間違いだらけの「タンパク質」のとり方(※画像はイメージです)

 「サラダチキン」「プロテイン」…タンパク質はしっかりとれる?

 ここ数年の“タン活(タンパク質を積極的にとること)”ブーム。タンパク質が不足すると筋肉量が落ち、疲れやすくなるなど万病のモトに! そこで健康のためにタンパク質の摂取に努める人が増えている。しかし管理栄養士の金津里佳さんは、ブームの陰で“効果の少ないタン活をしている人がかなり多い”と指摘。特に、健康意識の高い人ほどその落とし穴に陥っていると警鐘を鳴らす。

健康意識の高い人に偏りや不足が

「タンパク質はとり方や体内でしっかり消化されているかが大事。単にタンパク質を含む食品をたくさん食べればよいと思っている人は意識を変えてほしい」(金津さん、以下同)

 例えば、手軽に食べられるサラダチキン、豆腐などの決まった食品だけをタンパク質源にしたり、摂取量を増やすべくプロテインに頼ったり。いずれも避けたいタンパク質のとり方だと話す。

「タンパク質はアレルゲンを作りやすいので、1つの食品ばかり重なると、アレルギーを起こして身体の不調につながります。同じ豚肉でもロース、バラといった感じで、部位を変えるだけでもokなので、タンパク質の摂取源をローテーションすることを推奨します」

 今やアスリートだけでなく一般にも愛用者の多いプロテインだが、熱処理して変性したタンパク質は栄養価が期待できないうえ、飲みやすくするための糖質などが多く含まれるので、おすすめできない。

 健康志向が高かったりダイエットをしている人は“タン活”にも熱心かと思いきや、逆にタンパク質不足に陥っているケースがあるという。

「しっかりとカロリー計算をしている人に限ってタンパク質が不足していることが多い。野菜と肉を比較すると野菜のほうが圧倒的に低カロリーですから、つい肉が足りないメニューを選びがちなのです。胃もたれが起きないようにあまり肉を食べないという人も注意。こうした人たちは年齢を重ねるうちにどんどん肉、つまりタンパク質が摂取できない身体になってしまいます」

お腹を壊しやすい人はタン活には不向き?

 重要なのは、十分な量を体内できちんと消化吸収できるかどうか。そのためには、腸のコンディションを整えてほしいと金津さんは解説する。

 タンパク質を消化吸収するためには、消化酵素と胆汁酸という体内物質が必要だが、この材料となるのもタンパク質。ところが、体内のタンパク質が不足している場合、これらの体内物質が足りず、うまく消化が進まないままタンパク質が小腸から取り込まれてしまう。するとお腹の調子を崩すハメになるのだ。

「肉を食べて胃もたれをする、下痢や便秘、ガスがたまりやすくなるという人は、うまく消化吸収ができていないサイン。いくらタンパク質を食べても、スムーズに身体に吸収されないので、いつまでたっても不足状態が解消されません。タンパク質をたくさんとるという行為が逆効果になってしまうわけです」

 消化吸収できない状態を放置したままでいると、食べる量自体も減少。さらなるタンパク質不足を引き起こす負のスパイラルに。

「慢性的なお腹の不調がある人は、リーキーガット(腸漏れ)症候群という小腸の炎症を起こしている可能性も疑われます」

 通常、食べた栄養素は小腸で分解され、身体で使える状態にして取り込まれる。しかし、タンパク質不足によって消化酵素が足りない上に、リーキーガット症候群で小腸の上皮粘膜の結合が緩み、“穴あき”のような状態になると、栄養素が分解されないまま取り込まれてしまう。結果的に、きちんと体内に栄養補給ができなくなる。

「タンパク質不足による小腸の消化不良状態は、タンパク質だけでなく、ミネラル、ビタミンなどすべての栄養摂取も阻害します。それを解決するには、“お腹の調子が悪いから食べる量を減らそう”ではなく、少しずつタンパク質の摂取量を増やしていくことが大切なのです」

 また、リーキーガット症候群は、小麦や乳製品(バターは除く)が影響するので、依存度の高い食事をしている人は見直したほうがよい。

 一方、タンパク質不足が解消されると、お腹の不調が起きないだけでなく、

「女性は月経痛やPMS(月経前症候群)、更年期障害など女性ホルモン関連の不調が緩和されるといわれています」

 では、正しくタンパク質の摂取量を増やすコツは?

「無理をしないで、少量から。例えば消化しやすいひき肉はいいですね。ハンバーグや麻婆豆腐の肉の量を少しずつ増やしていき、ジワジワと消化吸収できる量を増やしていくのがおすすめ。酢やレモン果汁、大根おろしなどを一緒にとるとタンパク質の消化を助けてくれるので、量が食べやすくなります」

植物性よりも動物性タンパク質を

 タンパク質をとるため、肉・魚を食べる量の理想は、目安量として1食150g。厚生労働省による「国民健康・栄養調査」(令和元年)では、日本人が食べている1日の肉の摂取量が平均103gなので、1食150g×3食で450gとなると、ふだんからクリアできている人は少ないだろう。

 でも、この数字にもとらわれすぎてはいけないと金津さん。

「人によって体格も小腸で消化吸収できる量も異なるので、必ずしも1食150gがベストとは言いきれません。胃もたれなどの不快症状を起こさないよう、毎食少しずつ量を増やし、“気づけば、無理なく毎食150gほど食べられるようになった”くらいが正しい“タン活”のゴールです」

 タンパク質の摂取源は、良質な脂質やビタミンが豊富な動物性をメインに。豆腐や納豆など植物性は栄養面で物足りないので、カロリーが低いからと主菜にしてはダメ。

「お肉の脂は敬遠されがちですが、そこに含まれる飽和脂肪酸は酸化しにくいので、良質なエネルギー源となりますし、タンパク質が体内でしっかり働く助けをします。また、ビタミンDやビタミンAなど脂溶性ビタミンは、お肉の脂質を一緒にとることで身体に吸収されやすくなるので、良質な脂をしっかりとって」

 また、野菜を先に食べてしまうと、満腹感でタンパク質の量がとりづらくなるので、食事の最初に肉を食べること。

「年齢を重ねて食が細くなっても、肉や魚、大豆製品などタンパク質を優先してほしいです。“年を取ったら胃もたれする”というのは幻想で、しっかりと小腸で消化吸収できる量なら、何歳になっても肉料理をおいしく食べることができます。焦らず摂取量を増やし、心身とも健康に年齢を重ねていきましょう!」

こんなタンパク質のとり方はNG!

・サラダチキンや豆腐だけなど単品だけ食べる
・胃もたれしない量に抑える
・カロリー計算して決まった量を食べる
・足りない時はプロテインで補う
・低脂肪を心がけている

こんな人はタンパク質不足かも!

・お酒を飲んだあとむくみが取れない
・無性に甘いものが食べたくなる
・眠りが浅く夜中に目が覚める
・更年期症状やPMSが重い
・姿勢が悪く顔の輪郭がたるんでいる
・たくさん食べても力が出ず疲れやすい

教えてくれたのは…金津里佳さん

金津里佳さん・「ルネスクリニック東京」管理栄養士。

「ルネスクリニック東京」管理栄養士。“人の身体はみな同じではない”と意識し、納得できる論拠に基づいた栄養指導を行う。著書に『9割が間違っている「たんぱく質」の摂り方』(青春出版社)。

取材・文/河端直子

 

こんな人はタンパク質不足かも!

 

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カロリーを抑えるため、野菜や植物性タンパク質ばかりとるのはNG!