青木政憲容疑者

 5月25日、緑豊かな長野県中野市に、激震が走った。

「66歳の女性を刺殺した男が、目撃者の110番通報によって駆けつけた警察官2人を猟銃で殺害。その後、男の自宅に自身の母親などを人質にとって立てこもりました。事件が急転したのは、最初の通報から約12時間後となる26日の午前4時過ぎ。自宅から男が出てきて投降したのです」(全国紙社会部記者)

事件が起きた5月25日。容疑者が立てこもっている自宅の様子。手前は報道陣

 長野県警に殺人容疑で逮捕されたのは、市内で農業を営む青木政憲容疑者(31)。

計4人もの尊い命を奪う凶行

「人質となっていた母親や親族の女性は、自宅から逃げ出して無事保護されました。しかし、刺殺された女性と銃撃された警察官2人の計3人は、亡くなっています。現場付近では、70歳の女性が倒れているのも発見され、その後死亡が確認されました。これについても、警察は青木容疑者が関与しているとみて、捜査をしています」(同・社会部記者)

 計4人もの尊い命を奪う凶行に及んだ青木容疑者。その父親である正道さんは、中野市議会議員であり、同市議会の議長を務めていた。正道さんの知人が話す。

「正道さんは、勤めていた会社を辞め、'14年に市会議員として初当選したんです。実家で代々続く果樹園と兼業で、議員活動をしていました。話も面白く、気さくな人。人望もありましたから、昨年には市議会の議長に就任しました」

 一方で、地元名士の長男であった青木容疑者は……。

「地元の小・中学校を卒業後、このあたりでは優秀な県立高校に進学しました。勉強はできたんです」(同・知人)

 小・中学校の同級生は、青木容疑者の印象をこう話す。

「いつも1人で友達はいなかったような印象です。同じクラスでしたけど、一緒に遊んだこともありません。部活は野球部に入っていたから、仲間はいたと思うけど……」

孤独な学生生活「友達はいなかった」

 高校の同級生もこう話す。

「物静かで、自分の世界観を持っている独特な人でした。あまり友達はいなかったと思います。とにかく誰かと話しているというイメージがまったくないので」

 聞こえてくるのは孤独な学生生活ばかり。高校卒業後は、東京の大学へと進学するも、ここから青木容疑者の人生に、暗い影が差す。

「どうも、政憲は都会の生活になじめなかったようで、あるときお母さんが“大学をやめるならやめる、残るなら残る。ちゃんとお父さんと話し合いなさいと政憲に伝えたんです”と話していました。いろいろ話し合ったのでしょうが、結局は大学をやめてしまった。それで、政憲は家業の果樹園を手伝うようになったんです。果樹園には『マサノリ園』と政憲の名前をつけて、後を継がせた。ただ、帰ってきてから様子がおかしいんです。会ってもあいさつをしないし、ボーッとして。何かの病気なのかと思っていました」(前出・知人、以下同)

 両親も、長男の変化をさぞ心配したのだろう。息子を熱心にサポートしていた。

「正道さんは、政憲のため昨年市内にジェラート店をオープンさせたんです。繁盛していましたけど、お店のことはお母さんが中心になって切り盛りしていました。政憲が経営していることになっていますが、様子も変だしとても彼にはできなかったのでしょう。帰ってきた当初は地域の消防団や祭りの保存会にも参加していましたが、何年か前から姿を見なくなりました。地域にもなじめていなかった」

容疑者の父親である、長野県市議会の青木正道議長(57)。(写真はツイッターより)

 大学中退後は父のすすめで自衛隊に入隊するも長続きせず、ひきこもり生活のかたわらクレー射撃場に通っていたという報道も。両親の思いとは裏腹に、孤独を深めながら、猟銃を手に何を思ったか。

 そして悲劇は起こる。

「事件当日の午後4時20分ごろだったと思います。畑で作業をしていると知人が来て“人が刺された”と叫ぶので、急いで向かうと、女性が倒れていたんです。知人によると、政憲は、女性の背中をナイフで2回、倒れたところを正面から1回刺したのだと……」

 そう話すのは、事件現場で青木容疑者を目撃した男性だ。

「現場を目撃した知人は“なんでそんな酷(ひど)いことをするんだ”と政憲に聞くと、彼は“殺したいから”と話して、自宅へと入っていったそうです。その後、私が女性に心臓マッサージをしていたらパトカーがサイレンを鳴らして近づいてきました。すると、自宅から出てきた政憲が猟銃を手に、私の後ろを通過して、パトカーへと近づいていったんです」(同・目撃者男性、以下同)

ニヤニヤと笑みを浮かべて…異様な表情

 男性は、そのときの青木容疑者の顔が忘れられない。

「ニヤニヤと笑みを浮かべて、異様な表情をしていたんです。私の後ろを通過して、パトカーへと向かっていった。そして、車の横から銃を向けて脅すのを楽しむかのように笑っていたんです。そこで私は逃げたのですが、後方から銃声が2回聞こえてきました。後で戻ると、パトカーの中の警察官はグッタリしていて、顔に複数の銃弾を受けた痕がありました」

 そして、こう話を続けた。

「政憲は、目の前で犯行を目撃した知人や心臓マッサージをする私を襲わなかった。気づかなかったはずはありません。顔見知りの私たちでなく、あえて知らない人ばかりを襲っていたのでしょうか……」

 どうしてなのか。犯罪心理学者の出口保行氏は、

「容疑者は両親を苦しめるため、犯行に及んだのではないでしょうか。知らない人ばかりを襲った一方、人質にとった母親を逃がしている。通り魔のような無差別な犯行は、社会に大きな衝撃を与える。両親に重い十字架を背負わせ、苦しめることが目的だったのでは。家族の誰にも手を出していないことから、そこに意味があったのだと推測します」

 真相解明が待たれる。

 

野球部に所属していた容疑者の中学生時代の写真。どことなくうつろな目だ(同級生提供)

 

青木政憲容疑者

 

事件が起きた5月25日。容疑者が立てこもっている自宅の様子。手前は報道陣