グエン・スアン・バン容疑者(大阪府警提供)

「事件のときは機械の音がうるさくて、何も聴こえへんかった。夜7時前くらいにパトカーのサイレンが鳴って、やっと気づいたわ」

 現場となった、大阪府大阪市平野区にある町工場街に住む男性はそう振り返るーー。

 大阪府警本部は8月28日、福岡県北九州市で住所不定・無職のベトナム人男性グエン・スアン・バン容疑者(24)を、殺人未遂と公務執行妨害の疑いで逮捕した。8月3日、グエン容疑者は大阪市平野区の路上で、同府警布施署地域課の巡査長(32)に対して、腕に噛みつくなどした上で、所持していたドライバーのようなもので頭部を刺し、殺害しようとしたというもの。一体何があったのか。

「同日午後6時30分ごろ、容疑者の姿はJR衣摺加美北駅に降り立った。そこから50メートル離れたコンビニ前を通りかかったところで、不審に思った巡査長が職務質問をかけた」(全国紙社会部記者)

 容疑者は職質に応じず、いきなり逃走。150メートルほど離れた町工場街へ。追いかけてきた警察官に捕まって、もみ合いになった末に、凶行に及んだのだった。

気づいたときは警官が血まみれで…

 だが、現場付近は冒頭のように、そのようすを目撃した人はいなかった。近所の住民によると、

「気づいたときは、道路のところに警察官が血まみれで倒れとって、複数の警察官が介抱しとった。ほんまに怖い話やなぁ」

 と驚く。

 幸いなことに刺された警察官は軽傷だったようで、

「右頭頂部を幅2センチほど突き刺されたというか、引っかかれたようなもの。全治10日を要する程度の怪我を負っただけ」(捜査関係者)

 グエン容疑者は警官を襲った後、現場から逃走。情報提供を呼びかけるため、8日には写真や動画が出されて、全国に指名手配された。

事件直後の現場。被害にあった警官は頭から血を流して倒れていた(目撃者提供)

「容疑者は500キロメートルも離れた福岡県北九市まで逃走していたのです。そこにはかつて交際していた女性が住んでいて身を寄せていたが、防犯カメラの映像などから特定されたわけです」(前出・社会部記者)

 グエン容疑者は、警察の取り調べに対して、

「身に覚えはあるが、殺そうとは思っていなかった。逮捕容疑の内容が少し違う」

 と一部、容疑を否認しているという。

 29日、逃走中のグエン容疑を自宅にかくまったという犯人蔵匿の疑いで元交際相手のベトナム人女性、ヴ―・ティー・ラン容疑者(22)も逮捕された。警察の取り調べに、

「“北九州で仕事がしたい”と連絡があり、友人と大阪駅まで迎えに行った。事件はその後にネットニュースで知ったが、1日だけ家に泊めた」

 などと供述している。

 なぜグエン容疑者が警官の職質から逃走したのか。

家族に仕送りができなくなるから逃げた

「容疑者は去年4月に来日。技能実習生として、北九州市の建設会社で働いていた。滞在期間は今年の4月までだったが、それ以前に行方不明になっている。どこにいたのか、就労していたのかはまだ明らかになっていないが、滞在期限が切れていたため、その発覚を恐れて逃げたのでしょう。大阪は土地勘がないため、知人を頼ってきたのではないか」(前出・捜査関係者)

 グエン容疑者のほうも、

「逮捕されたら、家族に仕送りができなくなるので、必死に逃げた」

 と動機を語っているという。いま、ベトナムの家族は金に困る以上に、彼の犯罪と逮捕をどれだけ悲しんでいるだろうか。


事件直後の現場。被害にあった警官は頭から血を流して倒れていた(目撃者提供)

 

JR衣摺加美北駅

 

警官が容疑者に職務質問をしたコンビニ

 

犯行現場となった大阪市平野区の路上