左から北川景子、吉高由里子、のん、二宮和也

 Netflixで配信中のドラマ『離婚しようよ』が話題だ。松坂桃李&仲里依紗による離婚をテーマにしたホームコメディーだが、ラブストーリーの名手・大石静と、希代のコメディー作家・宮藤官九郎による共同脚本が素晴らしく、SNSなどで称賛の声が上がっている。そこで、全国の30〜60代の男女1000人に、「もう一度見たい大石静&宮藤官九郎ドラマ」というテーマでアンケート。名作ドラマの数々が入ったランキングをどうぞ!

女性の描き方が巧みな大石静作品

 大石静作品の1位に輝いたのは『家売るオンナ』('16年 日本テレビ系)。北川景子がクールな敏腕不動産営業ウーマンを演じたお仕事ドラマの傑作で、'19年には第2シリーズも放送されるなど北川の代表作となった。「クールな態度とは裏腹に人間味のあるキャラクターが北川さんとマッチしていた」(茨城県・58歳男性)、「客の問題を解決しながら家を売る物語が斬新だった」(東京都・47歳男性)とキャスト、物語ともに満足度が高かった。ドラマウォッチャーで漫画家のカトリーヌあやこさんは、「不動産業界という目新しい題材でお仕事ドラマとしての爽快感を描きつつ、最終的にヒロインは結婚して妊娠……と女性としての幸せまでを描いているのが大石さんらしいですよね」と評する。

 2位には懐かしの朝ドラ『ふたりっ子』('96年 NHK)がランクイン。子役の三倉茉奈・佳奈の双子が人気を博した、姉妹の物語だ。「優等生と破天荒、真逆な2人の対照的な人生が面白かった」(神奈川県・58歳女性)、「茉奈・佳奈ちゃんがちっちゃくてかわいかった」(宮城県・55歳男性)との声が。

「茉奈・佳奈ちゃんの印象が強いですが、主演は岩崎ひろみさんと菊池麻衣子さん。岩崎さんが女性棋士役で夢の部分を担い、菊池さんが恋愛や家庭的な部分を担うみたいな感じで、恋と仕事という朝ドラの2大テーマを双子で分けたのがうまいですよね。菊池さんの家庭が結構ドロドロしていて、さすが大石さんだなと(笑)」(カトリーヌさん)

 3位に入ったのは、まだ記憶に新しい『星降る夜に』('23年 テレビ朝日系)。吉高由里子演じる産婦人科医と北村匠海演じる年下の聴覚障害者のラブストーリーだ。「耳が聞こえない=悲しいことではないという明るい世界観がよかった」(石川県・33歳女性)など、北村匠海が演じたキャラへの共感の声が多かった。

「前クールに『silent』という同じテーマの作品があったことで、より聴覚障害の描き方の差が際立ちましたよね。あっちが少女漫画の世界だとすればこっちは生々しいリアルな恋愛で、やたらとキスシーンが多かった(笑)。生と死を扱う人間ドラマの部分も濃くて、途中から登場したムロツヨシさんのキャラも強烈でした。大石さんの恋愛ドラマって必ず人間的なテーマが練り込まれている。それは『大恋愛』もそうですよね」(カトリーヌさん)

筆の幅広さに脱帽

 そのムロツヨシが出演した『大恋愛~僕を忘れる君と』('18年 TBS系)が第4位。「記憶をなくしていく主人公と周りの人たちの愛情……こんなに泣けたドラマはなかった」(埼玉県・31歳女性)。若年性アルツハイマーの産婦人科医を演じた戸田恵梨香の好演も印象的な切ない物語だ。

「ムロツヨシのシリアスな面を世に知らしめた作品。戸田さんも産婦人科医で、大石さんの中に命の尊さを描きたいという思いが常にあるんでしょうね。記憶が消えていく中で葛藤の末、子どもを産むというヒロインの決断は大石さんらしくて……号泣必至の名作です」(カトリーヌさん)

『大恋愛』でシリアスな演技が話題になったムロツヨシ

 そして、5位は大河ドラマ『功名が辻』('06年 NHK)。山内一豊の妻・千代を仲間由紀恵が演じ、武士の妻の視点から戦国の世を描いた。

「原作が司馬遼太郎さんなんですけど、本能寺の変が起こったのは、織田信長と濃姫と明智光秀の三角関係が原因だったなど、大石さんらしいアレンジがたくさんありました。戦国モノというよりは妻の内助の功で出世していく夫のサクセスストーリーという感じで、女性も見やすかったんじゃないでしょうか」(カトリーヌさん)

 6位以降を見ても、嫁姑に不倫、実録モノに医療ドラマと大石さんの筆の幅広さがうかがえるランキングに。中でもカトリーヌさんが印象深いという作品が。

「7位の『セカンドバージン』('10年 NHK)です。鈴木京香さんが年下の長谷川博己さんと不倫するんですけど、サレ妻を演じた深田恭子さんのエキセントリックぶりがすさまじかった(笑)。生々しいベッドシーンも多くて、NHKでこれをやるんだと驚きました。愛欲ドロドロの、まさに大石静さんの真骨頂という世界観で、今見ても面白いドラマだと思います」

朝ドラ屈指の名作

 一方、宮藤官九郎作品の1位に輝いたのは、朝ドラ屈指の名作『あまちゃん』('13年 NHK)。現在、BSプレミアムで再放送中ということもあって、断トツの人気を得た。「時事ネタがちりばめられてるのに、今見ても古くなくてめっちゃ笑える。朝ドラの最高傑作」(北海道・52歳男性)。「能年玲奈ちゃんが本当に可愛くて、朝から元気をもらえた。朝ドラでアイドルを題材にしたのも面白かった」(千葉県・46歳女性)と絶賛のコメントも多数。

「隅から隅まで面白いですよね(笑)。すべてのキャラにユニークな設定があって、必ず見せ場があるのは本当にスゴい。ほとんどの宮藤作品の土台には家族というテーマがあるんですけど、『あまちゃん』は祖母、母、娘の3代の物語で、その家族を囲む人々の群像劇になっている。ホームドラマという点も朝ドラとの親和性が高くて、朝から楽しめるクドカンワールドは至福でした」(カトリーヌさん)

「じぇじぇじぇ!」などのセリフも話題となった『あまちゃん』主演・のん

 2位は宮藤の連ドラデビュー作『池袋ウエストゲートパーク』('00年 TBS系)がランクイン。長瀬智也を主人公に、池袋の若者たちの姿をリアルに描いた青春群像劇の傑作だ。「アウトローな空気感の中で描かれるユーモア。キレキレの俳優陣、演出含めて時代の最先端をいっていた」(神奈川県・42歳女性)。「今見ると脇役を含めたキャストが豪華すぎる。これが出世作となった役者がたくさんいるのがスゴい」(東京都・48歳男性)など、それまでとはまるで違うドラマの登場に衝撃を受けた人は多かったよう。

「'00年の作品ですが、まさに新星登場というデビューでした。“見たことがないドラマを書く人が現れた!”って。宮藤さんの脚本で驚いたのが、その言語感覚。それぞれのセリフに絶妙なくすぐりがあって、とっぴな人物像でもキャラ造形がしっかりしてるから、宮藤さんの世界に引き込まれちゃう。見ている自分もクドカンワールドの一員になれるんです」(カトリーヌさん)

『IWGP』から2年、クドカンワールドを確立した作品『木更津キャッツアイ』('02年 TBS系)が第3位。岡田准一、櫻井翔ら草野球チームのメンバーたちの地元・木更津での日々を描いた青春コメディーだ。「主人公はがんで余命半年なのに、その現実を無視したような面白い日常が展開する。笑えて泣ける名作」(福岡県・42歳女性)

「内容が青年コミックなんですよね(笑)。若い男の子がワチャワチャして、かわいくてエッチな女の子が出てきて、面白おかしい事件に遭遇してみたいな。一応、余命モノなんですけど、悲愴感が一切なくて、ただただ楽しい。物語が表と裏に分かれていて、表で描かれた出来事が実は……というネタバラシを時間を巻き戻して裏で説明するという構成も斬新で、素晴らしかった」(カトリーヌさん)

『離婚しようよ』で交わる2つの才能

 続いて4位は東野圭吾のミステリーをクドカンが脚色した異色作『流星の絆』('08年 TBS系)。二宮和也、錦戸亮、戸田恵梨香の3きょうだいが両親の復讐のため、詐欺師に……とあらすじだけを見ると重々しいドラマに思えるが、そこは宮藤官九郎。「シリアスな中に突拍子もない笑いがちりばめられていて、その絶妙なバランスが最高だった」(大阪府・48歳男性)などの声が。

「この作品、めちゃくちゃ泣けるんですよ。宮藤さんって実は“哀しみ”を描くのがとても上手な作家さんで、二宮さんが真犯人と向き合うシーンなんか絶対泣いちゃう。もちろん、宮藤さんならではのヘンテコ設定もあるし、詐欺シーンが劇中劇になってる部分など構成も工夫されていて、ドラマとしてもよくできています」(カトリーヌさん)

 そして5位には名作『タイガー&ドラゴン』('05年 TBS系)が入った。

「ヤクザ(長瀬智也)が落語家(西田敏行)に弟子入りするお話で、まさにクドカンワールド。宮藤さんってミスマッチな題材を上手にシンクロさせる作風があると思うんですけど、この作品もヤクザと落語という組み合わせが絶妙でした。毎回実際の落語噺と重なるエピソードが描かれ、それを長瀬さんが落語で語るという多面的な構造も見事でしたね」(カトリーヌさん)

4位にランクインした東野圭吾の名作ミステリー原作『流星の絆』主演の二宮和也

 こうして振り返ると“したたかな大人の女性”を描き続けた大石静と、男性の“永遠の少年性”を面白おかしく描いてきた宮藤官九郎は真逆の作家性を持つように思えるが、『離婚しようよ』ではそのベクトルの違いが、ドラマに今までのそれぞれの作品とは異なる奥行きをもたらしている。

「松坂桃李さんの役のバカさ加減は大石さんには書けないし、錦戸亮さん演じる絶妙に悪い男なのに女は惹かれてしまうあの感じは宮藤さんには書けない。男子の目線と女子の目線がうまい具合に混じり合っていて、共作の醍醐味ですよね」(カトリーヌさん)

 今後、大石は吉高由里子が紫式部を演じる大河ドラマ『光る君へ』('24年 NHK)が控えており、宮藤は山本周五郎原作の『季節のない街』の脚色作品がDisney+で8月9日より配信される。

「大石さんが描く平安貴族の生々しいドロドロな恋物語はめちゃくちゃ楽しみ(笑)。平安時代は時代劇でもなかなか描かれないので、当時の女性の生き方や強さをどう描くのか。衣装や美術含めて楽しめる大河になると思います。宮藤さんの独特の世界は配信ドラマにすごく合っていると思うけど、マニアックになりすぎちゃうのも怖いので、たまには地上波に戻ってきてほしいですね。個人的にはもう一度朝ドラを書いてほしい。『離婚しようよ』のスピンオフじゃないですけど、仲里依紗さん主演の『巫女ちゃん』でもいいので(笑)。期待しています!」(カトリーヌさん)

全国の30〜60代の男女1000人に「もう一度見たい大石静&宮藤官九郎ドラマ」というテーマでアンケート

取材・文/蒔田陽平

カトリーヌあやこ 漫画家&テレビウォッチャー。著書にフィギュアスケートルポ漫画『フィギュアおばかさん』(新書館)など

全国の30〜60代の男女1000人に「もう一度見たい大石静&宮藤官九郎ドラマ」というテーマでアンケート

 

大石静(左)と宮藤官九郎(右)

 

北川景子

 

『星降る夜に』に出演した吉高由里子、北村匠海

 

仲間由紀恵

 

鈴木京香

 

ドラマ『池袋ウエストゲートパーク』('00年)で共演した長瀬智也(当時21歳)と山下智久(当時15歳)

 

長瀬智也

 

岡田准一

 

『離婚しようよ』ポスター画像(公式SNSより)