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 2025年(令和7年)には、65歳以上の認知症患者数が約700万人にも増加する見込みだ。これは内閣府公式HPでの見解で、5人に1人が認知症になるという。厚生労働省の資料によれば、2025年の65歳以上の人数は、およそ3657万人。全人口の30.3%を占める。同省は、2010年は2948万人(23%)と発表。ともにデータの未来予測算出方法は不明で、未認定の人数も含めるとさらに多いかもしれない。

 認知症は誰にとっても他人事ではない。自分が老親をかかえていなくても少子高齢化が進むと、介護保険料の一部財源となる、現役世代の保険額も値上がる可能性を否めないからだ。

 本記事では実際に老親が認知症になった2ケースと、筆者が目の当たりにした2例、計4つを紹介する。

いつものバスに乗れなくなっていた母

 1例目は、80代の母親が認知症になった女性、50代半ばのHさんだ。Hさんは母親とは離れて暮らしている。

「1人でバスに乗って目的地のバス停で降りられなくなったんです。母自身が電話で報告してきました。“じゃあ、どこで降りたの?”とか“迷ったんだね。どうやって家に帰って来たの?”と聞いても、“わからない”“覚えてない”を繰り返すんです。それが何度か続くようになり、“あれ? お母さん少し変だな”と心の中で思っていました」

 次第に、1人ではバスさえ乗れなくなったという。

「前日に電話で何時のバスに乗るかと、バス停の場所と降りるバス停を伝えていました。当日の朝と、バスに乗る20分前にも同じ内容を電話。そしてバスが来たとわかっている数分後にまた電話をすると、乗っていないんです。近所の知り合いに電話越しに話しかけていたのでわかりました。バスに乗れない時点で気づいてあげていれば対処ができたのに……。後悔しています」

 さらに認知症は進んでいく。

「同じことを言う、聞く、する回数が激増してきて。本人は認知症ではなく、物忘れがひどくなったと認識していたのかもしれません。私が口頭で伝えた話をメモするようになりました。“今書くから待って”と、必ず言われていたんです。実家に行くと、同じことを記したメモが山積みになっていて愕然としました。

 “認知症の程度によっては家を売却できなくなるよ”と知り合いに聞いたので、急いで入所先を検討している最中です。母に以前、“ダメになったら施設に入れて”と言われていましたし。初めてなのでホームがいいのか、施設がいいのか。とまどっています」

 この原稿を書いているときに、「実家 売却 認知症」で検索してみた。家の名義人になっている親が認知症になっても、売却できる手はあるらしい。

「盗まれた!」と騒ぎ家族を犯人扱い

 2例目は、70代後半の父親に認知症の疑いがあると話す男性、40代後半のMさんだ。彼も前例と同様に、親とは離れて生活している。

「一人暮らし歴の長い親父が、おそらく認知症です。弟と僕が交互に顔を出すようにしているのですが、最初は金庫の開け方を忘れてしまいました。“あれ? おかしいな”と感じて認知症だと見当をつけました。“現金と通帳が盗まれた!”と騒ぎ、盗んだ犯人を僕だと言い出したからです。

 認知症でネットを調べたら“財布・通帳・衣類などを盗まれたと人を疑う”という項目があり、合致しました。僕が1人で家に戻ると、父が“盗まれるのでは”と怯えて、ガタガタ震えてしまう始末です。だから弟に、親父の安否を教えてもらっています。

 僕と弟は既婚者で育ち盛りの子どもがいるし、それぞれの家には親父を引き取るスペースがない。2人とも大した財産を持っていない。弟に確認してもらったところ、親父もあまり貯蓄がないようだし借家住まい。親父の今後を弟と相談中です」

 HさんとMさんが言葉にしていた、肉親の“あれ?”という感情にフタはしないほうが賢明かもしれない。

認知症による徘徊、覚えられない暗証番号

 残り2ケースは、筆者の体験談である。2人とも女性で年齢はわからず、70代か80代ぐらい。初対面だった。

 3例目の女性には筆者が食事後、自宅へ戻るため歩いていたら話しかけられた。「◯◯へ行きたいんですけど、道を教えてください。娘の自宅があるの」と。筆者は方向音痴のため、スマホで検索するため質問した。「住所はわかりますか?」と聞くと、「わからない」との返答が。

 失礼だと承知の上で一瞬、A子さんの全身をチラリと見た。カバンすら所持していない。財布や携帯電話の有無を問うと、「持っていない」と答える。名前や年齢を聞いても「わからない」と言う。

 認知症による徘徊だ! ピンときたので、交番へ連れて行った。警察官の「よくあることなので、お気になさらず」という「よくある」という言葉が印象に残っている。

 4例目は、筆者と同じマンションに住む女性。エレベーターへ一緒に乗って挨拶をしただけなのに、「ちょっとうちに寄っていって」と誘われた。「初対面の人を自宅に招くのは危険ですよ」と注意を促しても強引だったので、「少しだけ」と応じると。

 暗証番号を入力するタイプの玄関キーがあとづけされているのに、鍵を差し込んでドアを開けた。「番号を入力する鍵は壊れた」とのこと。室内最奥には防犯カメラが設置されていたが、「何度業者を呼んでも来てくれない」そうだ。3つの前例を見聞きした後だったので、今ならわかる。彼女は認知症だったのだと。暗証番号は忘れ、業者は電話番号を間違えているのではないか。年齢とお子さんがいるかどうかは失礼だと思い、尋ねられなかった。

 先日、知人宅で分譲マンションの老朽化と住人の高齢化を扱うテレビ番組を観た。4例目の彼女は該当するかもしれない。

 家族や身内の認知症が気になる人は一度、「自分でできる 認知症 テスト」で検索してみては。「自分でできる」を入力せずに調べたら正直、認知症ではない筆者にも難しい問題があった。ご参考までに。

内埜さくら(うちの・さくら)●2004年からフリーライターとして活動開始。これまでのインタビュー人数は3800人以上(対象年齢は12歳から80歳)。俳優、ミュージシャン、芸人など第一線で活躍する著名人やビジネス、医療、経済や一般人まで幅広く取材・執筆。女性の生き方や恋愛コラムも手がける。

 

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