ガチャガチャのイメージ写真

 かつては子どもの楽しむものだったガチャガチャだが、専門店に行くと大人が夢中になり、出てくる商品に一喜一憂する姿も。そんなガチャガチャは現在、第4次ブームに突入し、市場もますます盛り上がりを見せている。なぜこれほど人気となっているのか、その背景に迫った。

市場規模は約610億円

何が出てくるかわからないおみくじのようなドキドキ感が楽しいし、アクセサリー感覚でバッグにつけることもできる。いろいろな種類があるので、気がつくと1000円くらいは使っちゃいます

 そう話してくれたのは、仕事帰りにカプセルトイ専門店『ガチャガチャの森』に立ち寄ったという30代の女性。コインを入れて回転式レバーを回すと、カプセルに入った玩具やグッズが出てくるカプセルトイは、現在、女性を中心に人気が拡大し、全国におよそ7万もの店舗に設置されているほど市場が成長しているという。

 カプセルトイ業界の歴史やビジネス事情に精通する、日本ガチャガチャ協会代表理事・小野尾勝彦さんは、「ガチャガチャは第4次ブームに突入している」と説明する。

'22年のガチャガチャの市場規模は、約610億円。前年が450億円だったので、この1年で160億円も伸びています。かつてはスーパーなどに設置されていたガチャガチャですが、近年は全国に86店舗展開している『ガチャガチャの森』のような専門店が増え、大人の女性でも入りやすい空間を演出しています」(小野尾さん、以下同)

 『ガチャガチャの森』の平日利用者の約7割は女性だそう。子どもが楽しむものというイメージが色濃かったカプセルトイは、今や幅広い層が楽しむ存在へと変わっているというから驚きだろう。

「ガチャガチャブームの火付け役は、'83年に発売された『キン肉マン消しゴム(キン消し)』です。子どもを中心に大ヒット(販売累計1億8000万個)しましたから、以前はガチャガチャ=子どもが楽しむものでした」

ボタンを押すと「次、止まります」といった音声が流れる『バスの降車ボタン』や、実際に氷が削れる『レトロかき氷器』などユニークな商品も

 キン消しが第1次ブームを作り出した立役者だといい、以後、「ガチャガチャ文化は花開いていく」と小野尾さんは話す。

バンダイさんが、IP(知的財産)をガチャガチャという販路で展開したことは画期的なことでした。それ以前は、無断でキャラクター商品が好き勝手に売られている状況でしたから、バンダイさんは“黒船”のようなインパクトがあった

ハードが進化した

 実は、「ガチャガチャ」や「ガシャポン」といわれる呼称は、キン肉マンやガンダムシリーズを展開したバンダイの商標だ。

 一般的な総称は「カプセルトイ」であることから、いかにキン消しの影響力が今に続くまで大きいかがうかがい知れるだろう。

 IPをカプセルトイで展開することが一般的になる中で、'95年に第2次ブームが到来する。単色だったものが彩色され、レベルが上がったことも要因だが、「ハードが進化したことも大きい」と小野尾さんは教える。

私が働いていた『ユージン』(現タカラトミーアーツ)が、『スリムボーイ』という2ボックス一体型ガチャマシンを製造します。ガチャガチャの筐体を縦に連結できることで、スペースを取らずに100円と200円のガチャガチャなどを取り扱えるようになった

 『ディズニーフィギュアコレクション』が爆発的に売れたことで、ガチャガチャを購入する客層が大人まで広がるトレンドがここから始まる。現在、カプセルトイの筐体は、タカラトミーアーツとバンダイの2社が製造しているが(なんとPOS機能が搭載された筐体もある!)、その始まりは第2次ブームにあるというわけだ。

ガチャガチャの販売は、ガチャガチャマシンを保有する代理店が商品を各メーカーから購入するため、中にどんなガチャガチャを入れるかは、代理店の自由。そのため、ソフトを作るメーカーが増えていったという背景があります

 また、200円といった“ちょっと高価なカプセルトイ”が登場したことで、マニアな趣味を持つ大人もたしなむようになった。'90年代後半は、フィギュアをはじめとしたオタク文化が隆盛していく時期。その時流に乗るように、精細なフィギュア系のカプセルトイも登場し、人気を博すようになる。

コップのフチ子

 カプセルトイ業界は、キャラクター系を筆頭としたIPを扱うことが定石だ。マンガ発、アニメ発、映画発……あくまで二次的な販路として重宝されていたカプセルトイだったが、その常識を打ち破る“突然変異”の大ヒットガチャが現れる。

第3次ブームを起こしたコップのフチ子

 '12年に発売された『コップのフチ子』だ。小野尾さんは、フチ子の出現によって「第3次ブームが訪れた」と語る。

10万個でヒット、30万個で大ヒットといわれる業界で、キタンクラブが発売したコップのフチ子シリーズは、販売累計2000万個を突破します。同商品は、当時急速にユーザーが増えていたTwitter(現・X)やInstagramで拡散されたことで、爆発的な人気を誇るようになります

 発売当時は無名だったフチ子は、今ではバンクシー(『バンクシーって誰?展』)とコラボをするまでの大スターになってしまった。何とも夢があるではないか。

コップのフチ子の成功を機に、クリエイターとコラボしたデザイン性の高い商品が続々登場するようになります。新しいメーカーも増え、例えば『ネコのペンおき』などの商品を製造する『クオリア』は、『キタンクラブ』から独立して生まれた企業です。どんどん業界が活性化している

 まるで暖簾分けして広まっていく家系ラーメンのようである。

 カプセルトイに夢と可能性を見たメーカーが増えていくことで、多種多様な商品が増加。専門店ができるまで市場は拡大し、現在の第4次ブームにまで発展した。

 また、大宮(埼玉県)、仙台(宮城県)、船橋(千葉県)など、日本全国のいたるところで、地元民しか理解できないだろう超マニアックな「ご当地カプセルトイ」も登場するなど、地域を盛り上げるツールにまで進化している。

少数ロットから生産が可能なガチャガチャは、“誰が買うんだろう”といった挑戦的なネタを扱えることも強み。現在、ガチャメーカーは40社ほどあって、毎月、300~400の新しいガチャガチャの商品が作られています。

 回転が早いこともあって、見かけたときに買わないと、もう買えないかもしれない(笑)。そうした消費者心理も相まって、ガチャガチャ人気は高まっているのだと思います」

ねぎの持ち運びに便利と話題の『ねぎ袋』は、第3弾が今年10月発売予定(C)tarlin

 歌は世につれ世は歌につれ─ではないが、カプセルトイも世につれだろう。カプセルトイが市民権を得ていく背景には、その時代に必ずエポックメーキングな商品と、新たな舞台装置が登場していることがわかる。

ブームではなく必然的な盛り上がり

 小野尾さんは、「ガチャガチャはブームではなく必然的な盛り上がり」と話す。

一過性のブームではなく、ガチャガチャにはそれだけ可能性があるということ。日本にはくじ文化があって、ミニチュアのものを好むといった独自の文化もあります。また、100円硬貨があることも大きい。

 アメリカは1ドル札になるので、ガチャガチャのような文化は広がらなかった。ガチャガチャは、極めて日本的なカルチャーなんですね。最近は、旅行券や食事券が当たるガチャガチャも増えています。今後は、体験を生むようなガチャガチャが増えていくのではないか

 珍しいカプセルトイを見かけると、ついついハンドルを回してしまう。ハズレを引いても妙な満足感が得られるのは、あの小さなカプセルの中に夢やアイデアが詰まっているからだろう。

取材・文/我妻弘崇

小野尾勝彦 一般社団法人日本ガチャガチャ協会代表理事、株式会社築地ファクトリー 代表取締役。1994年ガチャガチャメーカーの株式会社ユージン(現タカラトミーアーツ)に入社し、数多くの商品開発を手がける。現在はガチャガチャビジネスのコンサルティングや商品企画などを行う。著書に、『ガチャガチャの経済学』(プレジデント社)がある

 

スリムボーイの登場で第2次ブーム到来

 

ボタンを押すと「次、止まります」といった音声が流れる『バスの降車ボタン』や、実際に氷が削れる『レトロかき氷器』などユニークな商品も

 

1回1000円と高価ながら、真珠のネックレスやピアスなどが入っている『あこや真珠ガチャ!』

 

ねぎの持ち運びに便利と話題の『ねぎ袋』は、第3弾が今年10月発売予定(C)tarlin

 

ガチャガチャのイメージ写真