大塚製薬株式会社本社ビル写真。ポカリフレッシュをリアルで実施しているのは品川にある東京本部 写真/共同通信社

「ポカリフレッシュ」──まるで特撮の必殺技のようなこの言葉。

 ポカリフレッシュとは、大塚製薬株式会社の代表的な製品「ポカリスエット」と「リフレッシュ」を組み合わせた造語で、全社で毎週木曜日午後2時から行っている8分間のリフレッシュ体操の名称である。これを、同社は企業の“ウェルビーイング”の一環として取り組んでいる。「オロナミンC」や「カロリーメイト」などでもお馴染みの大塚製薬が取り組むユーモラスなウェルビーイングの中身とは──。

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 そもそもウェルビーイングとは何か。心身ともに良好な状態であることを指す。世界保健機関(WHO)憲章の前文にはこのように定義づけられている。

“健康とは、病気ではないとか、弱っていないということではなく、肉体的にも、精神的にも、そして社会的にも、すべてが満たされた状態にあること” (出典:公益社団法人 日本WHO協会) 

 近年、この考えかたは一般企業にも浸透している。肉体・精神面・社会的な面でも満たされる環境づくりをし、社員一人ひとりの意欲やエンゲージメントを高め、ひいては、その企業に関わるすべての人の幸福を目指す──。大塚製薬は2007年に『健康宣言』をし、社員およびその家族が健康であるだけでなく、その先にある、元気でいきいきとした生活を目指すことを明文化した。

新入社員も一発で覚える“ポカリフレッシュ”

 その一環として生まれたのが「ポカリフレッシュ」だった。その当時、「社員の健康」の施策として、運動不足解消・運動習慣のきっかけづくりを目的にリフレッシュ体操を実施しようと考えたという。人事部健康管理室室長の武田さんに話を聞いた。

「スタートしたのは健康宣言が出された2007年。お昼のちょっと眠たい時間帯に少し身体を動かしてリフレッシュしましょう、ということでスタートしました。社員からは好評で、楽しんでいます。社員が運動習慣を身につけるのにひと役買っているのではないかなと。

 ポカリフレッシュのネーミングに関しては、社員に“親しみ”をもって覚えてもらえる名称を当時の人事担当が検討するなかで、いくつかの候補のなかから採用されたものです。新入社員でも一発で覚え、馴染んでしまうほどでした」

 ポカリフレッシュがスタートしたころから協力体制にある外部のインストラクターが各フロアを回り、8分間のエクササイズを実施している。コロナ禍となった2020年以降は、リモートワーク中でも実施できるようオンラインで限定公開し、全国の社員と家族がいつでも視聴できるようにした。毎月テーマを決めて実施しており、8月は「真夏のスポーツフェス」というテーマで様々なスポーツの動きを取り入れたエクササイズを実施した。今年の9月からは対面での実施を再開し、現在ではハイブリッドで展開している。着替える必要がない簡単エクササイズであり、実際に肩こりに悩んでいる社員が「肩が軽くなった」など喜びの声が挙がったという。

大塚製薬が考える“ウェルビーイング”

9月にリモートでなく対面で再開されたポカリフレッシュの様子 提供/大塚製薬株式会社

インストラクターさんの掛け声が聞こえてくると、次はウチのフロアだ! と急いで戻る人もいたりと、楽しみにしてもらっています。また、年に1回”特別版”として、ストレス解消を兼ねたサンドバックでボクササイズを実施したり、自分の体を知るということで体組成を測ったり、基礎体力を測るようなイベントを開催することもあります。部署対抗にすることにより、盛り上がり、コミュニケーションの場ともなりました」(武田さん、以下同)

 大塚製薬のウェルビーイングの取り組みはこれだけではない。コロナ禍にはバーチャルラン企画「ポカリスエットラン」も開始した。スマホアプリを使用し世界中どこからでも参加できるバーチャルラン企画で、海外グループ会社が実施していたものに、大塚製薬も2021年に参加。家の周囲など身近な場所でランニングやウォーキングを行うもので、企画に参加した社員の運動習慣が59%から87%に増加した。2023年には自社で企画・運営を行い、国内外の大塚グループ社員が参加した。

 このほか、社員による『健康情報についての動画配信』も行っていた。

「弊社は疾病の診断から治療までを担う医療関連事業と、日々の健康の維持・増進をサポートするニュートラシューティカルズ(※Nutrition(栄養)とPharmaceuticals(医薬品)からなる造語)関連事業の両輪で展開していますたとえば、『ポカリスエット』を展開する事業部には『熱中症対策』について専門的な知識を持つ社員がいるなど、様々な健康分野について専門的な知識を持つ社員がいますので、その知見を社員同士で共有するために、動画を作成しました。

 毎月1本ずつ、違ったテーマで順番に動画を作成し、合計21本の動画を配信しました。こうした動画が作れるのも、弊社が両輪で事業展開しているからです」

ほかにはこんな取り組みも。たとえば、休憩は必ず取得するように呼びかけをおこなったり、各工場の社員食堂では摂取カロリーや栄養バランスを考慮した食事メニューを選択できるよう整備。また、業務の合間に、社内SNSを活用して社員間でコミュニケーションをとることも積極的に推奨しているという。

 コロナ禍でメジャーになった働き方、“リモートワーク”にもいち早く順応した。2020年に『在宅勤務制度』を改訂。出社や在宅勤務と組み合わせることで通勤や長時間労働などによる心身の負担を減らし、健康に働くための仕組みとしても運用している。

社員が会社を卒業するときに…

 病を治す医薬品から、予防や健康づくりに貢献するものまで幅広い製品を扱っている同社。人々の健康をカラダ全体で考え、あらゆるシーンにおいて健康に貢献することを目指し、大塚製薬は“トータルヘルスケア企業”として事業を展開している。同社はウェルビーイングの重要性についてこう考えている。

「健康というのは何も肉体的な問題だけではありません。働く環境、生活環境、心身、気持ちの持ちかた、トータル的な改善を目指すことで真の健康が実現します。社員が健康・幸福になることでさらに生産性が上がると弊社では考えております。

 また、社員が会社を卒業するときにより健康な状態で社会に戻って行ける、そういうことにも繋がっていると思うんですね。個人の努力だけでヘルスリテラシー向上や生活習慣の改善を目指していくことは大変だと思います。企業がそれを追及することによって、社員も改善を目指しやすくなり、より健康な状態の社員を見送ることができる。それが社会貢献にも繋がるのではないかと思って、ウェルビーイングの活動に取り組んでいます」

「健康経営」を目指した活動の結果、同社は経済産業省が行う「健康経営優良法人ホワイト500」に7年連続で選出された。

 ブラック企業での過労などで心身が疲弊しているなどとよく報道される今の日本。大塚製薬が掲げる「心身の健康は、企業が先導しつつ社員も積極的に発信し、肉体・心・環境などを整え、さらに生産性を上げていく」考えかたは、今後の日本の経済活発化への鍵となるかもしれない。

(取材・文/衣輪晋一)