「ヤバい女になりたくない」そうおっしゃるあなた。有名人の言動を鋭く分析するライターの仁科友里さんによれば、すべてのオンナはヤバいもの。問題は「よいヤバさ」か「悪いヤバさ」か。この連載では、仁科さんがさまざまなタイプの「ヤバい女=ヤバ女(ヤバジョ)」を分析していきます。
遠野なぎこ

第84回 遠野なぎこ

 女優・遠野なぎこが三度目の結婚をした2週間後に離婚。最初の結婚は72日間、二度めは55日間といずれも短い結婚生活でしたが、自身の持つ記録を更新してしまいました。

結婚と離婚を繰り返す、なぎこはヤバイのか?

 明石家さんまは3月25日放送のMBSラジオ『ヤングタウン土曜日』で「『結婚』という文字の捉え方が違うのかな、我々というぐらい。もっと慎重に『次の結婚は・・・』とか思うねんけど、2週間? すごいなぁ。なんで結婚したんやろなぁ」と驚き、東野幸治は24日放送ABCラジオ『東野幸治のホンモノラジオ』において、なぎこがバラエティ番組に出だして、赤裸々トークをしていたときに、白髪を染めていないことに気付き、すさんだ私生活を連想してヤバいと思ったそうです。「で、今回マッチングアプリで出会った方、結婚して2週間で三度目の離婚ってことで・・・。やっぱり何も変わってなかってん」「俺のコンピューター間違ってないなと思って。安心しました」と語っていました。

 おそらく、さんまも東野も「結婚と離婚を繰り返す、なぎこはヤバい」と思っているのでしょう。しかし、なぎこのこれまでの人生から考えて見ると、ちょっと印象が変わるかもしれません。

2014年7月、離婚会見の翌日も元夫が経営するお店を手伝いに来ていた遠野なぎこ

 なぎこの著書『一度も愛してくれなかった母へ 一度も愛せなかった男たちへ』(ブックマン社)は自伝的小説と銘打たれています。小説ということは、書かれていることはフィクションの部分もあるということでしょう。しかし、そこを考慮しても、彼女の生い立ちはとても悲しいのです。なぎこのお父さんは二十歳、お母さんはなぎこを妊娠して高校を中退します。若く、職もなく、援助してくれる人もいない二人の結婚生活は予想どおり不安定で、お父さんは仕事が続かず、お母さんは小さい子どもを置いて実家に帰ってしまうなど、育児放棄と言われても仕方ない子育てしかできなかったそうです。

 自分が芸能界入りを夢見ていたからでしょうか、お母さんはなぎこの弟と妹に、その夢を託すかのように児童劇団に入れます。お母さんはなぎこに「おまえは醜い」と教えこんでいたために、子役に何の興味もなかったのですが、劇団側はさすがプロ。なぎこに可能性を感じてスカウトします。オーディションに合格すれば、いつもはなぎこに興味を持たないお母さんがほめてくれるので、それはもうがんばってしまう。仕事が不安定なお父さんの代わりに子役としてお金を稼ぎ、家事をしないお母さんの代わりに弟、妹のために世話をする。

 この頃のなぎこは「頼りにされること」が嬉しかったそうです。それでは、お母さんは子どもたちを放って何をしていたかというと、恋愛でした。なぎこのお父さんと別れた後は、なぎこが出演した番組の撮影スタッフと再婚しましたが、今度は不倫関係を経て、資産家の男性と再々婚しています。

今回の離婚報告は事実を述べるにとどまった(遠野なぎこインスタグラムより)

摂食障害に陥った理由

 十代も後半となり、グラビア撮影を経験するようになると、なぎこは自分の体形が気になってきます。そんななぎこに、お母さんが教えたのは「吐くこと」でした。お母さんもこのようにして、細い体を保っていたのだそうです。なぎこは次第に摂食障害に陥っていきます。新人女優の登竜門、連続テレビ小説『すずらん』のヒロインを射止めた頃には「恋多きオンナ」を通り越した恋愛依存も始まり、楽屋に意中の男性を引っ張り込むなど、業界の常識では考えられない行動を取っていたそうです。

 心理学では、親が親としての務めを果たさず、子どもに安全な場所を提供できなかった家庭のことを“機能不全家庭”と言い、そういう家庭に育った子どもはアダルトチルドレンと呼ばれています(本来は、アルコール依存症の親のもとで育った子どもを指した言葉ですが、現在では機能不全家庭に育った子ども全般に用いられています)。上述したエピソードから考えるのなら、なぎこもアダルトチルドレンと言って差し支えないでしょう。子どもは親に見捨てられたら生きていけないので、そういう環境で生き抜くために、自ら“役”を引き受けます。アダルトチルドレンの担う役はいろいろあるのですが、なぎこが演じたのはその一つ、ファミリーヒーローでした。親が喜ぶこと、家族の自慢になる業績をあげれば、家族がその時だけは笑っていられるからです。

 アダルトチルドレンは、嗜癖(しへき)を起こしやすいとされています。嗜癖とは依存症です。嗜癖は三種類あるとされており、アルコール依存症や摂食障害などの物質嗜癖、ギャンブル依存症や恋愛依存症などの過程嗜癖、ドメスティックバイオレンスやパワハラなどは人間関係嗜癖と呼ばれています。精神科医で『嗜癖する社会』(誠信書房)の監訳者である斉藤学氏は「嗜癖は中毒ではない、人は好きで嗜癖する」と解説しています。嗜癖とは「やってはいけないと重々わかっている、それをすることで不利益があることもわかっている、それなのにやめられない」ことを指すわけです。

男性スキャンダルはご法度なのに…

 たとえば、朝ドラのヒロインは清潔感が求められるため、男性スキャンダルはご法度とされていたそうです。ボーイフレンドすら許されないのなら、なぎこのように複数の男性を楽屋に引っ張り込むことが言語道断であること、それがバレたらどんなオオゴトになるかは、芸能生活の長いなぎこ自身が一番よーくわかっていたはず。にも拘わらずやめられないから、嗜癖なわけです。

2014年7月、離婚会見の翌日も元夫が経営するお店を手伝いに来ていた遠野なぎこ

 それでは、なぜ嗜癖は起きるのでしょう。心理学者、ウィットフィールドによるとアダルトチルドレンは生育環境により、不安と屈辱感を抱え、「真の自己」を消失させられていると指摘しています。アダルトチルドレンは自分がなく、そのため慢性的な空虚感に悩み、その部分を人や物で埋めようして起きるのが嗜癖なのだそうです。男性依存症という嗜癖を持っている人にとっては、自分に愛の言葉をささやいてくれる人を失いたくない、だから、相手からプロポーズされたら、受け入れて結婚するしかない、けれど、結婚したら、配偶者以外との恋愛もしくは肉体関係は許されない。フツウの人にとっては「そんなこと当たり前」ですが、男性依存症の人は「わかっているのに、やめられない」わけですから、大きな壁にぶち当たることは目に見えています。短期間で離婚したとしても不思議はありません。

2度目の離婚後、会見に臨んだ遠野なぎこ(2014年)

大きな不安とさみしさの中をさすらっている

 離婚後に出演した『バラ色ダンディ』(MXテレビ)で、またマッチングアプリを始めたことを明かしていたなぎこ。人によっては彼女を「自由奔放な人」と見るかもしれませんが、アダルトチルドレンの特性に照らし合わせてみると、彼女は大きな不安とさみしさの中をさすらっているように見えてしまうのです。

 なぎこはお母さんの「母親らしくない行動」に傷つけられてきましたが、複数回の婚歴、定まらない異性関係、摂食障害を持っているという意味で、よく似ています。アダルトチルドレンは世代伝承する傾向があり、アダルトチルドレンの親がアダルトチルドレンである可能性は高いとされています。なぎこのお母さんも、何かつらい過去があったのかもしれません。

 子どもの頃から、家の中でファミリーヒーローという役を演じさせられてきたなぎこにとって、女優という仕事は天職でしょうし、バラエティ番組で「おかしなオンナ」を演じることなんて朝飯前なのかもしれません。彼女がなぜ短期間で結婚と離婚を繰り返すのかを決めつけるつもりは毛頭ありませんが、世の中には「ヤバい家族」というものがいて、生きづらさを植え付けられてしまう人がいることを知ってほしい気になるのでした。