市販のヨーグルトに隠された健康のヒミツとは…?

 昨今、Cost performanceの略語である「コスパ」という言葉の使用頻度が高まっている。

 支払ったコスト(費用)に対するパフォーマンス(効果)は大きい方がいい──。

 日用品だけでなくさまざまなところで費用対効果が考えられる時代になった。“結婚のコスパ”として、家賃、食費、税金、社会保障、など既婚と生涯独身の場合を比較する議論がなされたり、偏差値と学費の割に就活業界での評価はイマイチな(?)な大学を見直す“学歴コスパ”の考え方、時短のために映画やドラマを1.5倍速で観るといった“タイパ”という概念まで登場するように。

 そんないまこそ提案したい新たな指標が「健康コスパ」だ。物価高騰に頭を悩まされる現代、低予算かつ、簡単に生活に取り入れられて、“最大の健康効果”を発揮する食品は何か。今回は3つのおすすめの食材をピックアップ。知られざる“健康コスパ”の良い食材を探っていきたい。

【選ばれた3つの健康食品】似た商品なのに健康効果が違う!?

 今回選ばれたのは「豆腐」「油」「ヨーグルト」。われわれの食生活に密着した3選手! 

 絹ごし豆腐と木綿豆腐はどちらが健康コスパがより良い? オリーブオイルとごま油は? そしてヨーグルトはどこに注目すればより健康効果が得られるのか。「コスパ」「タイパ」「健康コスパ」「商品特性」の4つの基準を軸に“対決形式”で見ていきたい。

 それぞれなぜ選ばれたのかを、今回の対決を監修していただく管理栄養士の浅野まみこ先生に直撃した。

「この3つの食材はすごく一般的に使われているものなのに、その効能だったり具体的な栄養素について案外知られていないんですよね。押さえておかなければならないポイントを見過ごされがちな商品たちです。日常的に食卓にあがるものですし、こうした特徴を知っていると、同じ食べ方でもより健康的に人生を送れます。“似ているけど違う”ところを見ていきましょう」

管理栄養士の浅野まみこ先生

【対決その1 豆腐】──木綿vs絹ごし

絹ごし豆腐vs木綿豆腐 健康コスパが良いのはどっち!?

──ではまず木綿豆腐と絹ごし豆腐。一見同じもののように思えるのですが、同じ豆腐なのに栄養価が違うんですか?

「実は違うんですよ。まず製造の過程ですね。大豆を茹で、豆乳をつくり、にがりを入れるところまでは一緒なんですが、それを型に入れぎゅっとしぼって作るのが木綿豆腐、そのまま固めるのが絹ごし豆腐。ここで栄養の差が出てきてしまうんです。まずはカロリー面は絹ごしの方がちょっと低い。100gあたり木綿が73kcalで、絹ごしが56kcal。またむくみを取ることが期待されているミネラルのカリウムは木綿が110mgに対して絹ごしは150mg。カリウムはナトリウムを排せつしてくれるのでとても大切なミネラルです

──なるほど。絹ごし豆腐、すごいじゃないですか!

「ところが今流行りのタンパク質やカルシウムという点においては、木綿の方が圧勝なんです。働く世代の皆さんにとってタンパク質は非常に重要な栄養素です。さらに身体の調整作用として欠かせないビタミンEも木綿の方が多い。また体内で糖やアミノ酸、脂質などの代謝に関わる補酵素として働き、エネルギーを作り出す手助けをするビオチン、食物繊維など、多くの栄養素がちょっとずつ木綿豆腐の方が多いんです。つまり健康コスパという面で言えば、木綿豆腐に軍配が上がります」

──では、タイパの観点からはどうでしょう。

「絹ごしの方が手に入りやすいですね。例えばコンビニには3個パックの豆腐はやや絹ごしの方が多く並んでいます。ほかにもスープに入ったお豆腐、サラダのお豆腐など、料理になった商品でもほとんどが絹ごしなんですね。手に入りやすい。なので、健康コスパが良い木綿豆腐を選ぶ際はより、“自分の足で探す”意識をする必要がある」

 

──そんな木綿豆腐の美味しい食べ方はありますか?

「絹ごしの場合はのどごしを楽しむ調理法、たとえばサラダとかお味噌汁などに入れるのが向いています。木綿はどちらかといえば、大豆の味わいを楽しむお豆腐。水分を抜く調理法が向いているので、焼くとか煮付けるときに大活躍します。煮物や豆腐ステーキなどがおすすめですね。豆腐に入っているたんぱく質や食物繊維などは加熱しても栄養価は残り続けます。水溶性のビタミン、ミネラルは煮るなどの調理過程で多少溶けでますが、それで栄養価が損なわれるということはありませんよ」

──より健康コスパのいい食べ方は?

「より健康コスパを求める食べ方としては、筋肉の増加を促すならキノコやお魚などに含まれるビタミンDと一緒に摂ると効果的。鮭やマグロに多く含まれるので相性は抜群です。そう思うと古典的な和食って、栄養バランスの相性がいいものが組み合わさるようになっています。不思議ですね」

 

【対決その2 油】──EXVオリーブオイルvsごま油

エクストラバージンオリーブオイルvsごま油 

──次に油についてお伺いします。家庭で自炊するにあたっての必需品といえる存在ですが、健康に良くて手に入りやすいものでいうと「エクストラバージンオリーブオイル(以下、EXVオリーブオイル)」「ごま油」などが挙げられます。これは原材料の他に何か違いはあるんですか?

「実は、油の“種類”そのものが違ってきます。大きく分けると、飽和脂肪酸と不飽和脂肪酸になるんですね。漢字で表現すれば、飽和脂肪酸は“脂(あぶら)”。不飽和脂肪酸が“油(あぶら)”になるわけです。EXVオリーブオイルもごま油も不飽和脂肪酸に分類され、さらにここからまた大きく一価不飽和脂肪酸と私たちの体内では生成できない必須の脂肪酸である多価不飽和脂肪酸に分かれます」

──むむ……どういうことでしょうか。

「EXVオリーブオイルは一価不飽和脂肪酸(オメガ9)であるオレイン酸を多く含みます。油のデメリットといえば、加熱や空気に触れることでの「酸化」ですね。これは身体には悪影響なのですが、オレイン酸は、安定的で酸化しにくいというメリットがあります……あ、すみません油の話が好きでついテンションがあがって専門的な話を(笑)

 とにかく、EXVオリーブオイルは油脂類の中では、一番酸化しにくい油といわれています」

 

──なんと、一番なんですね!

「はい。抗酸化作用があるポリフェノール類や葉緑素クロロフィルが入っていることもメリットですね。加熱調理しても酸化しづらいですし、なおかつ食べると体の酸化を修復してくれる働きがあるわけです。また、オレイン酸は善玉コレステロールを上げて、悪玉コレステロールを下げてくれます。コレステロールバランスを取るにもいいのがEXVオリーブオイルですね」

──ごま油はどうですか?

「ごま油は多価不飽和脂肪酸(オメガ3)で、メインの栄養素がサラダ油などと同じリノール酸になります。リノール酸は多く摂りすぎると炎症の原因になるといわれているんです。また多価不飽和脂肪酸ですので一価不飽和脂肪酸より、酸化しやすいといえるでしょう。とはいえ、ごま油にもごま由来のポリフェノール、またビタミンEも多く入っています。このビタミンEにも抗酸化作用があるので、こちらも酸化した細胞修復をする働きをしてくれます。あと、EXVオリーブオイルは価格差が大きくこだわればキリがないので、コスパ的にはごま油のほうがいいといえるでしょう

──それでも、基本的にEXVオリーブオイルのほうが健康コスパがいい

「そうですね。ポリフェノールの効能的にも高いですし、消化機能を高める働きもあります。汎用性でいえば、乳児の離乳食にも使えますし、ピロリ菌や逆流性食道炎を抑える働きがあるという説もあります。EXVオリーブオイルは油ではありますが、いわばオリーブを絞った果汁といもいえます。味付けとしても使えますから、減塩効果も見込めます。産地や品種によってもワインのように味が違いますし、アイスクリームなどにかけても美味しいですよ♪ そういった意味でも面白いですね」

 

【対決その3 ヨーグルト】──乳酸菌のみvs乳酸菌+ビフィズス菌入り 

市販のヨーグルトは「乳酸菌のみ」のものと「乳酸菌+ビフィズス菌入り」に分類できる。上のヨーグルト、あなたは仕分けられる? 正解は次の画像をチェック!

──次にヨーグルトですが……。あれ? そもそもヨーグルト部門は何と何を対決させるんですか?

「ヨーグルトは見た目も値段もほぼ同じような商品が多いので、違いがあることをあまり知られていない人が多いでしょうが、市販のヨーグルトには“乳酸菌のみ”と“乳酸菌+ビフィズス菌入り”のものと2種類存在するのです。これが意外と重要。何が違うかといえば、体内での働きですね。乳酸菌は主に小腸で働く菌。ビフィズス菌は大腸をメインに働く菌。両方とも腸内環境を整えるという意味で同じですが活躍するフィールドが違います。それともう一つ。実はビフィズス菌は、今すごく注目されている“短鎖脂肪酸”のひとつ酢酸を生み出すんです」

──酢酸が生み出されると具体的にどうなるのでしょう?

酢酸には健康な腸粘膜を維持し、腸管のバリア機能を高めるという役割があります。他にもぜん動運動を促し便通を改善する働き、また過剰な脂質の吸収を抑えることによる肥満予防や、代謝向上の働きがあります。

 そんな酢酸は口から摂取すると胃腸で消化吸収されてしまいます。ですが、実はビフィズス菌の効果により“大腸で生み出す”ことができるんです」

――ビフィズス菌が入るだけで、大腸で酢酸が作られ、大腸が整うと。

「そうです。また脳と腸がつながっているという脳腸相関という考えもあり、大腸が良い状態であると、幸せホルモンと呼ばれるセロトニンなどの産出を助け、脳が活性化するともいわれます。つまり気持ち的に元気になる可能性があります。また、ビフィズス菌入りはヨーグルト特有の酸味が弱いという特徴も。酸味は主に乳酸菌によって出るものなのですが、酸度が強すぎるとビフィズス菌が育ちにくくなる。なので、酸味が好きな方にとってはビフィズス菌入りは酸味が足りないように感じるかもしれませんが、比べてみると、ビフィズス菌入りの方がまろやかな味わいを感じるはずです

「乳酸菌のみ」のヨーグルトたち

――健康コスパがより高いビフィズス菌入りヨーグルトの効率の良い食べ方というものもあるのでしょうか。

「食べるタイミングは朝でも昼でも夜でもいいのですが、重要なのは一口ずつでも毎日食べることです。なぜなら腸内細菌は、日々排せつされていくからです。一日スプーン一杯でもいいから、ちょい足ししていくのが効果的ですね。でも、ただ食べるだけでは飽きる方もいらっしゃるでしょう。それならばドレッシングや料理に使っていただくという手もあります」

――ドレッシングにもなるのですか!

「はい。ビフィズス菌入りのヨーグルトに柚子胡椒と醤油を混ぜていただくと、茹でたお野菜などにとても良く合います。また意外かと思われるかも知れませんが、そのドレッシングを納豆にちょこっと乗せて食べると本当によく合いますよ〜。さらにはマグロとも相性がいいので、マグロのサラダに合わせてもいいですね。配分としてはヨーグルト100gに対して柚子胡椒、醤油は小さじ1未満ぐらいでいいでしょう」

――飽きなくていいですね。

「他にも、今はやりのオートミールとドライフルーツを入れておくという食べ方もオススメ。オートミールは食物繊維が多く、ビフィズス菌は水溶性食物繊維を餌とするので、一緒に食べると効率的に栄養が摂れます。さらには味わいもオートミールがヨーグルトの水分を吸って味が濃くなり、オートミールは逆に柔らかくなり食べやすくなる。前日の夜にビフィズス菌入りのヨーグルトにオートミールとドライフルーツを入れると、朝ちょうどいい具合で食べられるでしょう」

こちらが「乳酸菌+ビフィズス菌入り」のヨーグルトたち。パッケージに“ビフィズス菌”について書かれている

――ところで、コスパやタイパ的にはどうでしょう。

「ビフィズス菌入りとそうでないもの、値段はそれほど変わらないのですが、トータルでみると若干ビフィズス菌入りのものが価格帯が低いようです。また、乳酸菌のみのヨーグルトは種類が多いことからコンビニでも棚に並ぶ光景をよく見かけますね。手に入りやすさ(タイパ)的には乳酸菌のみのものに軍配が上がりますビフィズス菌入りかどうかは、パッケージに書いてあるので、よくチェックして見つけてみてください

――ちなみにビフィズス菌のサプリを飲む……のではダメですよね?(笑)。

「ダメではありませんが、やはりしっかり食べ物として口から摂ることが大切です。それが胃腸の筋トレにもなりますし、料理として食べることで複合的な栄養素が摂れるということも重要。そして大前提として“美味しさ”を忘れてはいけません。人は美味しく食べての環境下でQOL(クオリティー・オブ・ライフ)が上がりますから、それを若いうちから捨ててしまうのはもったいない気がしますね」

 

 今回は3つの食材を取り上げ、“健康コスパ”の観点で新しい提案をしてきた。それにしても、ヨーグルトにおけるビフィズス菌の有無の違いには驚きだ。未曾有の物価高の時代をどう生き抜くか──それが求められる今だからこそ「コスパ」「タイパ」そして「健康コスパ」に注目して日々の生活を送りたい。

浅野先生からひと言「目に見えないコスパに注目して」

 

「目先の効果だけでなく、さらにその先……腸内環境が整い、その結果、肌が良くなるとか毎日動きやすくなるとか、ほかの栄養素の吸収をしやすくなるなど、変わってくる部分があります。サプリなどで得られるコスパもありますが、効率だけではなく、しっかりと食べ物として摂取するほうが実は身体にとって良かったりもする。コスパが重視される時代だからこそ、目に見えない“健康コスパ”に注目してみてはいかがでしょうか」

●浅野まみこ                                  総合病院、女性クリニック、企業カウンセリングにて糖尿病の行動変容理論をベースに1万8千人以上の栄養相談を実施。その経験を生かし、現在は、食育活動やレシピ開発、食のコンサルティングをはじめ講演、イベントなど多方面で活躍中。銀座飲食店のヘルシーメニューの考案や品川駅やコンビニにて「管理栄養士浅野まみこ監修47品川駅弁当」のプロデュースをはじめ、NHK「おはよう日本」、NHK「オトナへのベル」、フジテレビ「バイキング」など、メディアや雑誌に多数出演

ウェルネス総合研究所 “健康コスパ”特集ページ https://wellnesslab-report.jp/cs/kenko-cospa/