフライ』苦戦か

 1月27日の公開から2月20日までの25日間で約154万人を動員し、興収は20億円に達した。だが、3月19日までの52日間では動員186万人で興収24億円。現時点ではヒット作と呼べるかどうか微妙だ。

 興収とは観客が映画館に支払う料金のこと。これを製作側と映画館側が折半する。この作品の総製作費は約20億円だから、それを回収するためには40億円の興収が必要ということになる。

 現状は苦戦中という表現が妥当だろう。ただし、この結果は複数のドラマ関係者たちがあらかじめ断定的に予測していた。なぜか。最大の理由はキムタクのファン層と作品のミスマッチである。

 キムタクのファン層は圧倒的に50代以上の女性だ。直近の主演ドラマ『未来への10カウント』(テレビ朝日系、2022年春ドラマ)の視聴率を見ると、一目瞭然である。まず、個人全体視聴率が6%前後、もうテレビ界内では使われていない世帯視聴率は10%強あった(視聴率はビデオリサーチ調べ、関東地区、以下同)

 ところが、50代以上の女性の個人視聴率は10%を軽く超えていた。驚異的だ。こんなドラマはまずない。

 若いときにフジテレビ系『ロングバケーション』(1996年)や同『ラブジェネレーション』(1997年)を観ていた現在の50代以上の女性が、今もキムタクを支持している。

 半面、F1層と呼ばれる20歳から34歳の女性の個人視聴率は僅か1%台。目を疑うほど差がある。35歳から49歳までのF2と称される女性たちの個人視聴率も4%前後で高いとは言えない。今の若い女性たちにとって関心の的は10~30代の俳優なのだ。

 本人が年を取ったら、ファン層の年齢も上がる。キムタクに限らず、当たり前のこと。だが、ドラマや映画の制作陣はそれを忘れてしまっていると思えるときがある。

『レジェンド&バタフライ』も興収面だけを考えたら、徹底的に50代以上の女性を狙うべきだった。この作品はそうとは思えない。

 まず上映時間。2時間48分ある。公開3日目に観に行ったところ、途中で退席する中年カップル、中年女性がいた。続けて観たくても体がきつくなる。長すぎたのではないか。

 作風も50代以上の女性に焦点が合わせられているだろうか。監督は『るろうに剣心シリーズ』(2012年~)の大友啓史氏(56)、脚本はNHK大河ドラマ『どうする家康』の古沢良太氏(50)と、ヒットメーカーだが、企画段階で観客ターゲットが絞れていなかった気がする。

 それを裏付けるように一言では内容を説明できない作品になっている。キムタク演じる織田信長と濃姫(綾瀬はるか)のラブストーリーのようで、信長の狂気の記録でもある。信長と濃姫の絡みも多いが、合戦や政治的謀略のシーンも多い。残虐なカットもある。

 50代以上女性のキムタクファンに狙いを定め、ラブストーリー部分を厚くするか、あるいは大友、古沢の各作品を好む層に向けて、戦国エンタテインメントにするか、決めかねたように見えてしまう。それが興収の足踏みに結び付いてしまったのではないか。

木村拓哉と時代劇の相性

 そもそもキムタクと時代劇の相性は良いとは言い難い。まだSMAPのメンバーだった2014年に2夜連続で放送された主演ドラマ『宮本武蔵』(テレビ朝日系)の世帯視聴率(当時の基準)は14.2%と12.6%。大作で世帯視聴率が取れたころにしては平凡な数字だった。評価も賛否分かれた。

 フジテレビ系が2001年に放送した『忠臣蔵1/47』では主人公に据えられた堀部安兵衛に扮した。この作品は23.9%の高視聴率を獲得したものの、忠臣蔵が人間ドラマなのは知られている通り。合戦シーンはないし、刀を使う場面も少なかった。

 山田洋次監督(91)による『武士の一分』(2006年)は当たった。推定10億円程度の製作費で、興収は41.1億円。毒味役の貧乏武士・三村新之丞に扮したキムタクも高い評価を得た。ただし、これも山田監督が人の生き方を説いた人間ドラマなのだ。清貧を貫いた新之丞と妻・加世(壇れい)との夫婦愛の物語でもあった。

 キムタクに信長のような武将や武蔵のような剣豪が似合うのか、50代以上女性のファンがそれを望むのか。制作者側はあらためて考えるべきなのではないか。

 キムタクは4月10日からフジの新しい月9『風間公親-教場0-』に主演する。キムタク演じる冷徹で厳しい教場の教官・風間公親が、いかにして生まれたかが描かれる。刑事指導官時代が舞台になる。

 この作品のキャスティングを見ると、フジはキムタクのファン層をよく理解していることが分かる。共演はシングルマザーの若手刑事役で新垣結衣(34)、風間の指導を受ける新人刑事役で染谷将太(30)、同じく新人刑事役で赤楚衛二(29)ら。キムタクの黄金時代を知らない若者にも魅力的な布陣に違いない。

 キムタクを座長にしながら、その負担は軽くした配役とも言える。よくキムタクと比較される故・田村正和さんも50歳を過ぎると、フジテレビ系『さよなら、小津先生』(2001年)など、自分の負担が軽い作品に出演した。年を重ねてからも10代~30代の支持を得るのは誰だって難しい。

 一方、『レジェンド&バタフライ』はキムタクがほぼ出ずっぱり。綾瀬の見せ場もあるが、ワンマン映画に近い。すると、キムタクのファン層を取りこぼすと、ヒットは難しい。

取材・文/高堀冬彦(たかほり・ふゆひこ)放送コラムニスト、ジャーナリスト。1964年、茨城県生まれ。スポーツニッポン新聞社文化部記者(放送担当)、「サンデー毎日」(毎日新聞出版社)編集次長などを経て2019年に独立。
 
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