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「事件報道で久しぶりに『トリカブト』の単語を聞き、思わず背筋が寒くなった。もっとも、過去のトリカブト事件とは異なり、犯行目的は生命保険金ではなく被害女性を口説くことにあったとみられている。女性の命に別条がなかったのが幸いだが、殺人事件に使われるような毒物であり、一歩間違えれば重大な結果を招きかねなかった」

 と指摘するのは、“平成のトリカブト事件”こと埼玉・本庄市の保険金殺人事件を取材した新聞記者。

 東京都内の病院で同僚の20代女性にトリカブトの毒を飲ませ、急性毒物中毒にしたとして、警視庁尾久署が傷害の疑いで逮捕したのは同院の診療放射線技師・長濱拓夢容疑者(27)。

 一部で“令和のトリカブト事件”と報じられた。別の全国紙社会部記者がその犯行手口を明かす。

飲みかけのペットボトルにトリカブト注入

「長濱容疑者は同僚の20代女性A子さんに好意を寄せていた。親密になるためたくらんだのが、こっそり毒物を混ぜて摂取させ、具合が悪くなったところで介抱する手口とみられている。6月8日、勤務する病院のスタッフルームでA子さんの飲みかけのペットボトルの水に、トリカブトに含まれる毒性物質『アコニチン』を溶かした液体を注射器で混入。知らずに飲んだA子さんは手足のしびれを訴えて嘔吐し、長濱容疑者は素知らぬ顔で介抱にあたっていた」

 犯行はあっけなくバレた。6月中旬、A子さんはペットボトルの水に不純物が混じっているのに気づく。8日の件も怪しいと感じて警察に相談。病院内を警戒していた捜査員が同16日、長濱容疑者がペットボトルに注射器で異物を混入する姿を目撃し、器物損壊容疑で現行犯逮捕した。

注射器から検出されたもう一つの成分

「押収した注射器から覚醒剤の成分が検出され、覚醒剤所持容疑でも逮捕。トリカブトで接近目的は遂げたにもかかわらず、あえて覚醒剤を摂取させようとした狙いは何か。アコニチンも覚醒剤もネットで購入しており、容疑者のバッグからは覚醒剤約0・2グラムとアコニチンの粉末約1グラムが見つかった」(同・社会部記者)

 長濱容疑者は当初、警察の取り調べに対してA子さんへの好意を認め、「距離を縮めたかった」とする趣旨の話をしている。

 しかし、毒物の混入については「知らないうちに混ざってしまった」などと否認しているという。

 厚生労働省によると、アコニチン中毒は食後10〜20分以内に発症することが多い。唇や舌のしびれに始まり、次第に手足がしびれ、嘔吐、腹痛、下痢、不整脈、血圧低下などを引き起こす。けいれん、呼吸不全に至って死亡することもあり、致死量はわずか2〜6ミリグラムという猛毒だ。

 東京都保健医療局はホームページで誤食しやすい有毒植物としてトリカブト類を取り上げ、国内に数多く自生していると注意喚起する。

 容疑者宅は東京都足立区にある駅近の賃貸マンション。

 近所の商店のスタッフは、「よく似た男が来店したがトラブルはなかった」と話しつつ、あきれた表情を見せた。

「1986(昭和61)年、夫が妻に保険金1億8500万円をかけトリカブトで毒殺する事件が起き、'99(平成11)年に疑惑が発覚した本庄市の事件では、八木茂死刑囚が愛人と共謀してトリカブト入りのあんパンを食べさせるなどして3人が死傷し保険金3億円をだまし取っていた。令和の事件は色合いこそ異なるが、医療従事者が同僚に好意を伝えられず、毒を盛る手法を取った点で異常性を感じさせる」(冒頭の新聞記者)

 事件の全容解明が待たれる。


 

トリカブトの根。古くは狩猟の毒矢に利用された。長濱容疑者はトリカブトに含まれる毒性物質のほか、覚醒剤の成分も注入していた(画像は都保健医療局のホームページより)

 

 

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