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 近年、急速に普及しつつある、歯のインプラント治療。ブリッジや入れ歯と比べ、周囲の歯を削ったり、噛む力が弱くなったりすることがなく、審美的・機能的にも優れており、経験者へのアンケートでも満足度が高い。

インプラントは危険?つきまとうリスク

 その一方でトラブルも増加。大きく2つに分けられるが、1つは金銭トラブルだ。

「通常のインプラント治療は全額負担の自費診療となります。現在、1本あたり、平均30万~50万円が相場です」

 そう話すのは、目黒クリニック院長の今枝誠二先生だ。ただし、外傷や病気で顎骨を失った場合などは、健康保険の適用となるという。最近では「格安」を売りにしている歯科もあるが……。

「『インプラント1本10万円』という広告があったとしたら、先ほどの相場から考えて『安い』と感じると思います。しかし、この金額は上部の人工歯とインプラント器具の価格だけを提示している場合が多い。

 実際は、ここに検査費用や処置費用、別途必要器具の費用などが上乗せされるため、治療費の総額はもっと高額になります。治療後に『こんな金額になるなんて聞いていない!』と訴える方もいると聞きます」(今枝先生、以下同)

 また、1本あたりの価格を下げても、治療期間を短くして回転率を上げれば、結果として売り上げは大きくなる。

 国民生活センターの相談事例でも、インプラント治療の相談に行った次の予約日に手術され、出血が止まらず入院したというケースもあった。

「相場より安いのは、どこかでコストダウンしているから。カウンセリングや術前検査などもあるので通院は最低でも2~3回、治療期間は3か月ほどかかるのが普通です。『すぐできる』と歯科医に言われたら、理由を聞いたほうがいいですね」

 歯科医院が取り扱うインプラントメーカーによっても費用に変動がある。現在、インプラントメーカーは国内だけで50~100社、海外メーカーを含めると150~200社にもなるといわれている。

「流通製品は厚生労働省の認可を受けた製品であることがほとんど。そこまで品質を心配する必要はありません。

 ただ、費用に差が生じる要因になるので、事前にその歯科医院がどのメーカーの製品を使っているのか、その保証期間がどのくらいかは調べておきましょう。今は“高い=品質がいい”とは、一概にはいえません」

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インプラント治療とは?
 正確な呼称は「歯科インプラント」や「口腔インプラント」。歯を失った顎骨にチタンやチタン合金などの人工歯根(インプラント体)を埋め込む。
 上部の人工歯はセラミック製などで、自費診療となるため1本あたりの治療費は30万~50万円が相場。

インプラント治療のメリット&デメリット

メリット

・ほかの治療と比べ周辺の歯を削らないで済む

・入れ歯のようにつけ外しが必要ない

・入れ歯のように噛む力が失われない

デメリット

・保険適用外のため、治療費用が高くなる

・外科的手術が必要になる

・メンテナンスを含め、治療期間が長くなる

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技術面のトラブル、過去には死亡事故も

 正しい知識を持って、研修を積めば歯科医にとってインプラント治療は難しいことではない。しかし、人件費削減のため、十分な技術を持たない歯科医によるトラブルも中にはあるようだ。

「埋め込んだ際にサイズの合わないねじ(人工歯根)を使用したことで、何かの拍子に折れて、歯茎の中に折れたねじの半分が残った状態になってしまったという事例を聞いたことがあります」

 術後にいちばん多い後遺症はインプラント周囲の歯茎や骨が細菌に感染する「インプラント周囲炎」だ。

「この病気は手術時に、器具や設備が不衛生であったり、手術前後のメンテナンスや清掃が不十分だと起きることがあります。症状が悪化すると、歯周病と同様にインプラントを支える骨の破壊が進み、しまいには抜け落ちてしまうことも……」

 インプラント治療は手術が伴うため、誰でも受けられるわけではなく、重い心疾患がある患者は受けることができない。

 感染症に罹りやすい糖尿病患者であれば、インプラント周囲炎を起こしやすいといわれている。また、術前の歯周病治療は必須だ。

 そのため、糖尿病や貧血などを調べる血液検査、骨の厚みを調べるエックス線検査、CT検査といった術前検査を行う。

 しかし、2019年に公表された消費者センターの調査結果によれば、手術前にCT検査を受けた人は6割ほど、特に検査も質問もなかった人は2割程度だった。

「安全な手術のためにはCT検査が有効ですが、義務ではありません。歯科用CTを持たず、インプラント治療を行っている歯科医院もあるのが実情です」

 2007年には事前のCT検査をしない歯科医院で、70代の女性のインプラント手術中に誤って血管を傷つけてしまい、出血が止まらない状態になったすえ、患者が死亡するという事故が発生した。

「エックス線ではわからない骨の形態や、骨の量の正確な情報の確認も必要なので、インプラントをするならCT検査をする歯科医院を選んで」

 骨が薄い上顎はインプラントが突き抜けて炎症が起きるリスクがあり、下顎は神経を傷つけて麻痺が出る可能性も。

「神経や動脈の位置などもCT検査で確認ができるので、安全な治療には欠かせないと考えています」

 また、歯科医の中には、インプラントを入れるだけで満足してしまう人もいる。4割ほどの人がその後のメンテナンスを受けていないというアンケート調査もある。

「インプラント治療は入れてからがスタートです。一般的には30年以上、持つとされていますが、これはきちんとメンテナンスを行ったうえでの寿命。

 より長く、良い状態で付き合っていくためには、患者さん自身のケアと定期的な検査や歯石の除去などのメンテナンスが欠かせません。長期的にフォローすることも、歯科医の重要な技術のひとつになります」

治療の疑問や不安は必ず事前に解決して

「私の経験上、ワルい歯科医はすぐ歯を抜きたがり、インプラント治療をすすめます。実は抜歯したほうが診療報酬の点数が高いので、歯科医の利益につながるんです。

 もちろん、重篤な虫歯などで抜いたほうがいいケースもありますが、抜歯はあくまで治療の最終手段だと考えてください」

 もしもインプラント治療を行いたいと思ったら、事前のカウンセリングをしっかりする歯科医院を選んだほうがいい、と今枝先生は語る。

「金銭的、技術的、両方のトラブルをこのカウンセリングによってある程度防ぐことができます。患者さんからも『悩みや症状』『治療の希望』『病気やアレルギーの有無』など、不安や疑問に思うことがあれば、遠慮せずに聞いていただきたいです」

 カウンセリング費用については、無料~3万円と大きく差があり、相談時間で費用が変わるクリニックもあるので、事前に確認しておきたい。

「歯科の場合、症状が出てから受診する人がほとんどで、定期的に受診される方が少ない。本当であれば、定期的に歯科に通って、歯科医に『この歯を残したい』『インプラント治療はもう少し様子を見たい』『この歯にはどういった治療が向いているのか』など、疑問や希望を伝えられるような関係性をつくれると理想的です」

 現在、通っているクリニックでインプラント治療をすすめられ、不安を抱えている人がいたら──。

「ほかの歯科医でセカンドオピニオンを受けてみてはどうでしょうか。私のところにも多くの方々がセカンドオピニオンで受診されます。

 担当医を変えることに罪悪感を持つ方もいらっしゃいますが、実際、そういったケースはよくあります。気にせず受診してみてください」

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歯科医院のココをチェック!安心して治療を受けるために
□医師のインプラント施術経験
 事前のカウンセリング時に担当医に「どのくらいの実績があるのか」聞いておく
□どこのメーカーのインプラントを使用しているか
 クリニックのホームページに記載がある場合もあるが、直接かかりつけ医に質問しても
□どのような事前検査をしているか
 顎骨の状態を三次元的に把握するCT検査などが受けられるか確認を
□治療後のメンテナンスも行っているか
 カウンセリング時、治療後のメンテナンスについても説明があるかどうか

今枝誠二先生●医療法人社団仁愛会理事長。東京医科歯科大学歯学部卒業、平成21年に仁愛会歯科日吉クリニック院長、平成29年より同目黒クリニック院長に就任。東京医科歯科大学臨床研修指導医。
教えてくれたのは……今枝誠二先生●医療法人社団仁愛会 理事長。東京医科歯科大学歯学部卒業、平成21年に仁愛会歯科日吉クリニック院長、平成29年より同目黒クリニック院長に就任。東京医科歯科大学臨床研修指導医。

(取材、文/鶴町かおり)

 

インプラント治療 ※写真はイメージです

 

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