『こどもファスト・トラック』を実施した『国立科学博物館』

 4月から政府は妊娠中の女性や子ども連れの人が公共施設などで優先的に入場できる『こどもファスト・トラック』制度の本格導入を開始。ゴールデンウイーク期間中、東京の『国立科学博物館』、『日本科学未来館』、福岡の『海の中道海浜公園』などで実施された。

 この取り組みは政府が掲げる異次元の少子化対策の一環として始まった。SNSでは「小さい子は待てないので助かります」と歓迎する声が上がる一方で、「待てない子になっちゃうのでは? 並ぶ経験も必要」という意見もあり、早くも賛否両論、分かれている。

 NPO法人児童虐待防止全国ネットワークの理事で、子育てアドバイザーの高祖常子さんは、今回の制度についてこう語る。

4月にこども家庭庁ができて、子どもにとって何が最もいいのかを考える“こどもどまんなか”という言葉も生まれました。『こどもファスト・トラック』が導入されたからといって、少子化に歯止めがかかるかと言えばそれは違いますが、子育てについて、みんなが知ったり考えたりするいい機会にはなると思います

“こどもどまんなか”社会のための課題

 総務省が4月に発表した15歳未満の子どもの数は1435万人で、前年に比べ30万人減り42年連続で減少中。少子化対策は待ったなしの状況の中、導入された『こどもファスト・トラック』だが、いまの日本は国が主導しないと子育てもしづらい、“人に優しくない”世の中なのか。

「統計を取り始めて以来、昨年の出生数が初めて80万人を割り込みました。子どもが減った分、普段から接する機会の少ない人が増え、子育ての大変さを理解されないケースが多くなっている感じがします。例えば、電車などで急に子どもがぐずるのは仕方ないと思うのですが、わかってもらえず嫌な顔をされたり、“うるさい”と言われたり。そういったお話を聞く機会が、以前よりも増えたと思いますね」(高祖さん、以下同)

 地域の人同士のコミュニケーションが希薄になってきていることも、子育てがしづらくなった一因ではないかと高祖さん。

“公園で遊んでいたら騒がしいと言われた”とか、そういったお話もよく聞きます。普段から街中や近所で接していたら、お互いの事情もわかるし、なかなかそうはならないと思うんです

 では、政府が目指す“こどもどまんなか”社会のためにはどんな課題があるのか。

子育て家庭だけではなく、障害者や高齢者など、いろんな場面で何かサポートできることはないかと考えることが大切だと思います。誰もが生きやすい世の中がいいじゃないですか。

『こどもファスト・トラック』をきっかけに、地域の中でも“子どもファースト”といいますか、子育て家庭を温かく見守っていこうという考えが広まってくれるといい。少しずつ意識を変えることが大事だと思います

 現在、『こどもファスト・トラック』は公共施設のみの実施だが、今後は子育て家庭の負担を多くの人に理解してもらい、プロスポーツイベントや銀行など幅広い場所での導入も検討予定。子どもに優しい社会が早く訪れることを期待したい。