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 いま、日本人の2人に1人はがんになる。がんは決して人ごとではなく、自分、もしくは家族が直面する身近な病気だ。

多くの人はサインを見逃す

 その一方で、医学の進歩に伴い、がんは死に直結する病気ではなくなりつつある。最新のデータでは、がんと診断されてから5年後に生きている人の割合(5年生存率)は約64%。

 たとえがんになったとしても、3人に2人は治る、あるいはがんがあっても5年以上生きることができるのだ。特に早い段階で見つかったがんは、手術などで取り除くことによって治る可能性が高い。

「そのことをはっきりと示すのがステージ別の生存率です。ステージ1、つまり早期がんの5年生存率は90%以上、ステージ2が約85%と高い数字なのに対し、ステージ3は54%、もっとも進んだ段階であるステージ4の場合、約10%にまで下がるのです。つまり、がんは早期発見が何より大事なのです」

 というのは、がん専門医である産業医科大学の佐藤典宏先生だ。

 早期に発見するために重要なのが“がんのサイン”を見逃さないこと。例えば、飲み物を飲み込むときに違和感がある、風邪でもないのにせきが続くといった症状だ。

 ところが多くの人はそういった症状が出ても、自分ががんに侵されているとは考えず、「きっと仕事の疲れだろう」とか、「もう年だから」などといった理由をつけて病院に行かない。

 結果的にがんの初期のサインを見落としてしまい、進行した状態で見つかることになるのだ。

「実際に、私が担当した大腸がんの患者さんのなかにも、半年以上も前から便通の変化というわかりやすいサインがあったにもかかわらず、病院を受診しなかった50代の男性がいます。

 がんによって腸がふさがってしまう腸閉塞という状態で病院に救急搬送され、検査の結果、すでに全身にがんが転移していて、治療が困難な状態でした。

 残念ながら、入院からほどなくして亡くなりましたが、このような患者さんは決して珍しくありません」(佐藤先生、以下同)

 この男性のように手遅れにならないためにも、「こんな症状があったら病院に行ったほうがいい」というがんの主なサインを紹介する。

何げない症状ががんのサイン

 がんがやっかいなのは、ごく早期には目立った症状がない点だ。

 強い痛みや腫れがあれば気づきやすいのだが、ちょっと体調を崩したときの症状や、よくある病気の症状と似ていることが多いので、がんと気づかないうちに進行してしまうのだ。

 例えば、口内炎。疲れなどで誰にでも出やすいが、なかなか治らない口内炎は実は口の中にできるがん、口腔がんのサインかもしれない。

「タレントの堀ちえみさんは2019年、ステージ4の舌がんであることを公表しましたが、報道によると、舌がんと診断されるかなり前から舌の裏側に口内炎ができていたそうです。

 ただ、普通の口内炎として医療機関で治療を受けていたとのこと。結果的に見落としてしまったということでしょう」

舌がん罹患の堀ちえみさん。最初は普通の口内炎として治療を受けたという

 口内炎に注意したいところだが、ちょっとした口内炎でいちいち口腔外科などの専門病院に行くのも面倒。何か目安のようなものはないのか。

「“2週間”がポイントです。私たちの身体には細胞や組織を修復するシステムが備わっているので、痛みや腫れがあっても徐々によくなっていきますが、がんによる症状は軽くなることは少ないです。そのため、口内炎や原因不明の痛みといった症状が2週間以上続く場合は要注意です」

 主ながんのサインをまとめた。気になる症状がないか、もしあるならどのくらいの期間、続いているのか確認したい。

その症状、がんのサインかも!!

・原因のわからないせきが2週間以上続く
・痰や血痰が出る
・息切れしやすくなった

肺がんのサインかも!

肺がんのサインかも!※写真はイメージです

・口内炎や口の中のできものが2週間以上治らない
・口の中にかたいしこりができた
・あごの下から首にかけてしこりがある

口腔がんのサインかも!

口腔がんのサインかも!※写真はイメージです

・お腹や腰、背中に痛みがある
・食欲不振や腹部膨満感、吐き気がする
・血糖値が急に悪化した

膵臓がんのサインかも!

膵臓がんのサインかも!※写真はイメージです

・ものを飲み込んだときに胸がつかえたり、しみる感じがする
・胸や背中に痛みがある
・体重が減った

食道がんのサインかも!

・便に血が混じったり、下血がある
・便が細くなった
・下痢や便秘を繰り返す

大腸がんのサインかも!

・腹痛やお腹のしこりがある
・白目の部分や皮膚が黄色くなる
・お腹の内部に水がたまる(腹水)

肝臓がんのサインかも!

生存率が低いがんほど早期発見が大事

 口腔がんは口の中という観察することができる場所にできるので、比較的早期に見つけやすいがんといえるが、早期発見がきわめて難しいがんもある。その代表が、膵臓(すいぞう)がんだ。

「5年生存率が50%未満のがんは、食道がん、肺がん、肝臓がん、膵臓がんなどですが、膵臓がんはその中でももっとも低い11.8%。かなりシビアな数字です。

 ただ、膵臓がんも他のがんと同じように、ステージが進むにつれて生存率が下がるので、早期発見が大事なことに変わりありません。むしろ、生存率が低いがんほど、早期発見が特に重要であり、がんのサインに注意が必要といえます」

 元横綱の千代の富士さんや野球監督の星野仙一さん、女優の八千草薫さんなど、膵臓がんで命を落とした有名人は多い。膵臓がんで死なないためには、手術で切除できる早期の段階で見つけること以外に方法はない。

食道がんに罹患の秋野暢子さん。

 そのためには、膵臓がんのサインを早く見つけることなのだが、腹痛や食欲不振、吐き気といったものは膵臓がんだけにみられる特別な症状ではないため、ひどくなるまで病院に行かない人が多いのが現状だという。

「他にも、例えば、ダイエットしていないのに体重が減ったり、糖尿病の人が急に悪化した場合なども膵臓がんのサインの可能性が。

 思い当たることがないのにそういった症状があるなら、一度、医療機関で詳しく調べてもらったほうが安心でしょう。肝胆膵(かんたんすい)内科、消化器内科、または消化器外科での受診をおすすめします」

早期発見が特に重要な生存率の低い4つのがん
膵臓がん 11.8%
肝臓がん 40.3%
肺がん  40.4%
食道がん 43.4%

※出典:「国立がん研究センターがん情報サービス」5年生存率

お酒で顔が赤くなる人は要注意

 食道がんも、43.4%と5年生存率は比較的低い。ただし、ステージ1に限ると70.6%なので、早期発見できれば治る可能性の高いがんだ。

 日本人に多い食道がんの主な危険因子はお酒とタバコ。両方を習慣にしている人は、さらにリスクが高まる。飲み込むときの胸の違和感やつかえ感などの症状が少しでもある場合は早めに医療機関で内視鏡検査を受けたい。

 ちなみに、2022年に食道がんと診断された秋野暢子さんは、半年ほど前からのどのひっかかりを感じていたという。

 また、お酒に弱く、少ししか飲まない人も油断大敵。

「日本人にはお酒を飲んだときに顔が赤くなる人が多いのですが、そういう人はアルコールを代謝する酵素の働きが弱いことがわかっています。

 その酵素の働きが弱い人がお酒を飲むと、アセトアルデヒドという発がん性のある物質の血液中の濃度が高まり、食道がんなどになりやすいので、お酒に弱い人は少量でも無理して飲まないようにしましょう」

 がんは早期に発見できれば治る可能性の高い病気だ。症状に気づいたら、「こんな症状で病院に行くなんて大げさかも」とは思わずに、ぜひ受診してほしい。

がんを予防できるサプリはあるの?

 がんの初期症状には気をつけたいが、がんになるリスクを簡単に減らせることはできないのか。例えばインターネットなどで「がん予防に有効なサプリ」といった情報を目にすることも。

 がんを予防できるサプリはあるのか、佐藤先生に話を聞いた。

「動物実験レベルでは、がんの予防効果が確認されているサプリがいくつか報告されていますが、人を対象とした多くの研究では、サプリ摂取の有無によってがん罹患率(あるいは死亡率)に差はないという結果でした。

 さらに近年、ビタミンDおよびオメガ3脂肪酸のサプリが、がん予防に有効かどうかを調べた大規模な試験の結果が海外から報告されましたが、どちらのサプリにも、がんのリスクを低下させる効果は認められませんでした。

 たしかに、ビタミンDやオメガ3脂肪酸を含む食べ物にはがんの予防効果があるという研究結果がありますが、それらの栄養素だけをサプリで摂取しても、がんを防ぐ効果は期待できないということです。

 サプリに頼らずに、バランスのとれた食事から、しっかりと必要な栄養素をとるように心がけましょう」

がん専門医 佐藤典宏先生●産業医科大学第1外科講師。膵臓がんを中心に1000例以上の外科手術の経験を持つ。がん患者に役立つ情報を提供するYouTube「がん情報チャンネル」のフォロワー数は現在約11.9万人。
教えてくれた人……がん専門医 佐藤典宏先生●産業医科大学第1外科講師。膵臓がんを中心に1000例以上の外科手術の経験を持つ。がん患者に役立つ情報を提供するYouTube「がん情報チャンネル」のフォロワー数は現在約11.9万人。

(取材・文/八坂佳子)

 

舌がん罹患の堀ちえみさん。最初は普通の口内炎として治療を受けたという

 

食道がんに罹患の秋野暢子さん。

 

肺がんのサインかも!※写真はイメージです

 

口腔がんのサインかも!※写真はイメージです

 

膵臓がんのサインかも!※写真はイメージです