閉店してしまった唐揚げ専門店(画像は一部加工)

《から揚げ店“閉店増加”か 鶏肉仕入れ値高騰も値上げ出来ず…テイクアウト減少も原因か》(日テレNEWS)

《唐揚げブームの終焉 ワタミの失敗を専門家は「興味深い。専門店はタピオカと同じ運命を辿る」》(デイリー新潮)

《閉店続々!「から揚げ専門店」ブーム終焉が始まった》(Asagei Biz)

《過熱した「からあげブーム」に陰り、その理由とは》(dメニューマネー)

全国の唐揚げ専門店、実際は“微増”

 コロナ禍前後から街に急増した『唐揚げ専門店』。都内など都市部を中心に一時期は開店ラッシュとなっていたが、冒頭のように“閉店増加”、“ブーム終焉”という報道も目立つように。SNSでは、このようなニュースを引用する形で“うちの近所の店も潰れた”という声も多々見られる。

 唐揚げ専門店は本当に減っているのか、そしてブームはタピオカや高級食パンのように終わってしまったのか……。

結論から言いますと、全国の唐揚げ専門店は昨年'22年3月時点と、今年'23年3月時点を比較すると“微増”であり、減ってはいません

 そう話すのは、一般投票でおいしい唐揚げ店を決める『からあげグランプリ』を毎年開催している日本唐揚協会の八木宏一郎専務理事。

日本唐揚協会の八木宏一郎専務理事

 昨年までの10年は、毎年右肩上がりに増加してきた唐揚げ専門店。前年比で1000店舗増という年もあった。唐揚協会によると、コロナ禍('20年〜'23年)では約2000店舗増加。直近では'22年の店舗数は4,379店、対して'23年は4,388店と9店舗増。確かに微増となっている。

唐揚げの本質は、“固さ・臭み”をクリアにすること

 大幅に店舗数が増加していた唐揚げ専門店だが、なぜ今年は微増に終わったのか。'22年までのここ数年、ブーム的な開店ラッシュから見ると、閉店増加と見えることも仕方ないのかもしれない。

微増となった理由は、日本全国を地方別に分けると見えてきます。分類して比較すると、関東だけで減少しています。そのほかの北海道・東北、中部、近畿、中国・四国、九州・沖縄……すべてのエリアで増えているなか、関東だけが減っていて、その分のインパクトが大きかった」(八木専務理事、以下同)

 関東エリアをさらに分けると、東京では昨年比で86店舗減となっている。

「東京での減少についてはメディアでも言われているように、過当競争になっていること。お客様の目が厳しくなっているので、下手な唐揚げを出すとやはり人気が続かないということが大前提であります」

唐揚げ

 客が見限るいちばん理由であろう味については、唐揚げの歴史が絡んでいるという。

「戦後、アメリカの主導のもと、養鶏政策で“鶏卵を食べろ”ということで、全国で養鶏場が増えました。鶏卵のために鶏を育てて、採卵期間を終えた廃鶏をどうやって美味しく食べるかということで調理方法が発展した。唐揚げの歴史としてそれがあって、“鶏肉との戦い”がありました。当時の唐揚げというのは肉が固く、そして臭みもあった。ご当地唐揚げというものがありますが、それを解消するために日本各地で調理方法が発展した唐揚げであり、特にご当地唐揚げのエリアになります」

 唐揚げの本質は、“固さ・臭み”をちゃんとクリアできているか、がポイントだという。

それができていないお店が潰れています。たとえば閉店が相次いでいるといわれる某大手チェーンによる唐揚げ専門店は、揚げた唐揚げの外側にスパイスやソースで味を付ける。揚げる前の肉をタレに漬け込みもしますが、浅漬けです。外国産の鶏肉を使っていますが、外国産はやはり時間が経つと臭みが出てくる。解消するために漬け込み用のタレを工夫する必要があるのですが、浅漬けなので肉に臭みが残ります。それをごまかすために揚げた後にタレやスパイスをかける。

 これまで唐揚げを名物として出してきたお店で、潰れたところは本質をまず見誤っている。固さ・臭みを解消してないところが残念ながら潰れる。それが大きいですね。そこをちゃんとしているチェーンさんは続いているわけです。正直言うと、潰れている店のほとんどはそこだけというか……

ラーメン店と比較すれば過当競争でもない

 都内でいえば、現在至るところにあるように見える唐揚げ専門店だが、唐揚協会の調査によれば'09年時点では10店ほどとごく少数だった。それが牛肉や豚肉、魚と比較して安価な鶏肉という食材、店は小スペースでできるので開店コストも安く抑えられ、ランニングコストも安いということで、ここ数年で爆増。しかし、その“成長期”はいささか終わりつつあるように見える。そんな唐揚げ専門店の“未来”をどう考えるか──。

「やはり減少が見られるのは東京・神奈川・埼玉、いわゆる都市圏。そこでは減っていますが、全国的にはまだ伸びているという事実があります。なので、唐揚げ専門店がまだあまりない地域なら可能性はあります。店舗数の伸びは鈍化していますが、今後ブームが続くとしたらまだ出店されていなエリアは可能性がまだ十分残っています」

 店舗数が爆増し、それゆえに減少も起こった都内だが、人口あたりの店舗数は全国的に見ると多くはない。たとえば“唐揚げの聖地”として知られる中津市のある大分県は、人口10万人あたり18店舗あるという計算になる。九州最大の都市部である福岡県は10万人あたり10店舗。対して東京都は3店舗となる。

店舗数が伸びる余地はまだあると考えています。味がよろしくない唐揚げ店が潰れていくというだけで。店舗数で考えたとき、ラーメン店と比較すれば過当競争でもないのです。専門店という業態自体は、これからもエリア出店さえ間違わなければ全国的に伸びていくと考えています。また、コンビニのチキンが好きな外国人旅行客はかなり多いので、そこを取り込める可能性も秘めています

 唐揚げはその名のとおり、“唐”すなわち中国で生まれたといわれる。同じく中国で生まれ、日本に輸入されたラーメンは、イノベーション・ローカライズがなされ、日本の国民食となり、さらには海外に輸出されるほどに。唐揚げはブームを経て、そして今後の進化によって、ラーメンと並ぶような国民食・輸出されるような日本食になれるか──。

 
からあげグランプリの結果。部門が細かく分けられ、それぞれに“最高金賞”“金賞”を授与。金賞は相当な数が受賞していることがわかる(サイトより)

 

4月に開催された第12回からあげグランプリの結果。多くの店舗が受賞している

 

日本唐揚協会の八木専務理事