※写真はイメージです

 焼き肉店から生肉を使用したレバーやユッケが消えて12年。そのきっかけとなった『焼肉酒家えびす』を運営していた『フーズ・フォーラス』が、3月28日付で金沢地裁から破産手続きの開始決定を受けた。

「‘11年に起きたこの事件では、富山、石川、福井、神奈川の4県6店舗でユッケなどを食べた客181人が食中毒を発症し、5人が亡くなりました。その後の調査で売れ残りのユッケを翌日に提供するなど、衛生面での不備が発覚。当時の社長は生食用の肉の規制に関して“逆ギレ”する会見を開きましたが、被害者が亡くなると一転、土下座して謝罪するなど、注目を集めました」(全国紙記者)

 ‘16年、この社長と卸売業者の元役員の2人は業務上過失致死傷容疑で書類送検されたが、不起訴処分。‘19年に富山検察審査会は「不起訴不当」と議決したが、‘20年に富山地検は再び不起訴にした。

1億円超の支払い命令も…

 遺族は‘14年に『フーズ・フォーラス』と元社長などに対して損害賠償を求めて提訴し、‘18年に東京地裁は同社のみに対して約1億6900万円の支払いを命じた。

 同社は‘12年に特別清算を申請していたが、事件から12年がたって、最終的に破産という形で幕引きとなった。

 なぜこれほどまでに時間がかかり、破産という結果になったのか。レイ法律事務所の舟橋和宏弁護士に話を聞いた。

フーズ・フォーラスさんがやられていた特別清算も破産手続きも、どちらも最終的に会社をたたむということになります。破産手続きの場合は、会社の財産を現金化し、債権者に対して債権額に応じて平等に支払って清算するというやり方です。一方で特別清算も、原則として債権額に応じて平等に支払うことを建前としていますが、特別清算の場合は、債権者の同意があれば、弁済額を柔軟に決めることができます。フーズ・フォーラスさんの場合はご遺族や被害者の方への賠償を優先しようと、話し合いで柔軟に対応できる特別清算の手続きを取っていたのだと思います

遺族は「わかりました」としか言えない

 ところが、均等に分配する破産手続きに移行となった。

「破産手続に移行することの判断は最終的には裁判所が決定します。フーズ・フォーラスさんは、被害者を含む債権者への弁済原資のため、ユッケ用生肉を納入していた食肉卸会社の『大和屋商店』を相手に損害賠償を求める訴訟を起こしました。しかし、これ以上、新たにお金を作ることが見込めず、債権者とも特別清算の協定成立の見通しが立たなかったことから、裁判所がもはや特別清算では無理であろうと判断したと考えられます。また、ご遺族への方への賠償命令も出て、一連の裁判が終結しているということも、このタイミングでの移行になった一因だと考えられます」

焼肉酒家えびす(Twitterより)

 被害者の遺族への賠償はどうなるのか。

「ご遺族の方へ賠償の判決が出ているので、ご遺族も債権者になります。ただ、破産の手続きとなりますと、債権者が会社側に対して、持っている債権の金額によって要求できる額が決まってしまいます。このケースではおそらく、銀行が多額の債権を持っている可能性もありますし、当然お金が十分にあるわけでもないことから、ご遺族の方が満額を受け取るのは、難しいかと考えられます。今後は裁判所が選んだ破産管財人が各債権者への配当額等を報告する、債権者集会がおおよそ3か月から半年くらいの間に開かれるでしょう。

 もちろん、ご遺族の方も債権者なので、そこに呼ばれることになります。他の事案では怒号が飛ぶような債権者集会もありましたので、今回もそのようなことがあるかもしれません。ただ、会社のお金はこれ以上増えることはないでしょうから、破産手続は、粛々と現在あるお金を分けていく、ということになってしまいます。ご遺族の方も“わかりました”としか言えない状況も残念ながら出てくるかもしれません。満額をお支払いするだけの財力はないので、全員が納得できる終わり方は難しいかと思います

 生肉の提供をはじめ、食品の衛生観念に大きな影響を与えたこの事件。風化させることなく、二度と同じことが起こらないよう教訓としたい。

 

『焼肉酒家えびす』が提供していた「和牛ユッケ」(Twitterより)

 

『焼肉酒家えびす』のメニュー。事件後はユッケの販売が見合わされた(Twitterより)

 

『焼肉酒家えびす』のメニュー。事件後はユッケの販売が見合わされた(Twitterより)

 

『焼肉酒家えびす』の「和牛ユッケ」は、通常時は380円で提供されていた(Twitterより)

 

『焼肉酒家えびす』の「和牛ユッケ」はセール時には290円で提供されていた時期も(Twitterより)

 

『焼肉酒家えびす』の「和牛ユッケ」はセール時には290円で提供されていた時期も(Twitterより)

 

『焼肉酒家えびす』のメニュー。全体的に安めの価格設定だった(Twitterより)

 

『焼肉酒家えびす』のメニュー。全体的に安めの価格設定だった(Twitterより)

 

『焼肉酒家えびす』のメニュー。全体的に安めの価格設定だった(Twitterより)