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 健康保険証を廃止し、マイナンバーカードに一本化する法案が4月27日に衆院本会議で可決。参院でも可決され、成立すれば、保険証は'24年秋に廃止となる見通しだ。しかし、そんなマイナンバーカード界隈が騒がしい。

 印鑑登録や住民票の取得などで自分とは“別人”の情報が登録されているという不具合が多発。住民票などは被害として直接、命にはかかわらないだろう。しかし、命を脅かすような事態が発覚した。被害に遭った女性が本誌に独占告発する。

「他人とひも付けされた」原因

 関西在住の30代のAさんは、4月中旬にかかりつけの皮膚科へ。保険証を忘れたため、マイナンバーカードを保険証代わりに使った。

「端末に通すと、別の方の名前が表示されたのです」(Aさん)

 別の人の名前をBさんとする。Aさんとは姓は異なり、名が同じ人であった。Aさんに対して病院や薬剤師からは何度も本人確認がなされた。Bさんも複数の薬が処方されていたため、薬剤師からは「薬は飲み合わせが悪いと命に危険が及ぶ」と特に念を押された。

「医療情報の間違いは命にかかわります。薬剤師さんは私の身を案じて何度も確認してくださいました」(Aさん)

 対応を問い合わせるも、マイナンバーカード総合サイト・総務省・デジタル庁・厚労省とたらい回し。結果、マイナンバーと健康保険の情報を一元管理している『国民健康保険中央会』(以下、国保中央会)とやりとりすることに。

 “誤登録”によって他人とのひも付けが起こったと国保中央会は認めた。また、AさんのマイナンバーにはAさんの情報とBさんの情報が共にひも付いているという。“マイナンバーは2人の情報が1人にひも付けられる”という杜撰な側面を持つシステムなのだ。

 ちなみにAさんが加入しているのは国民健康保険、Bさんは社会保険。にもかかわらず重複。エラーにならなかった。

 国保中央会によると誤登録を行ったのは『中央建設国民健康保険組合』(以下、組合)だった。Aさんからの電話を応対した組合の担当者は謝罪の弁を述べた。原因については以下の返答。

●登録時、AさんとBさんは同姓同名で生年月日と性別の“3情報”が同じだったため誤ってひも付いてしまった(Bさんは何らかの理由で姓が変わっていた)。
●毎年4月1日に情報を更新。今年、Bさんの情報が誤ってAさんに更新された。
●4月1日時点でBさんはAさんと同姓同名ではなかったが「検知ができなかった」。
●4月14日から登録時に必要となる情報が3情報から5情報(住所と名前の漢字・仮名の追加)となった。
●5情報のうち、“どれか3つ一致すれば”という形に。
●エラーチェックは2か月に1回行っているが「今回は間に合わなかった」。

 マイナンバーについて、実際の業務を行うのは、組合のような下部組織。国が考えたシステムを使わざるを得ない。

「組合に対しては当初、被害者だと思っていました」(Aさん)

 今回の事件の被害者であるAさん自身、同情するような気持ちがあった。しかし......。
謝罪の後、組合の態度は一変する。Aさんは現状の説明では疑問が多く残り、追加で問い合わせた。以下はその際のやりとり。前回の担当者は不在で、担当の“上長”なる人物が応対した。名前を求めるが、頑なに名乗らない。やりとりは音声データとして残されており、それを聞くと……。

組合上長の発言に唖然

「なんでうちに関係のない方に名乗らなきゃいけないんですか?」(組合上長、以下同)

 第三者として客観的に判断すれば、Aさんの語気も少々強かったかもしれない。ただ、事が事であり、Aさんは紛れもなく“被害者”。しかし、ミスを犯した組合の上長が発する言葉は突き放すようなものばかり。

「(組合に)籍がない人に、散々何度もお電話いただいていて、こちらの業務邪魔されてるんですけど、それはそれでいかがですかね?」

 “籍がない”。Aさんはこの組合に登録していたBさんの情報が誤ってひも付けられてしまったのだ。この組合に籍などあるわけがない。

「その間、われわれ仕事止まるんですよねぇ」
「こちらに一切責任はありませんので」

 上長は同じ言葉を繰り返す。

 そして「説明も足りて……(ない)」というAさんの言葉を遮るように……。

「聞けよ!!」

 と声を荒らげて言い放った。

「うちは! 国から提供されたシステムを使って作業してるだけですので、うちの責任ではないです」

 驚くべき言葉を続ける。

「システムの不具合も重々承知してますし、それを使って作業しろというのは国でありますので、それで被害を被ったとおっしゃるのであれば国に言ってください」

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 Bさんに対して説明は組合がするのかと聞くと。

「そうですね。われわれになりますけど、それはあなたに関係ない話ですよね?」
「(他人の情報を)見てしまったのは国のせいで、われわれの責任ではありませんので」

 話に食い違いが出ないよう録音している旨を伝えた。

「そういうことまでされてしまうと、うちのほうも弁護士さんと相談させていただこうかと思っているんですけど」
「そんな(録音という)失礼なことをしない組合ですので。あなたと違いますので

 謝罪と「責任はない」は矛盾する。当初の謝罪の意味とは……。Aさんは現在も組合などとやりとりを続けている。

「Bさんに私の情報も見られているかどうかもわかりません。組合がBさんにどのような謝罪をするのか、報告を受ける権利は私にはあると思います。また、国民への報告、そして誤りの原因を精査し、改善案が講じられてしかるべきだと思います」(Aさん、以下同)

 5月に入ると、Aさんを業務妨害呼ばわりした組合は一転、国保中央会を通し、経緯などについて「Aさんにご説明したい」旨を伝えてきた。

「日本は終わってるな」

「恫喝するような組合と1対1では話せないと伝えました。国保中央会の担当者さん含めての3者での話し合いを提案したのですが、それはなぜか拒否されました。この段階になっても、上長の名前は濁されています。明らかにするならば、その人からの電話は受けますと話しました」

 しかし、国保中央会の担当者は、あくまで恫喝上長とは話させたくない様子だという。本誌は誤登録した組合に、事実確認や謝罪の意思などを問い合わせた。

「担当者は会議で不在」とのことで、先方より折り返しとなったが、連絡がないためこちらから再度問い合わせた。今度は「取り込んでいる」。その後、FAXで質問となったが、それに対しても回答はなかった。

「心身共に疲れ切っています。窓口もなく、対応に振り回され、組合からは怒鳴られ疲弊していた私は、初めて“日本は終わってるな”と思いました。国が推進した制度により被っている被害に対して、なぜ私が手足口を使って動かなければいけないのか」

Aさんがマイナンバーカードを提示した端末。別人の名前が表示された

 Aさんが今回の件で疲弊していると、国保中央会の担当者に伝えると、それを逆手に取るように、「Aさんのご負担を考えると、(上長からAさんに連絡はナシ)これ以上の進展は難しく、今後はこちらからの回答も難しい」とした。

「恫喝するような人と話すことは精神的に負担ですが、逃げるような対応はさらに心労となります。ヒューマンエラーは仕方ないですし、組合の人が悪いなどと思っていません。恫喝してきた上長が悪いと思っていますが、謝罪がなされるのか現状わかりません。ただ、あくまで上長は私の前に出したくないような状況となっています」

 本来、マイナンバーは、国民に番号を振り分け、管理をしやすく、また明確にするものであるはずだ。さまざまな事象における理由・責任・義務・金額などをわかりやすく、そして一元管理するためのものであろう。マイナンバー(カード)に対しては、さまざまな意見はあるが、本来的には便利であるはず。しかし、見通しの甘いシステム管理、扱う人間の杜撰さ、そして愚かさによって便利とは真逆のものに……。その迷惑を被るのは他ならぬ国民だ。

 今回、さまざまな機関がAさんに対し「稀なこと」と口をそろえた。しかし、厚労省の調査で、保険証の誤登録は7300件に上ることが12日に明らかになっている。