大腸カプセル内視鏡   画像提供/コヴィディエンジャパン株式会社

 女性のがんの中で、5年連続で死亡数1位の大腸がん。40代以降の女性は、最も注意したいがんのひとつだ。

 ただ、肛門から挿入する大腸内視鏡検査はちょっと抵抗が……という女性は少なくない。お尻を出すのが恥ずかしい、内視鏡が痛そう、といった先入観があるようだ。

「内視鏡検査は精度が高く、前がん段階もしっかり発見できるので、40歳を過ぎたら一度は受けてほしい検査です。下剤を飲むなど手間がかかったり、怖いイメージは確かにあるかもしれません。そんな人には、苦痛の少ない最新の検査もありますよ」

 と教えてくれたのは、消化器内科医の近藤慎太郎先生。

最新の検査の特徴

 それが、CTC(CTコロノグラフィー)と大腸カプセル内視鏡の2つ。

 CTCとは、CT(コンピューター断層撮影)の画像から高度な画像処理を行う方法。画像の撮影は、人間ドックや精密検査でよく使われるCTと同じもの。

「CTは人体を輪切りにして撮影する装置。身体の断面図のCT画像は、テレビなどで見たことがあるのでは? CTCはさらに、その断面図をコンピューターで解析し3D画像に変換します」(近藤先生、以下同)

CTコロノグラフィーによる検査は、肛門にチューブを挿入して炭酸ガスを注入し、大腸を膨らませた状態でCT撮影を行い、内視鏡で見るような3D画像を再構成して観察・診断する方法。病変の位置が正確にわかり、大腸内視鏡の死角に存在する病変を発見することも。画像提供/富士フイルム株式会社

 3D画像は内視鏡のように実際の色は出ないが、見た目は内視鏡による観察に近い。

メリットは、大腸内視鏡と比べると苦痛が少ないこと。デメリットとしては、CT画像は数mm単位で撮影していくため、すごく小さな病変の発見が難しい。また、他のCT検査と同様に、放射線を照射しますので医療被ばくを考慮しなくてはいけません。そのため、妊娠中や妊娠の可能性がある場合など、検査が受けられないこともあります」

 もうひとつの検査、カプセル内視鏡は、撮影機能が備わったカプセルを飲み込み、大腸で画像を撮影する。

「もともと小腸用に開発されました。小腸は内視鏡が入れられない場所にあり、大腸と異なり検査がしにくい臓器なのです。近年、大腸用の内視鏡カプセルも開発され、検査に取り入れる病院も増えてきました」

 大腸カプセル内視鏡は、長さ32mm、直径が12mmと大きめのサプリメント程度。撮影が終了したら、便と一緒に排出されるしくみだ。カプセルは使い捨てだが、排出されたカプセルは回収する必要がある。

「検査中は誤ってトイレに流さないよう、注意する必要があります。体内に残っていると問題がありますから、必ず回収し排出を確認します」

 カプセル内視鏡の検査中は胸部と腹部にセンサーをつけ、腰に画像を受信する受信装置を取り付ける。画像は送信機で送るため消失する心配はない。

検査費用と前処置

 大腸カプセル内視鏡は2014年、CTCは2012年から健康保険の適用となった。

「ただし、CTCの場合は、便潜血検査などで大腸がんが疑われる患者、カプセル内視鏡は手術などで腸の癒着があり大腸内視鏡が困難、または困難が予想される患者が対象となります。誰もが保険適用で、気軽に受けられる検査ではありません。どちらかというと、人間ドックや自由診療向けの検査ですが、受検しやすさから注目されています」

大腸カプセル内視鏡の大きさは長さ約32mm、直径約12mm。前後に内視鏡カメラを搭載し、360度近くの視野角で腸内を撮像する。フラッシュの役割をする白色LED、バッテリー、データ送信機などを内蔵。移動速度に合わせて、撮像枚数を調整しながら消化管内を進む。画像提供/コヴィディエンジャパン株式会社

 気になる検査料金はクリニックによって異なるが、自由診療でCTCは2万~3万円程度、カプセル内視鏡は10万~15万円程度(編集部調べ)。特にカプセル内視鏡は、カプセルが使い捨てのため、カメラを買っているのと同じで高額になる。下剤を飲むなどの、検査の前処置は?

「どちらも、大腸の中をきれいにしておく必要があるため、前処置の下剤はやはり必要。ただ、CTCの場合は、大腸内視鏡と比べて下剤の量が少ないのが特徴です」

 CTCは大腸を膨らませるため、肛門から炭酸ガスを注入。そのとき、膨満感はあるが、検査後、ガスは腸管から吸収される。この検査中の膨満感は、病院を出るころには消えているという。結局、炭酸ガスを注入するためお尻を出すのは大腸内視鏡と変わらないが……。

「お尻の大部分は検査着で隠れていますし、医師や検査技師は、毎日検査を行っているので、お尻を出すのを恥ずかしいと思う必要はまったくありません。しっかりと大腸がんの検査を行うことがなによりも重要。一瞬の恥ずかしさのために命を失うようなことはしないでください」

 男女共に死亡数の多い大腸がんだが検査率は低く、便潜血検査の受診率はわずか2割(統計によってばらつきあり)。さらに、便潜血検査が陽性の人でも、内視鏡検査を行うのは約6割しかいない。

「“費用が安い検査=精度が低い”とみなしがちですが、便潜血検査の精度はそれなりに高いんです。時々、陽性になっても『痔だから大丈夫』『生理の血がついただけ』といった自己判断で精密検査を避けてしまう人がいますが、危険ですのでやめましょう」

「自分ががんだとは思いたくない」という気持ちが、検査を遠ざけているのかもしれない。さらに、大腸内視鏡検査には大きなメリットがある。

「病変があればすぐに採取して生検に回し、がんかどうかの診断ができます。CTCやカプセル内視鏡の場合は、それができない。再度、大腸内視鏡を行う必要が出てきます」

おすすめは「予約が取りにくい病院」

 便潜血検査が陽性になり、大腸内視鏡検査を受けるときの病院選びのポイントは?

「まずは口コミを確認して、評判の良い消化器内科のクリニックを探してみてください。ひとつの目安として予約が取りにくいところは、期待が持てると思います」

 また、医師が「消化器内視鏡専門医」かどうかもチェック。専門医は、訓練を行い多くの経験を積んで資格を取得しているため、腕は確かだ。専門医は日本消化器内視鏡学会のHPから検索ができる。

「クリニックには、HPで医師のプロフィール部分に資格を掲載しているところが多いですよ」

大腸内視鏡検査 ※画像はイメージです

 40歳以降であれば、ポリープが見つかる人も多いので、自費健診で受けた場合も、翌年以降は保険適用で検査を受けられる可能性も高い。

「大腸がんは初期に治療を行えば、生活の質を下げるリスク、命に関わるリスクが少なくなります。40歳以上なら、一度は大腸内視鏡検査を受けることが、最善の方法です。親族に大腸がんの方がいる場合は特に意識してほしいですね。抵抗がある人は人間ドックでCTCやカプセル内視鏡を試してみるのも手です」

 今後、大腸がんを含め、がん検査はどういった進化をしていくのだろうか。

「リキッドバイオプシー(液体生検)といわれる、血液、唾液、尿などの解析から、がんの有無や種類を診断する研究が行われています。今はまだ、『がんの疑いがある』のがわかるレベルなので、今後の展開が楽しみな分野です」

近藤しんたろうクリニック院長の近藤慎太郎先生
教えてくれたのは……近藤慎太郎先生●近藤しんたろうクリニック院長、内科医、医学博士。消化器の専門医として、数多くのがん患者を診療。年間2000件以上の内視鏡検査・治療を手がける。テレビ、ラジオ、雑誌など多数出演。

取材・文/ますみかん