エナジードリンクと大麻由来のCBD、この2つが嗜好品の世界に変化の波をーー

 CBD、その関連商品が急速に脚光を浴びている。CBDは麻に含まれる化学物質(カンナビノイド)の1種であり、研究ではリラックス効果、安眠効果、不安感の鎮静、また「抗酸化作用」や「抗炎症作用」が報告されている。

 大麻由来の物質でありながら、精神活性作用や依存性がないとされる。

 主にオイルとして身体に塗布したり、食べ物に添加したり、VAPE(リキッドと呼ばれる専用の液体を加熱して水蒸気を発生させ、その水蒸気をたばこのように吸い込んだり吐き出したりして香りや味を楽しむもの)のリキッドとして摂取する使用法がメーン。

 厚生労働省地方厚生局麻薬取締部のサイトによると「大麻草の成熟した茎や種子のみから抽出・製造されたCBD(カンナビジオール)を含有する製品については、大麻取締法上の「大麻」に該当しません」としており、茎や種子由来のCBD製品は流通が認められているのである。

 CBD関連商品は近年倍々ゲームで市場規模を拡大。矢野経済研究所は、国内CBD製品市場規模は小売金額ベースで2023年には約476億円に達すると予測している。

 使ってみた人の感想だが、ネット上を見ると、

「仕事中に凝った首や肩にCBDオイルを塗ると緊張がほぐれていくのが実感できました」
「寝る前にCBDオイルをミルクに入れて4滴ほど取るようにしたら、朝の目覚めが良くなった」
「イライラ感がおさまらない時にCBD入りのグミを食べると、落ち着くようになりました」

 といった声などが寄せられている。(※これらは個人の感想です)CBDはここ数年クローズアップされている「チル」(まったりする)という感覚や気分にもマッチする商品のようだ。

 また、エナジードリンク市場も拡大している。全国小売店の販売データを集計する日経POS情報における来店客1000人当たり販売金額は、2018年9月の501.6円から2022年9月は1517.9円と、4年で3倍の成長を見せているという。

 こちらはもはや説明の必要もないくらい効果はポピュラーで、「シャキッとしたい」「疲れた時に元気を出したい」「あともうちょっと頑張りたい」という人たちに活用されている。

 CBDもエナジードリンクも嗜好品(「味や風味を楽しむために個人が好んで摂取する製品」実用日本語表現辞典より)の一種といえる。

 嗜好品といえばお酒やたばこが古く大きな存在で、これらは酒税、たばこ税といった税金の増税であったり、特にたばこは2020年4月の改正健康増進法全面施行で住居を除いて原則屋内禁煙になるなど、年々楽しむエリアも制限される状況にある。

 お酒やたばこのようなオールドな嗜好品が締め付けを受ける一方で、CBDやエナジードリンクはオシャレなイメージに乗ってどんどん浸透。いま嗜好品の世界にも変化の波が押し寄せていえよう。

経済評論家、鈴木貴博さん

 未来予測に定評のある経済評論家、鈴木貴博さんによると、「お酒もたばこも“心のツール“といえます。もともとアッパー、つまりテンションをあげるために取っていたのがお酒、逆にリラックスや気持ちを落ち着かせるために取っていたのがたばこです。そう考えると、エナジードリンクはアッパー系でお酒の代替、CBDはリラックス系でたばこの代替と考えることができ、だから伸びてきたといえるでしょうね。もう少し言うと栄養ドリンク、コーヒー、コーラなどカフェインを含む飲み物は昔からあったが、エナジードリンクのようにその中身を濃くしたものにニーズがあったということだと思います」

 では、CBDとエナジードリンクはどれだけ伸びていくのだろうか。

「お酒の小売市場規模が3兆円、たばこが2.5兆円といわれています。エナジードリンクはお酒、CBDはたばこの5%以内が成長の目安と考えています。CBDはすでに400億円ですが、大きくなって500〜1000億円くらい。たばこほどメジャーな商品にはならないが一定の支持は得そうです。またエナジードリンクはすでに800億円で、1500億円くらいまでは成長可能性はありそうです」(鈴木さん)

 ある程度の成長が見込まれているCBDとエナジードリンクだが、使用にまったく心配がないというわけではない。

 CBDについてはアメリカ食品医薬品局(FDA)のサイトを見ると、「CBDの使用は、特に長期的な使用において、様々な安全性の懸念を抱かせます。研究では、肝臓への害、特定の薬との相互作用、男性の生殖器官への害の可能性が示されています」(編集部日本語訳)などと掲載されている。

 また、昨年12月には「FDAは、CBDの安全性に関する証拠を検討した後、どのように規制するか、そのために新たな規則や新たな立法が必要になるかどうかを数か月以内に決定する予定」と報じられた。

 使用後すぐに害が見られるものではないが、長期的にはどのような影響があるかわからないということなのだろう。

 またエナジードリンクについては、かねてよりカフェインが多く含まれることが指摘されている。

 農林水産省のサイトでは、カフェイン過剰摂取のリスクについてこう説明している。

「カフェインを過剰に摂取し、中枢神経系が過剰に刺激されると、めまい、心拍数の増加、興奮、不安、震え、不眠が起こります。消化器管の刺激により下痢や吐き気、嘔吐することもあります。長期的な作用としては、人によってはカフェインの摂取によって高血圧リスクが高くなる可能性があること、妊婦が高濃度のカフェインを摂取した場合に、胎児の発育を阻害(低体重)する可能性が報告されています」

 欧米ではカフェインを多く含むエナジードリンクは既に問題視されており、イギリスでは、16歳未満のエナジードリンク購入は禁止されているのである。

 また、最近徳島県の高校でコオロギパウダーを使った給食が出されたことがきっかけで「コオロギ」食へのバッシングがネットを中心に起きた。これは「虫を食べるなんてーー」という生理的な嫌悪感が背景にあると思われるが、CBDについても「大麻由来のものだけに揚げ足は取りやすい。CBDの輸入製品の中には、気分がハイになるなど精神活性作用がある規制物質のTHCが含まれていることがわかったものもあります。どこかでバッシングが起きる可能性もある」(鈴木さん)という。

 しかし、どんなものにもメリットやデメリットがあり、生理的な嫌悪感やデメリットだけをクローズアップして排除するのは賢いとはいえない、特にCBD市場の盛り上がりは、欧米では新たな産業、経済効果の創出チャンスとしても捉えられているのだ。

2021年7月、CBD専門店『CBDNATION』の1日店長を務めるK-1ファイター武尊(たける)。CBD業界でも宣伝に有名人を起用するケースが増えてきた(同店プレスリリースより)

 鈴木さんはCBD、エナジードリンクにとどまらず嗜好品全般への付き合い方についてこう話す。

「CBDについて言えば、健康的に言うとそれほど大きなマイナスのあるものではないので許可されているはずなので、個人としては、周囲が許す限りは自由にやればいいのではないかと思っています。一方エナジードリンクはカフェインが多く含まれているから効くのだということは認識して取りすぎには注意した方がいいかもしれません」(鈴木さん)

 嗜好品は、際立って便利な点があれば、反面として悪い点があるのは当然のこと。一つ一つの商品のメリットやデメリット、またメリットをもたらす因果関係も考え、賢く付き合うことが求められているといえよう。

 嗜好品それぞれのメリットとデメリットを見極めるためには、製造側の正確なデータの提供はもちろんだが、国民の側にも常にデータを学ぶ姿勢が必要だろう。マスコミの側にも、称賛一色やデメリットの誇張一辺倒でない冷静な報道姿勢が求められる。このような要素が揃ってこそ成熟した嗜好品文化が形成されるのでは。

お話を聞いたのは……
鈴木貴博さん
経済評論家、百年コンサルティング代表
東京大学工学部物理工学科卒。ボストンコンサルティンググループ、ネットイヤーグループ(東証グロース上場)を経て2003年に独立。人材企業やIT企業の戦略コンサルティングの傍ら、経済評論家として活躍。人工知能が経済に与える影響についての論客としても知られる。著書に『日本経済予言の書 2020年代、不安な未来の読み解き方』(PHP)、『仕事消滅 AIの時代を生き抜くために、いま私たちにできること』(講談社)、『戦略思考トレーニング』(日経文庫)などがある。