(画像:マクドナルド公式サイトより引用)

 日本マクドナルドは5月31日から「たまごダブル」、「焙煎ごま えびフィレオ」、「ジューシーチキン ブラックペッパー」を期間限定で復活販売している。今回販売される3種の“平成バーガー”はいずれも1998年、2006年、2009年に発売されたもので、「平成」の時代に人気を博したメニューだ。

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 この“平成バーガー”のCMには、池田エライザが出演。平成時代をオマージュした内容となっているが、ネット上では賛否両論を呼んでいる。

 平成のトレンドを6変化で表現したCMには、浜崎あゆみの『Boys & Girls』の音楽を起用。池田エライザは、1997年の結婚会見で黒のトップスに『バーバリー』のミニスカートを着用していた安室奈美恵のファションや、2000年代初めに携帯電話『ツーカー』のCMに出演していた浜崎あゆみの衣装、1990年代後半に人気だった篠原ともえのシノラーファッションといった、平成の懐かしいコーディネートを身にまとう。

安室奈美恵風の池田エライザ(画像:マクドナルド公式サイトより引用)

 さらには平成の流行語「チョベリグ」も登場するなど、マックのCMには平成のトレンドがちりばめられているのだ。

PUFFY風CMでも波紋を呼んだ

 マクドナルドは、今年2月に発売されたアジアンフェア“アジアのジューシー”のCMでも賛否両論を呼んだ。西野七瀬と飯豊まりえが1990年代のヒット曲、PUFFYの『アジアの純真』を、替え歌にし『アジアのジューシー』として披露した。

アジアのジューシー(画像:マクドナルド公式ツイッターより引用)

 “アジアのジューシー”はあくまでも PUFFYへの「オマージュ」としてのCMだったが、「懐かしくて、かわいい」といった声が上がる一方で、「本家へのリスペクト不足」の声も上がった。今回の新CMも前回と同じように波紋を呼んでいる。

 平成時代のカルチャーを専門とする筆者も、今回の“平成バーガー”の新CMを見たときに、違和感を覚えた。

 池田エライザのキュートさでカバーできているものの、平成のそれぞれの年でのはやりを1つにごちゃっと混ぜ、むりやり詰め込んだような印象を受けたのだ。

 例えば、キャッチフレーズにもある『超ベリーグッド』を省略した“チョベリグ”という言葉は1996年にはやったが、2000年代初めに携帯電話『ツーカー』のCMに出演していた浜崎あゆみのときにはすでに死語になっている。

 また、前回の“アジアのジューシー”のPUFFYへのオマージュが雑な印象ならば、今回は「過剰な平成推し」にも感じる。

 とはいえ、これはあくまでも1990年代に青春時代を過ごした筆者の意見だ。今回の“平成バーガー”CMについて、マクドナルドは「平成ならではの“時代感”をデフォルメしたユニークな演出のストーリーで、池田さんが披露する“チョベリグ”な笑顔にご注目ください」と言っている。前回の“アジアのジューシー”も「オマージュ」と言っているため、たしかにコンセプトからは外れていない。

 また忠実な「再現性」だけが、評価されたり、人々の心を揺さぶるともかぎらない。

 たとえば1990年代後半には、1960年代のカルチャーが若者の間で人気を集めた。109で人気があったアパレルブランド『EGOIST』も、1960年代リバイバルのアイテムを販売したが、今思えば1960年代をコンセプトとした商品も、忠実な再現ではなく、かなりデフォルメされた部分があっただろう。それでも若者の心をつかみ、これらの商品がヒットしたのは事実だ。

 “平成バーガー”のCMも「架空の平成」と揶揄されてしまう部分もあるが、平成と令和は、昭和に比べると遠い過去の話でもなく、筆者と同様に世代によっては、多少の表現の誤差ですら敏感になってしまうのではないだろうか。

復活メニューは盛り上がる要素も

「平成」をテーマにした広告を、全世代の心に響かせるのには、いまだ手探りのところがあるかもしれない。

 ただ復活メニューや「懐かしさ」をキーワードとした商品というのは確かに盛り上がる。ここ最近では、同じくマクドナルドの商品で、2022年の「FIFAワールドカップ」とともに販売された “時をかけるバーガー”が盛り上がったのも記憶に新しい。

時をかけるバーガー(写真:マクドナルド公式サイトより引用)

 歴代の開催地をイメージし、2002年の日韓大会にちなんだ「こく旨かるびマック」、2014年ブラジルの「ワイルドビーフバーガー オニオンリング&チーズ」、2022年カタールの「ケバブ風チキンバーガー」を販売した。

 今回のような復活バーガーではないが、俳優の岡田准一が20年の時をさかのぼった、ドラマ仕立てのCMは、その時代ごとの懐かしさで話題になった。

 また、期間限定で発売される「ベーコンポテトパイ」も、復活販売されるたびに話題になっている。筆者も1990年代から「ベーコンポテトパイ」のファンであり、期間限定で発売されるたびに購入しているが、久しぶりに「ベーコンポテトパイ」を食べたときには、オニオンとポテトが織りなす味に、当時の懐かしさが込み上げた。

 それと同時に、人の味覚は曖昧ではなく、意外と鮮明に記憶に残っていることに驚いたのをよく覚えている。

 復活メニューが人気なのは、「味覚」で存分に懐かしさを感じ、それよって久々に味わう「感動」が得られるのも人気のポイントだろう。

 今回の「平成バーガー」では、「たまごダブル」、「焙煎ごま えびフィレオ」、「ジューシーチキンブラックペッパー」にスポットライトが当てられたが、まだまだ平成のマクドナルドには復活を期待したい商品が数多く残っている。

 1999年に発売された「マック牛なべパン」や2001年の「サーモンマック・ムニエル風」、1991年の初のライスメニュー「マックチャオ」など、復活希望のメニューを挙げたらキリがないが、青春時代によく食べたメニューが期間限定でも復活するというのは、やはり嬉しい。

 復活メニューの「懐かしさ」は、マクドナルドに限ったことではない。今回のマクドナルドの話題性やヒットを皮切りに、ほかのチェーン店での復活メニューにも期待が高まる。

平成のオマージュに慣れるのは時間がかかる

 マクドナルドの「平成」をモチーフにしたCMに話を戻すと、ここまで話題になるのは、視点を変えて考えてみると、マーケティング自体には成功したかもしれない。

 実際に波紋を呼んだPUFFYのCM「アジアのジューシー」は、CMこそ賛否両論だったが、「油淋鶏チキン」を筆頭としたメニュー自体には「美味しかった」「また食べたい」などポジティブなコメントが多く寄せられていた。

「昭和レトロ」の言葉を受けいれたときのように、平成と令和の時間の距離がひらけば、“平成バーガー”に感じたCMの違和感は薄れるかもしれない。令和に入り、すでに5年のときが経ったが、私たちが平成の「デフォルメ」と「オマージュ」に慣れるのはまだ時間がかかるようだ。


Tajimax(たじまっくす)ライター・コレクター
東京都出身。2018年からSNSを中心に90年代〜00年代の平成ガールズカルチャーを紹介している。『オリコンニュース』『現代ビジネス』『ビジネスジャーナル』などで平成ガールズカルチャー関連のインタビュー取材ほか、「アーバンライフメトロ」などのウェブサイト、「クイック・ジャパン」に寄稿。90年代〜00年代の平成ガールズカルチャーのコレクターでもあり、古雑誌をメインに膨大なアイテムを所有している。