夫婦ユーチューバー「サニージャーニー」のみずきさん

 チャンネル登録者数23万人超の人気夫婦ユーチューバー「サニージャーニー」の、こうへいさん&みずきさん。軽キャンピングカーで日本一周する姿を配信していたが、妻であるみずきさんは昨年10月、32歳の若さですい臓がん、ステージ4と診断された。今はみずきさんの出身地、北海道にて2人で闘病を続ける。

「延命治療をして半年の寿命」と言われていたが、約半年の抗がん剤を経て医師が驚くほどがんが縮小し、左鎖骨のリンパ節に転移していたがんは検査では見えなくなった。先日7月10日には6時間にも及ぶ手術の成功をこうへいさんが動画で報告。週刊女性では手術前に、根治を目指せるようになった2人の気持ちを伺った。

抗がん剤の副作用を乗り越え新婚旅行兼、夢をかなえる旅へ

「高校生のときに美術の資料集の中にフェルメールの絵を見て、ものすごく惹きこまれて。中でも好きなのが『牛乳を注ぐ女』。抗がん剤の副作用もフェルメールの画集を眺め、辛さを乗り越えてきました」(みずきさん)

 フェルメールは17世紀に活躍したオランダの画家。その時代では珍しい、光の表現が美しく写実的な画風は“光の魔術師”とも呼ばれており、日本人のファンも多い。代表作のひとつ『牛乳を注ぐ女』は女性の使用人が牛乳を注ぐ日常の場面を描いたもの。みずきさんはがんがわかったとき「やりたいことリスト」を作ったが、「海外編」のトップに挙げているのが、この絵を見ることだった。

「がん発覚直後にこの春、オランダで『牛乳を注ぐ女』も展示される、大規模なフェルメール展があると知ったんです。主治医の先生にもOKをもらい、抗がん剤のスケジュールを調整し、手術前にフランス経由でオランダに行くことになりました」(こうへいさん)

 しかし問題だったのが、チケットの手配。最近では海外でも大きな美術館の企画展は、前売りチケットがないと入館が難しいことが多い。しかも、過去最大級のフェルメール展だったこともあり、世界中から人が集まり、チケットが即売り切れていた。

パリ中心部のサントシャペル教会では一面のステンドグラスに「サニージャーニー」の2人とも大感動!

「治療の日程や抗がん剤の副作用もあったので、当初は本当に行けるかわからなくて。いざチケットをとろうとしたら人気で売り切れていて。ですが、ぼくたちの動画を見てくださっているオランダ在住の方が美術館に働きかけてくさださり、特別に観ることができるように。それも含め、今回はいろいろな方のご厚意やアドバイスで旅行が実現できました。本当にありがたかったです」(こうへいさん)

「やりたいことリスト」トップ、憧れのフェルメールの絵に会いに行く

 4月後半、2人は10日間の日程でみずきさん憧れのフランス、パリへと旅立った。

「実は最初の頃に比べて抗がん剤の副作用がひどくなってきて、手脚もずっとしびれているんです。抗がん剤を長く続けているがん患者にはよくあるそうなんですが。出発2日前はこうへい君が『やっぱり延期しようか』と言うほどでしたが、前日にはよくなって飛行機に乗りこみました。フランスに着いたら、こうへい君にびっくりされるほどさらに元気に (笑)」(みずきさん)

 22時間のフライト後だったので初日は疲れるだろうからと、のんびりして観光をしない予定だったが、みずきさんはすぐ外出したいと言い出したそう。

「みずきが事前に予定を立てていたんですが、知らぬ間に初日の旅行予定がいっぱい入っていて(笑)。その日は夜までご飯を食べに行ったりして、寝たのは11時ごろ。元気になったのはよかったですが、眠いは眠かったですよ」(こうへいさん)

 とはいえ、みずきさんが大きく体調を崩すことなく過ごせたことはよかったと話す。こうへいさんには約8か月の海外留学経験があったため、英語でみずきさんのやりたいことを叶えるべくサポートし続けた。

フランスでいちばん印象に残ったのは、2人ともパリ中心部にあるサント シャペル 教会でした。ステンドグラスがキレイだとは聞いていたのですが、行くまでこんな素敵なところがあるとは!」(みずきさん)

 反対に大変で印象に残ったことは、泊まったのがスタッフのいない民泊で、客室に入るまで1時間以上かかったこと。

「画像や英語の指示を見ながら、自分たちでカギを見つけて入室するシステムだったんですが、説明も雑なんですよね(笑)。部屋番号も書いてないし、エレベーターもない……。YouTubeでも動画を紹介しているのですが、途中は謎解きみたいになって本当に混乱しました」(こうへいさん)

 海外旅行のお約束、トラブルにいくつか見舞われつつもパリ旅を終えたあとは、フェルメール展を目指してオランダに移動。

最初は弾丸でフェルメール展だけのつもりだったんですが、主治医の先生が『せっかくだからゆっくり行ってくれば?』と言ってくれたので、フェルメールの故郷、デルフトなども訪れることができました。オランダの市場やお祭りでは、おいしいものをいっぱい食べられて。事前に調べ、あれもこれも食べたいってずっと妄想していたので、旅行中は常にお腹いっぱいでしたね(笑)」(みずきさん)

 今回の旅のメインイベント、世界中からフェルメールの絵が集まったフェルメール展。画集で観ていたとはいえ、絵のサイズが思ったより大きくて驚いたという。

「迫力が全然違う。でも描かれている人物の顔がすごく柔らかくて優しげで。ゆっくりと鑑賞できました」(みずきさん)

 夢だった『牛乳を注ぐ女』の絵には、感動のあまり近寄れないほど。たくさんの人の後ろで、動画でもうれし泣きしながら鑑賞する姿が印象的だった。

「他の絵と比べるとそんなに大きくなかったのですが、ホントに美しい絵でした! 思う存分観ることができて本当に満足です。フェルメール展にはトータル4時間いました(笑)。それにつきあってくれ、夢を叶えてくれたこうへい君に感謝、感謝ですね」(みずきさん)

腹部最難度の手術を控えて「食べられるようになるか」の不安

 がん闘病を忘れるような“ごほうび旅”を主治医が薦めたのは、みずきさんが行った「膵頭(すいとう)十二指腸切除術」がかなり難しい手術であることも大きい。これはすい臓の上部・膵頭の1/3と十二指腸、胆のうなどをとるもので、ほかに転移がなく、上部にがんがある場合の標準的な手術とされる。

「実は義母と僕はみずきが最初の入院中、病院が主宰するすい臓がんのオンライン勉強会に参加し、この手術について耳にしていました。手術が成功しても毎食ごとに服薬が必要になり、今のような健康な状態には戻らないかもしれないと聞いていました」(こうへいさん)

 この手術の術後の死亡率は1~5%、合併症を起こす確率は30~60%(国立がんセンターHPより)。すい臓の切除量によっては、すい臓が作っているインスリンホルモンの分泌量が減ってしまうといわれている。

「最初は住んでいる北海道内で手術をするつもりだったのですが、2人で話し合い、以前セカンドオピニオンをとったとき、僕たちにいろいろと詳しく説明してくれた、道外の消化器外科の先生に手術をお願いすることになりました。リスクがある手術なので、少しでもリスクが低いところにしたいと」(こうへいさん)

 病院側の意向もあり、手術をする病院名は明かしていない。手術に向けては慎重に準備を進めた。手術時間は8~10時間、術前に1週間ほど入院し、術後の入院は順調なら2週間、長くなれば1か月ほどかかるといわれているそう。

抗がん剤の副作用がだんだんひどくなっているのも、手術を決めた理由のひとつです。手脚のしびれが今は結構強くて、ペンを持っても字が書きにくくなりましたし、ピアスのキャッチを入れるのに苦労するようになりました。髪は残っているものの、結構抜けていてウィッグ3つでおしゃれを楽しんでいます。それに抗がん剤の副作用が出ている時期はずっとだるく、以前より食べられないことが増えました。最近は少しよくなってきましたが味覚障害もあって、食いしん坊の私にはちょっと辛いですね」(みずきさん)

 たとえ手術をしても抗がん剤治療は続くかもしれないが、量が減ったりと治療のフェーズが変わる可能性もある。

「どちらかというと手術そのものより、そのあとにご飯が普通に食べられるようになるかが不安です。手術自体は先生にお任せするしかないので、考えてもしかたがないかなって思っています」(みずきさん)

 手術を報告する動画を公開したあと、実際にこの手術を経験した人から、今は健康でお酒も飲めるようになったという声ももらっている。

「医師からも、みずきはほかのすい臓がん患者と比べて若いので、もしかしたら術後に服薬が必要ないぐらいの状態になれる可能性はあると言われています。みずきは食べるのが好きなので、時間がかかるかもしれませんが、今までと同じ量とまではいかなくても好きなものを食べられるようになることを願っています」(こうへいさん)

今も「詐病だ」といった心無いコメントが寄せられる

 みずきさんの信じられないような劇的な回復から、今でも「詐病だ」といった心無いコメントが寄せられることはまだあるという。

「がんが嘘だったらいいと思っているのは僕たちのほう。それは今でも思っています。最近では、現役がん治療医でYouTuberの押川勝太郎先生などにもセカンドオピニオンとして実際に診断書を診てもらい、ご意見をもらう動画も配信しました。せめて、ネット記事などを見て僕たちを知った方に『詐病ではないよ』ということをお伝えできればと思っています」(こうへいさん)

 動画内で押川先生が話しているが、人間は最初に知ったことに縛られる「アンカリング」という心理傾向があるという。つまり、「すい臓がんステージ4=治らない、元気なはずがない」という考えに縛られてしまうのだ。

「手術をする先生もおっしゃっていますが、すい臓がんの患者さんのほとんどは60歳以上なので、32歳のみずきとは体力も違います。がんサバイバーの皆さんからもよくコメントをいただきますが経過は本当に人それぞれでした。同じすい臓がんでもそうなので、もっと『がんは人それぞれ違う』なんだということが広まるといいですね。それに、みずきは“治らない”という考えに縛られず、いつも前向きでいたことが回復の力になったのでは僕は思っています」(こうへいさん)

 みずきさんのがん闘病公開後からチャンネル登録者数が急激に多くなったこと、動画配信後、ネット記事になることが格段に増えたことも影響しているのではと話す。

「私たち夫婦は動画配信のお金で生活をしています」

「旅の様子を配信し始めたばかりの昨年はYouTuberとしてはまだ初心者で。趣味の合う限られた視聴者さんと“同志”として交流していたので、こんなに僕らが知られるようになるとは正直、思っていませんでした。その点は予見不足だったと反省しています。また、公表当初はがんの知識がまったくなかったので、すい臓がんについての情報が今すぐ欲しいという思いもありました。実際、がんサバイバーをはじめ、いろいろな方にお話をお聞きできたのはよかったですね」(こうへいさん)

 YouTuberという職業がまだよく理解されていないこともあるだろう。スタッフを抱えているような大物YouTuberとは違い、こうへいさんが撮影から編集まで行っている。

私たち夫婦は動画配信のお金で生活をしています。以前、こうへい君宛てに『妻の闘病で稼いでいる』というコメントをいただいたこともあるのですが、最初にこうへい君と旅系YouTuberになることも、すい臓がんがわかったときに少しでも同じ病気の人の役に立てればと思い、闘病を明かしたのも私が決めたこと。でも、ほとんどの視聴者の皆さんからは温かい応援コメントをもらえていて、本当に助かっています」(みずきさん)

 みずきさんの闘病人生はまだ続くが、術後に体調が万全になったら結婚式を挙げるのが、次の「やりたいこと」だと2人は話す。

「入籍後、髪がたくさん抜ける前に慌ててウエディングドレスの写真は撮ったのですが、今度は支えてくれる母や、応援してくれた皆さんの前で結婚式ができたらいいなあと思っています」(みずきさん)

サニージャーニーとは
車で日本一周を目指す、旅系ユーチューバー2人組。みずきさんの婚約者だったこうへいさんが動画撮影、配信を担当する。昨年末に結婚し、夫婦2人で病気に立ち向かう。【YouTube】@sunnyjourney 【ブログ】https://ameblo.jp/sunnyjourney/
パリ中心部のサントシャペル教会では一面のステンドグラスに「サニージャーニー」の2人とも大感動!

 

夫婦ユーチューバー「サニージャーニー」のみずきさん

 

みずきさんが活動する2人組YouTuber『サニージャーニー』

 

髪が多かったみずきさんだが、1月になると抜け毛も増えている(写真左)。右は完成したウィッグをかぶったところ

 

みずきさんが“干物ウイーク”にどういった副作用があるかを再現し、紹介した(元気なときに撮影)

 

「フォルフィー」と名づけた抗がん剤。バッグ状になっており、投与しつつ、みずきさんの自宅で過ごせるようになっている