20歳くらいにフィルと付き合っていたころのシンシア。横須賀にあったバーガーショップ『アンディーズバーガー』で働いていた

 在日三世として東京に生まれ、人気シンガー、クリスタル・ケイ(37)を女手ひとつで育てたシンシア(60)。海軍のフィルと出会い、念願の子どもを授かった。しかしトニーへの思いは断ち切れず、2人の間で揺れ動く。

「トニーに『お腹がどんどん大きくなってきている。こんな身体であなたのところへ行ったら、周りの人に何と言われるかわからない。面目が立たない』と伝えました。

 トニーは『周りの目なんて関係ない。そんなことは気にしなくていい』と言ってくれたけど、やはり私は行けなかった。2人で電話口で号泣しました。

 それで終わりにしたつもりだった。でもどうしても彼の声が聞きたくて、数か月後、一度電話をかけています。電話に出たのは女性の声でした。どうして私はあのとき決断できなかったのでしょう。娘のクリスタルと今でもよく、

もしアメリカに行っていたらどうなっていただろうね?』と話します。

 でも結局帰ってきたような気がします。それでもやっぱり行けばよかった。キキは正しかった。やってする後悔としない後悔だったら、やって後悔したほうがいい。いまだにトニーのことは私の中で整理ができずにいます

 フィルが遠征先から数か月ぶりに日本へ帰国する。シンシアのお腹もすっかり大きくなっていた。横浜中村橋のアパートで2人の暮らしが再開するが─。

元カレを振り切って8か月のお腹を抱え結婚

「帰国早々、トニーのことがフィルにバレた。トニーに書いた手紙の下書きをテレビ台の引き出しに入れていて、それをフィルが見つけてしまった。『あなたのことを心から愛している』としたためたラブレターです。これは何だと、フィルに泣かれました。

 トニーのことを告白しました。昔付き合っていた男性で、あなたが留守の間に連絡を取っていた、けれど踏ん切りをつけて終わりにしたと。

『それでも納得がいかなければ、あなたの思うとおりにしてください』とフィルに言うと、フィルは許してくれた。けれどそれは彼の中で大きなしこりになったと思います」

 大きなお腹を抱え、フィルと結婚式を挙げた。シンシアが「お姉さん」と慕う、黒人男性と結婚した女性が介添人に。

「結婚式を挙げたのは横須賀のお寺で、お姉さんもやはりそこで式を挙げたそうです。私は妊娠8か月になっていました。大きなお腹を無地のワンピースで隠し、彼はスーツ姿でキメています。座布団を6枚敷いて、私の親族席には2人の妹たちが座り、フィルの親族席にはお姉さんたちが代わりに座ってくれました。

 パーティーはライブバー『マジック』の系列店『よいどれ伯爵』が会場で、私はここではウエディングドレスとしてサリーを着ています。いろいろありはしたけれど、そのときは、『この人と一緒になるんだ』という喜びでいっぱいでした。友人も大勢駆けつけてくれて、パーティーは盛り上がり、私たちは幸せな新婚カップルそのものだったと思います。

 両親にも挙式を知らせはしたが、結局返事はないままだった。式を終えてしばらくたったころ、突然2人そろってアパートにやってきた。

「どんな暮らしをしているか、様子を見に来たようです。母が、『こんなマッチ箱みたいな家に住んで! これでアメリカでもどこでも行っちゃいなさい』と言い、紙袋を叩きつけて帰っていきました。袋の中には現金が50万円入っていました」(次回に続く)

<取材・文/小野寺悦子>